89.シルヴィアの風④
シルヴィア編終了。
シルヴィアは両手を広げた。
意識を一つにして、集中する。
全身で風を感じ取り、受け流すように、体を軸にして感じ取る。
「おいおい、無防備すぎねぇか?」
「・・・」
シルヴィアは集中していた。
声は耳に入らない。
そのことに苛立ったのか、ボーティーは溜め込んでいた暴風の弾丸を指先から放った。
「これでも食らっとけぇ!」
そう言って渾身の力で撃ちだしたのは、体内に流れるほぼ全ての魔力だった。
人差し指がピンと張って、指先から血が出る。
裂けたようだが、シルヴィアは動かず、過去へ逃避行していた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
それはシルヴィア・リューネラが幼い頃のこと。
「ほらほら、シルヴィ。そんなんじゃ、風に好かれないよ。もっと、風に好かれるようにやってみないと」
「風に好かれるって、そんなわからないですよ、師匠」
「うーん。じゃあこう考えてみて。風は友達」
シルヴィアは首を傾げて、ポカンとした。
すると、師匠はこう答え返した。
両手を広げて全身で風を受け止める仕草をしてみることだった。
「こうやって両手を広げてみて、ほら風がささやいてくれる」
「声なんてしませんよ」
「ほらほら想像力足りないよ。こうして、風を受けると最初は通り過ぎちゃうけど、話してくれるでしょ。だから後は耳を傾けてあげるの。それが出来たら、きっと風は応えてくれるから」
師匠はそう言った。
だから信じてみることにした。
風が抜けていく。でも時々囁いてくれる。
「勝利の風は常に吹いている」——
※※ ※ ※ ※ ※ ※
シルヴィアは動じなかった。
常に勝利の風は吹いている。それだけじゃない。風は友達になってくれる。優しい風は、常に無風の時でも傍にいる。
それがわかるから、シルヴィアは動かなかった。
「風を感じる。でも悪い流れの風ね。流石にこの風は、受け流さなくちゃいけないわね。師匠、落ちからお借りします。《風包み》」
風が止んだ。
全てシルヴィアの手の中に還っていく。
ボーティーはそのことに気が付いていた。しかし、既に時は遅い。風はシルヴィアの手の中にあった。
「な、なに!? この俺の暴風がぁ!」
「これが勝利の風よ、師匠みたいに上手くはいかないけど、《風・爆》!」
ボーティーの懐に、集めた風が閉じ込められたまま放置される。
するとシルヴィアの指慣らしを合図に、風が爆発した。とんでもない衝撃と突風が起こるが、閉じ込められていた風は、解放されるとともに、ボーティーの服を引き裂いて、瞬間的につむじ風みたいになった。これが、《風・爆》で一度解放されれば、周囲を風の爆弾が破壊する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あ……あああっ……ああ……あ・・・」
ボーティーは何度もバウンドしながら空中と屋根の上に体を叩きつけられた。
全身が血だらけになるだけでなく、酷い痣ができる。これはもはやシルヴィアの魔術じゃない。単純な、自然現象が起こした現象だった。
しかしその影響はシルヴィアにも出ていた。
「ぐはぁ! はぁはぁはぁはぁ。流石に、魔力が保たない……わね。これじゃあ、自滅覚悟みたいで、笑われちゃうわ……あはは、はは……」
シルヴィアの体もボロボロだった。
もう力もない。剥き出しになった血管が痛んだ。
ボーティーは、白目になって息もしていないが、まだ心臓はギリで動いているみたいだった。
「後は頼んだわよ、ルカ。それとライ、絶対に負けちゃ駄目だからね。私は、少し眠らせてもらうわ」
風が優しく包んでいた。
重さはない。気圧も関係ない。
ボロボロになりながらも、シルヴィアは戦って勝った。その意気を感じたのか、風たちは舞い踊り、シルヴィアの体を休ませることに必死となり、彼女はしばし眠るのだった。
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