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25.回想する薬師様(3)

 「え!?これ、こんな近場にもあるんだ。今まで、あんな遠くまで行ってたけど、これからはここで採取すればいいよね、助かる。」


 上機嫌で薬草を摘みながら、ターニャは次第に山の中へと移動していく。今まで、かなり遠くまで採取に行っていた薬草が何種類も見つかったこともあり、薬草につられ、足はどんどんと奥へと向かってしまい、止まらなくなっていた。そして、ターニャはかごが薬草でいっぱいになっているのを見て、満足げにほほ笑んだ。スカートについた土や草を軽く払うと、きょろりとあたりを見渡す。知らないうちにだいぶ奥へと進んでしまったようだ。


 (いけない!結構時間経っちゃってる。お昼の時間終わっちゃうかも。)


 慌ててきた道を戻ろうとした瞬間、風向きが変わり、微かに流れてきた匂いにピクリとしてしまう。


 (この匂い・・・・。あの夜のリラさんと同じ・・・?)


 1年経っても、あの時のリラの姿は目の奥に焼き付いている。その記憶を振り払うようにターニャはふるりと頭をふった。


 (そ、そうよ、ここは山の奥。人はほとんど入ってこないところだもの。きっと山の動物よね。・・・あ、でも、強いのが残ってたら、私、あぶない?)


匂いが強くする方へと少しずつ足を進めていく。ただ、物音は全くせず、静まり返っている。また、奥に入ってきたからというだけではなく、何とも言えない違和感がターニャをおそう。何かが違う、ただ、感覚的なもので、その何かがはっきりとはわからず、ターニャの背筋がすっと冷たくなった。

 足音をなるべくさせないように少しずつ進んでいくと、足元の薬草がわずかに踏み荒らされていた。薬草の葉に赤黒いしみが点々とついていることに気が付き、ターニャは息をつめた。そして、その先の光景にターニャの息は止まったのだった。

 血溜まり・・・・、そして、その血溜まりの真ん中には人が・・・・

 その血溜まりは、ターニャが見ている今も尚、増え続け、この人物から絶え間なく血が流れ続けていることが分かる。その様子が、リラと重なり、ターニャは思わず手で口を覆い、嗚咽を飲み込んだ。がくがくと震えていうことを聞かない足を何とか引きずり、その男の側へと近付く。

 顔色は、既に血の気が失せ、ターニャが近づいてもピクリとも動かず、意識が全くないようであった。手指すらも全く動かない。ただ、その口元にある薬草がわずかに動いているだけだ。

 虫の息・・・というのは正にこの状態なのだと、ターニャは理解した。薬など飲める状況ではもちろんない。だが、息はわずかにある、つまり、心の臓はまだ微かに動いているのだ。ただ、流れ出ている血の量、頼りない呼吸から、この動きもおそらく残り僅かで消え失せてしまうであろうことは火を見るより明らかだ。

 この男の命を繋ぐ可能性があるとすれば、それは、おそらく白の魔力の治癒の力のみだ。

 ・・・迷っている時間はない。今、目の前に失われつつある命がある。そして、ターニャはそれを助けられる力を持っている。『他人には絶対に使わないこと』、リラの声が何度も頭の中に響く。

 ターニャの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


 「リラさん。ごめんなさい。でも、見て見ぬふりなんて、やっぱりできないよ。」


 ターニャは一度きゅっと目を閉じると、自身の白の魔力を紡ぎ始める。そして、男の腕に軽く触れた。腹に刃物で傷つけられた痕跡がある。ただこれは、致命傷となるところをわずかにそれているようだ。これほどまで血が止まらないのは・・・・血を固まらせない毒とさらに、痛みを増幅させる毒が体をめぐっているからだ。

 痛みを長引かせることによって苦しませ、そして命を刈り取ることを考えた残忍な害し方であり、誰とは知らぬその者へ怒りを感じた。

 傷つけられたところを包み込むように治癒の力をその男へと注いだ。ただターニャの白の魔力では毒で侵されたところを治癒することはできても、解毒はできない。命の危機がなければ治癒でも問題ないが、この男にはそんな悠長なことは言っていられない。ターニャはつながりを感じながら、強く願う。そう、聖力による癒しを。

 ターニャにルーの聖力が流れ込み、それを男へと流す。


 (す、すごい。ルーの聖力。こんなにあっさり解毒できちゃうなんて。)


 さらに、白の魔力で傷を癒していくと、男の顔色に血の気が戻り、呼吸が安定してくる。ターニャは安堵の息をつき、その場にへたり込んだ。


 (つ・・・疲れた・・・。そして、魔力すっからかんになった感じ。こんなの初めて・・・)


 はぁ、はぁと浅い呼吸を繰り返していると、横の茂みがガサガサっと音を立てる。

 ターニャはびくりとして、体が固まってしまう。


 (も、もしかして、追手?・・・それとも、血の匂いによってきた獣!?)


 治療はできても戦えないターニャはぎゅっと手を握り、恐る恐る横を向くと、茂みからすぼっと白い顔が飛び出した。


 「ルー・・・?」


 「なー!お前何やっちゃってるんだよ!?」


 頭や体についた葉をぶるっと落として、ルーがターニャのそばまで飛んできた。


 「え??どうして、ここがわかったの???」


 「わからいでか!?あんなごっそり聖力奪われたら、いくら穏便なオレ様だって、慌てて文句の一つや二つや三つ!!言うに決まってんだろ。」


 「ルー・・・文句言うためだけに来たの・・・。」


 ターニャがじとりと見遣ると、『心配したとかじゃねーし・・・。』とぼそぼそとルーが呟いた。相変わらずのルーが嬉しくて、ターニャはへにゃりと笑った。ルーがいたからこそ、ターニャはリラと別れてもなんとかやってこれたのだ。


 「ルー、ありがとう。」


 ターニャのお礼に、ルーはそっぽを向きながら、『おぉ。』と小さく答えた。それから、気を取り直したように、血溜まりの周りをゆっくりと歩きながら、真ん中に倒れている男をじっと見ていた。


 「で、お前、こいつどーするんだ?・・・怪我人見つけたお前が見て見ぬふりはぜってーできねーだろうから、やっちまったことにつべこべ言うきなねーけどさ。」


 『つべこべ言ってんじゃん。』とぼそりと呟いたターニャの声は、しっかりルーの耳に届き、『あぁん?』というルーの睨みに、ターニャはそっぽを向く。


 「まぁ、怪我は治ったんだし、このままここに置いて行ってもいいんじゃねーか?目が覚めりゃ、自分でなんとかするだろ。血の匂いで獣が寄ってくるかもしれねーが、それは、それ。こいつの運命だっていうことだよな。」


 うん、うんと頷きながら、ルーが恐ろしいことを言う。


 「何言ってんのよ。とりあえず命の危険はなくなったけど、完治しているわけじゃないのよ。こんなとこに放置できるわけないじゃない。」


 そして、ターニャは満面の笑みでルーを見遣のだった。


 「ルー。ちょっと、大きくなってくれる?」


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