81.ダリアの過去④
ダリアは強いよ。
ダリアの視界は赤一色に染まっていた。
すでに意識はない。
その手に握られた金属の剣は、赤く染まり、鬼に変わっていた。
しかしその光景を目撃して、二人のメイドは心配するより先に、名前を口にする。
「「ダリア様?」」
「ううっ」
しかし声は届かない。
剣の切っ先が、竜車の中を擦るながら、その足は外に向かっていた。
まるで敵を認識しているような、複雑な挙動はしない。
ただ感覚が捉えた敵を、無骨に殺すだけの生きた剣だった。
「くそっ!」
「タイチョー、このままでは戦線が突破されます」
「大丈夫だ。竜車の中にはメイドがいる。それにいざとなれば、ダリア様自ら、その手を下されるはずだ。我々のお守りするものを、信じろ!」
「しかし!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
隊長を任されている騎士の男は、大剣を押し込んだ。
すると、男の体が態勢を崩し、そのまま胸を貫かれた。
しかし数は多い。少なくとも、後八はいる。
このままではジリ貧で、死亡する。そう確信した時だった。悪寒がしたのは、この場にいる全員だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な、なんだコイツはぁ!」
「し、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「あ、熱い。熱い熱い熱い熱い!」
耳をつんざいた男達の声。
騎士達は目を疑った。
一瞬光が灯ったかと思えば、それは炎で、剣が灯っていた。
赤い血が固まり、焼けた臭いがする。
「あ、あれは何ですか……」
「ダリア様だ。ダリア様しかいない!」
そこにいたのは、剣に炎を点火させたダリアだった。
まるで処刑するみたいに、その剣は男達の胸を貫く。
最後の男に至っては、逃げられないように、押さえつけられ、何度も何度も貫かれる。最低最悪の剣士の誕生だった。
「や、やめてくれぇ。も、もうやめてくれよ。頼む、殺すなら、もっと楽に、もっと楽によぉ!」
しかしダリアの耳にその声は届かなかった。
男の声も騎士の声も、悲鳴も何もかも聞こえない。
ただ敵を殺すため、本能も覚醒したままで、剣士としては最高だが、既にその心はボロボロだった。
「あ、あああ。あっ、あ、あれ?」
ダリアは顔を歪めました。
真っ赤な血で服も髪も顔も全部汚れ、その手に握った剣は年齢に満たない大きさなのにも関わらず、血で固まっていた。
もはや自分ですら理解ができた。
ダリアは頭がよかった。
「わ、私は。私は、私は。あ、あああああああああああああああ!」
何かが砕け散った。
壊れたのは肉体じゃない。
心が破裂するみたいに、ばらばらに砕けてしまい、ダリアは戦えなくなっていた。
完全に敵がいなくなった今、その必要もないのだが、夜はもう続かなかった。
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