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19.逃げる薬師様(3)

話が少し進んだので、あらすじを少し修正しました。

 「おや?どうかしたのかい?」


 肉屋の店主は、足を軽く引きずりながら店先へと来た旅人だと思われる男に声をかける。今日は珍しく、初顔が多いものだと、軽い驚きも感じていた。


 「いやぁ、ダーハイに向かう途中なんですけどねぇ、悪路で足をとられて、痛めちまって。腹も減ってるし、足も痛いわで、踏んだり蹴ったりですわ。だけど、このいい匂い!足引きずってでも、きたくなりますねぇ。うっわ、うまそう。この唐揚げとこっちの串焼き。」


 眉尻を下げ、本当に美味しそうに顔を綻ばせて話す旅人に、店主は大層気を良くして話し出す。


 「お前さん、なかなかいい鼻してるじゃないかい。そうさ、この唐揚げはうちで一番人気さ。うまくて食べるの止まらねーぞ。しっかり食って、足を治して、旅を続けねーとな。」


 「ヨダレ出ちまう・・・。から揚げと串焼きを包んでくれるか?いやー、これでうまい食事にはありつけるよ。はぁ、後はこの足だよなぁ。これが治らんことには、移動できないし。困ったもんだ。なぁ、おやっさん。お医者にかかるほどの金はねーんだけど、いい薬師の噂とかしらねーか?」


 「薬師ねー。もともとこの街にお医者はいねーし、薬師と言っても、年老いたじーさんがやってる薬師の店がこの先に1軒あるだけだが、この時間じゃもう、店閉めてるしな。あのじーさん、寝るのはえーんだよ。寝ちまったら扉蹴破っても起きやしねぇ。・・・、いや待てよ。そういや、今日買い物に来てた薬師様がいたな、腕がいいかどうかは分からなんがな。店を始めるって言ってたぞ。」


 肉屋の店主は顎を撫でながら、今日来た薬師を思い出していた。旅人の男-エドの目が、何かを感じ取ったように一瞬鋭くなったが、肉屋の店主は気が付いていない。肉屋の店主がエドに視線を戻したときには、人好きのする旅人の顔へと戻っている。


 「へぇ、その薬師の話教えてくれる?診てもらえるかもしんねーし。どんな薬師なんだ?」


 肉屋の店主から、茶色い髪をした女性の薬師の話を聞き込み、ほくほく顔でエドは主君の男の元へと戻っていった。もちろん、肉屋の店主の目があるうちは、足を引きずることは忘れていない。


 事の仔細を主君の男に報告しているエドはドヤ顔で立っている。まさか、その報告を聞いた途端、主君の男がくるりと身を翻し、その薬師の店へと向かうと言い出すとは、思いもよらず。何事も言わず歩き出す主君の男に、最初に反応したのはアルフであった。焦った様子でアルフが主君の男の前へと身を乗り出し、その歩みを止めた。


 「なぜ邪魔をする。」


 不機嫌さを隠さない声、冷ややかな瞳でアルフを一瞥する主君の男に、慣れたとはいえども、緊張が走る。


 「いくら長い間お探しになっていたといえ、今から向かえば、人を訪ねるには不向きな時間となります。もし、お相手の方と良好な関係を望まれるのであれば、明日朝までお待ちいただくことが賢明です。」


 『大っぴらには言えないような、呼吸しない状態にするとか、身動き取れないところに閉じ込めるって目的なら今でもいいけどな・・・。』と背後でエドがぼそりと呟く。『探す』ことを命じていることから考えると、前者はないとは思うが、念のため付け足した。二人の言葉で主君の男の足はぴたりと止まり、考え深げに手を顎へとかけた。


 「できうる限りの早さより、時間を考えたほうが・・・印象が良いのか?」


 主君の男の視線が動き、その視線はアルフを素通りし、ケインでぴたりと止まる。ケインは、その視線が自身に止まったことで一瞬びくりとしたが、いつものような鋭い視線ではないことに驚きを禁じ得なかった。答えを求める主君の男の視線に、昨夜会う約束をしていた女性を思い出しながら、ケインは話し出す。


 「そうですね・・・無作法を厭う女性は多いです。訪れる時間はその親密さにもよるかと。」


 主君の男のいつもとは異なる様子に、思わず、『ただ、僕は断然夜に会いたいですけどね。』と付け足してしまい、アルフの拳をわき腹で味わうこととなったのだった。そして、『顔か、顔で判断したのか。』とぶつぶつと文句を言いながら、エドはマントの下からケインの背中を平手打ちしたのだった。


 馬を預けた町はずれの宿屋に戻ると、夕食の時間には少し遅い時間となっていた。エドの戦利品である唐揚げと串焼きと宿屋の夕食の残りの野菜のスープを酒の肴に、4人の男がテーブルを囲む。黙々と野菜スープを食す主君の男は、飲み終わったお皿をじっと見つめ、考え込んでいる様子であった。あっという間にスープを平らげたことに気を良くした宿屋のおかみが、皿にスープを追加した。主君の男は、また黙々とスープを食したのだった。野菜しか入っていないスープは、味も薄い。はっきり言えば、お替りをしたくなるような代物でもなく、城の食事と比べることもできないほど貧相なものだ。エドは、そんな主君の様子を訝し気に見ていた。



 漆黒の闇を思わせる真っ暗な空にわずかに光を落とした薄闇が訪れた途端、主君の男が動き出した。静やかに身支度を整えると、ひそやかに扉を開けた。扉前に詰めていた明け方の護衛担当であったケインは、剣の柄に手を添えたところで、主君の男を認識し、驚きに目を見張る。ケインと目があった主君の男は、『朝だ。』と端的に伝える。


 「えぇ・・・。朝訓練をしている時間が朝ではありませんよ・・・。こんな時間じゃ、夜襲か夜這いとおもわれますよ。」


 「夜這い・・・・それは困るな。」


 主君の男がくるりと身を翻し、部屋へと戻ると、ケインは安堵の息を吐く。薄く開いていた隣の部屋の扉がそっと閉る。扉を閉めたアルフの横にいたエドが見悶えていた。


 「え、なんかめっちゃ面白いだけど。もしかして、まさかと思ってた色恋沙汰なの!?あの主が??うっわー、俄然やる気出てきたわぁ。

  それにしても、主と色恋って全く繋がらんなー。うーん、やっぱり、あの時かな。」


 「それしかあるまい。」


 答えるアルフの声に、大いに頷くエドであった。


次はとうとう対面します。

そして、ここに来てやっと、主君の名前が出てきます(隠すほどの名前ではないんですけどね・・)。

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