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11.奔走する薬師様(1)

 パーンといい音をさせて、シーツをのばし、物干しへとかける。カイリの魔力開花から1カ月が過ぎ、日差しに暑さが感じられるようになった。

 季節は初夏へと移り、丘には初夏を告げる菫の花が咲き乱れるようになる。カイリの瞳のような色の菫もあれば、白い可愛らしい花もある。菫の花も葉も根も薬草の材料にもなり、乾燥してもその効力が失われない。そのため、ターニャが洗濯を干したり、裏の畑の世話をしたりと外に出ている時は、カイリがルーとともにせっせと菫の採取をしている。昨年は、ターニャの見真似で花をぶちりと引き千切るだけであったが、今年は、『こっちはおはな、こっちははっぱ、こっちはねっこよ。』と楽し気に仕分けしているのだ。カイリの成長にターニャの胸がほっこりと温かくなる。

 ただ、ほんの稀だが、根に毒をもつものもあるため、注意が必要なのだ。


 「カイリ、お花採取する前にルーに見てもらうのよ。危ないものもあるからね。」


 「はぁーい、かーさま。」



 ターニャの声掛けに、カイリは満面の笑みで返事を返した。ルーは、先生気取りでカイリに、『これはいいぞ。3つに分けるのだよ、カイリ。』と少し偉そうだ。そんな姿も微笑ましく、我知らず、笑みがこぼれてしまう。

 カイリを身籠り、そして、生み、育てることは、ターニャの想像以上に厳しいものだった。分からないことだらけにもかかわらず、頼れる人はおらず、心細い思いも何度も経験した。そんな中でも、カイリの笑みを見るだけで、頑張ろう、前に進もうと気持ちが奮い立ったものだ。カイリも成長し、薬師としての仕事も安定し、今やっと穏やかな日々を満喫できている。このまま、この日々が続くことを祈らずにはいられなかった。

 そして、また、リラのことが浮かんでくる。なぜ、3年も戻ってこられないのだろうと。

 リラと一緒に暮らしていた頃、リラは常に何かを警戒していた。そして、その何かの兆しがあると、住処を変えていた。結局、リラからは何を警戒しているのかを聞けておらず、ターニャは何から身を守ったらよいのかが分からないのだ。

 ルーは何かを知っていそうではあるのだが、しっかりとは答えてくれない。聖獣は契約者の中に全く存在しない情報については、口に出せないことになっているのだそうだ。あの迂闊なルーがうっかり口を滑らせないところを見ると、かなりしっかりとした制約なのかもしれない。

 考え事をしていると、つんつんとスカートが引っ張られ、ターニャははっと現実に戻った。すぐそばにカイリが来ていたのだ。


 「かーさま、だいじょぶ?おかおのいろよくないのよ。ねんねする?」


 心配そうな顔をしたカイリが愛しくて、ターニャはしゃがむと、きゅっとカイリを抱きしめた。


 「大丈夫よ。ありがとう、カイリ。ちょっと日差しが眩しかっただけよ。」


 いつもターニャがするように、カイリはターニャのおでこに自身のおでこをぐいっとくっつけた。


 「おねつない、ないね?」


 「そうよ、お熱はない、ないよ。」


 そして、二人で笑い合った。穏やかな、本当に穏やかな日々であった。



 その同じ頃、街で-


 「あれ?あんた?前にお医者さんを探していた人じゃないさ?」


 店先で通る客を見ていた肉屋のおかみさんは、一人の人物を見つけて、声をかけた。それと同時に小走りに外へと出てきた。そして、その人物を再度見つめて、にかっと大きく笑った。


 「そうだ、あんただ、あんた。お目当てのお医者さんは見つかったんかい?」


 日よけのマントの下の服はシンプルな白のシャツと旅用のズボンであったが、素材は良さそうで、やはり裕福な家の者だとわかる男だ。そして、よく見ると、体格もよく、只の商人という風体ではない。


 「いや、なかなか・・・・。」


 「そうさねー。ここいらはお医者さんなんてもんは、ほとんど立ち寄らんさ。そうそう、あんたにまた会ったら、とっても腕のいい薬師様を教えてやりたいと思っとったんさ。」


 「薬師様・・・?」


 男は訝し気な面持ちで肉屋のおかみさんを見つめた。


 「街の外れに薬師様の店があるんさ。そこの薬師様の薬が、まー、良く効くんさ。あたいも起き上がれないくらいひどい痛みがあったんけど、今ではほれこのとーり。すっかりよくなったんさ。あんたんとこのお嬢様も診てもらったらいいけん。」


 早口でまくし立てるおかみさんに男は圧倒されているようであった。おかみさんの自分の病の症状、薬師様がどれほどいい薬をくれて、と話は果てしなく続いていた。そして、最後にふと思いついたように、付け足した。


 「そうさ、薬師様も茶色い髪の女性さね。」


 すると、男がぴくりと反応した。おかみさんは気が付かなかったが、目つきが一瞬鋭く光った。


 「その薬師様のお店には、何か動物とかいたりしますか?動物がいると、心癒されると言いますし。」


 「おや?あんたんとこのお嬢様は動物好きかい?白い変わった鳴き声の犬がいるさね。店にもちょいちょい顔出しているさ。」


 「ほぉ。」


 自分の話に夢中になっているおかみさんの目には男の目つきが変わりだしたことは映っていない。


 「まぁ、一度行ってみんさい。あぁ、薬師様は一人じゃないさね。『いい男』と一緒さね。」


 そして、豪快に笑うと、男の肩をバシンと叩いたのだった。


だんだん、ラブに近づいてきました。

これは、もちろん、恋愛がメインです。辿りつくまでが長いですが・・・・

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