766.風刃麗姫2
ルカの戦いの裏には、こんなことが起きていました。
時は少しだけ遡る。
本当に少しだけ。あの日の夜。
ルカがドンペルだった何かと戦っている最中のことだった——
「ふぅ。嫌な風ね……」
ポツリと吐く女性の声。
建物の屋根にしゃがみ込み、何やら状況を観察している。
魔力を極力抑えると、全身を風と同化させた。
「あっちは山の方? なんだか騒がしいわ」
視線を飛ばし耳を澄ませる。
普段は隠しているのだが、今日は頭から長いウサギの耳が飛び出す。
そのおかげか、風に乗った音をバッチリ拾った。何やら騒がしくて耳障りだ。
「でも、あっちには手を貸せない。貸している余裕は無いわね」
恐らくは密猟者を捕らえに向かったに違いない。
放置していたつもりはないが、それでも数が多かった。
女性一人では対処しきれない……こともないが、目立った動きは避けていた。
今日、この時間帯に動いたのは、談合があったのかもしれない?
それとも、何か特別なことでも起こったのだろうか?
ここ一ヶ月近くで手に入れた情報を基に、簡単に推測する。
その読みは当たっており、密猟者を捕縛しに向かったのだ。
「さてと……一仕事にするわよ」
女性は手を貸しに向かうことはしない。
それよりもやるべきことがあるのだ。
ピンク色の瞳を向ける。
月が出ていればより鮮やかだったに違いない。
纏った白い霧に溶けてしまいそうなコートをたなびかせると、風に舞い、腰に携えていた剣をカチンと音を立てて抜いた。緑色に輝く蛍光の刃が、暗闇の中で淡く輝いた。
「来い、【木枯らし】!」
女性は魔術を唱えた。否、これは魔法だ。
固有魔術の筈が、その実力は既に魔法に至っている。
鞘から抜いた剣の剣身に風が纏うと、突風が嵐となり、視界の先の標的に放たれる。
「私が相手をするのは……貴女達よ!」
剣を振るうと、風が舞った。
建物の屋根を微かに掠め、音を上げて襲い掛かる。
視界の先に居るのは七人の女性達で、その手には得物が握られている。
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォ!!!
けたたましい轟音が炸裂した。
それに合わせ、狙い通りに七人の女性を巻き込んだ。
嵐に吹き上げられると、全身に鞭を打ち、そのまま町の外れまで連れ去った。
「とりあえずこれでいいわね。あっちは私がやるとして……」
女性は視線を飛ばしていた。
七人の女性達が消えると、その場に残ったのは二人。
一人は男性、もう一人は少女だ。
男性のことはこの町に滞在して一ヶ月で怪しんでいた。
妙な魔力と音を聞いていたが、その読みは正しかったようだ。
本当は女性の相手は男性の予定だった。
けれど男性の相手を別に任せられる少女が現れたのだ。
それこそ、突然の風に困惑して、呆けている少女。冒険者ギルドで出会った圧倒的強者だ。
「私の存在に、気が付いている?」
一瞬の間が開いたのは恐怖の表れる。
決して殺気が飛ばされている訳でもないが、魔力で勘付かれたと思う。
これだけ距離を取っている。少なくとも一キロはある。この程度では範囲外に出ることは出来ないようだ。
「一体どれだけの修羅を乗り越えて来たのよ。心底恐ろしいわね」
女性もそれなりに鍛えてはいるつもりだ。
そうでもしなければ、このような危険な真似はしない。
それでも少女には勝てるがしない。
それは経験故の直感で、過去に三度、本物の魔法使いに挑んだことがある。
その時は今よりももっと未熟だった。
自信はあったものの、魔術師と魔法使いでは決定的な差がある。
埋めることの出来な必然の差。女性は高い壁に敗北したが、視線の先にある壁は、より一層高く見えた。
「見た目では判断できない、と言う訳よね」
少女の見た目は少し賢そうなだけ。
特に気負うことは無く、寧ろて気を作りそう。
そんな子供のような愛らしさは無いが、やはり見た目では中身は判断出来ないのだ。
「とは言え、この先出会うことは無いでしょうね」
女性は少女に出会うことは無いと割り切っていた。
魔法使いを相手にするのは骨が折れる。
恐怖心を胸に仕舞い込むと、代わりに屋根を蹴った。
高く跳び上がると、その姿はまるで空飛ぶウサギ。
厳密には助走を付けずに跳躍したのだが、そこに風属性の魔術が加わる。
付加された風が、女性の背中をソッと押した。
清々しい秋の風を纏うと、美しい姿を晒す。
蛍光グリーンの剣身を晒し、七人の女性達=恐らくは暗殺者達を追う。
「けど、面白いわね。まさか、東の島でこんな魔術師と……いえ、魔法使い? とでも言えばいいのよね。出会えるなんて」
もはや魔法使いの域にまで達している。
何故そんなおとぎ話を羅列したのか。
無論、女性の魔術が既に、魔法に至っているからだ。
末端ではあるものの、触れることが叶っているのだ。
「あの子の……ハルウラの弟子? は元気にやってるかしら。まさか、私の口調を真似していないわよね?」
ここで言及する名前。“ハルウラの弟子”に“真似た口調”。
誰のことかはさておくとして、不意に思い出してしまった。
否、忘れたことは今まで無い。
「はっ!」
屋根を改めて一度蹴飛ばした。
体がふわりと浮き上がると、余計な思考を切る。
暗殺者達をただ追い掛けると、その瞳は何を見た?
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