12. 『休憩』
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戦利品を回収した後、ミノタウロスの死体を焼いて処分した。
戦闘の後処理は空間の端に寄せて山にするだけ。時間が経てば迷宮が魔力に変換して吸収してしまうので異臭や病、アンデット化の心配がない。
「さて、と。早速採掘を始めましょうかねぇ」
ユウリは戦利品を《魔法の(・)鞄》をしまい、ツルハシを取り出して肩に担いだ。
「そのツルハシ、普通のじゃないよね?」
「あ、わかる? 《鉱人の鶴嘴》ってドワーフ御用達の魔道具の鶴嘴さ」
弾丸の材料となる《魔鉄鉱石》を大量に採掘する際、重宝している鶴嘴の魔道具は、小さな力でも硬い岩盤を砕き、鉱石採掘という重労働を楽にできる便利な道具だ。
意気揚々と採掘の準備をしているユウリに、杖を構えたラリアが近づく。
「では、ユウリ。私の魔法でお手伝いします」
「ああ、いいよ。ラリアは温存のために休憩してて。それと、セシリアもな」
横でやる気満々にしているセシリアを指を差す。
「私はまだまだ元気が有り余ってるから平気。それに元々お手伝いをする気でいたし、ユウリだけにさせるわけには――おっ、とと、とっ!?」
後ろに倒れそうになるセシリアを、ユウリは背中に回り込んで支えた。
「ほれ、今日の功労者はなんだからしっかり休めぇ」
「うぅ……ゴメンね。手伝うって約束したのに」
「気にすんなよ。それより大丈夫か? 体調とか、気分とか」
「体に力が入らないのと、気怠い感じがあるくらいかな。ちょっと休めば平気」
「あいよ」
ユウリは、置く動作をするとともに、虚空から折り畳み式の小さな椅子が現れ、そこにセシリアを座らせた。そして、ラリアの分の用意して座るよう促した。
儲けた休憩スペースの中心に虚空からオイルランプを取り出して置く。
「さーて、働き者の皆様の鋭気を養ってもらうには、なにが良いかなぁ」
手袋を外したユウリは手をすりすりしながら、置く動作とともに、虚空から調理器具や食材を取り出し、湯を沸かしている間に食材のレモンを切り、沸いたお湯で紅茶を淹れ、切ったレモンと蜂蜜を突っ込んでかき混ぜる。
手際よく、迅速に、ものの数分の出来事。それを二人は呆然と見ていた。
「ほれ、あとこれもあげる」
ユウリは手から《体力魔法薬》を瞬時に出して手の届くところに置く。
「ユウリ、今どうやって出しましたか?」
ラリアが目を見開いてそう訊ねる。
「え、手から?」
「そうですが、そうではなくて! 瞬時に手から物が出てくる事態おかしな話ですが、ユウリのそれ、魔法か魔術の類ですよね!」
「うーん……、……あたりだ。これは刻印魔術の『虚空倉庫』だ」
一瞬、ユウリは言うのをためらったが、彼女たちなら問題ないと思って打ち明かした。今回ばかりは、いつもの感覚で普通に使ってしまった自分が悪い。
「有体に言うと《魔法の(・)鞄》だな。上限とか制限はあるけど、瞬時に収納と取り出しが可能だ。人や魔物、生き物とかは無理だな」
刻印魔術である〈インベントリ〉を軽く発動し、手から腕にかけて刻まれた刻印を浮き出させて見せた。すると、即座にラリアが手を取った。
「すごい! こんなのオーバーテクノロジーじゃないですか! 魔道具? アーティファクト? 専用の道具が必要だと聞きますが、これを私に教えてもらうことはできますか!」
魔法関連になると興奮するんだな、とユウリは思いながら少し困った。
「ああ………………すまん。他人に刻んでもらったから教える方法がわからないんだ」
「そ、そうですか。無理を言ってすみませんでした」
先程の勢いを失ったラリアは肩を落とした。
「………………」
「……。そんでさ。そろそろ手を離してほしいんだけど?」
「え? あ、ああ! す、すみません! 気安く触ってしまって!」
気づき、慌てて距離を取るラリア。
「あら、ラリアったら大胆」
「ちっ、ちが、私は!」
「ホントにぃ?」
「本当に違います!」
必死に否定すればするほど、セシリアは含みのある笑みを浮かべた。
「狙うほどの気持ちなんて毛頭ありません!」
その言葉は普通に傷ついた。ユウリは否定されるだけ気分が沈むが、ホント仲いいな、と呑気に思いながら、できあがったレモンティーをコップに注ぐ。
「はーい、できたよー」
レモンティーを二人に渡すと、「ありがとう」「ありがとうございます」のお礼を貰った。
「温まるぅ」
「そうですね。それに、とても美味しいです」
それはなにより、とユウリは思いながらボウルに移したクッキーを取り出し、
「お茶請けにバタークッキーでもどうぞ」
中心に置いた。
「えっ、良いんですか? 随分と高そうな菓子に見えるのですが?」
「そんな大層なもんじゃないよ。バターなんて塩突っ込んで振ればできるし」
「そういうわけじゃ」
「んじゃ、ごゆっくりぃ」
呼び止めようとするラリアを無視して、ユウリは足早に採掘ポイントへと向かった。
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