46.準備段階から
グロリア。三魔女の一人です。
ちなみに残りは、ルカとセレナ。
魔術運動会。どっちかと言えば、レクリエーション、みたいな面の方が強い。
それは準備段階からせっせと始まっていて、それこそ今に至る。
「うわぁ」
「ほいほいほいほほほーい!」
上手い。そこにいたのは、面識もない、二年生の男子が、ジャグリングをしている姿だった。二年生は、予選にも本選にも参加できない。そこで、こっちに全力を向ける。
これは魔術を使わないから、安心安全。健全なパターンだった。
多分、初日に向けてなんだろうね。ルカ達には関係ないが。
ルカ達は、作業をあらかた仕上げた。
それから木の板をのこぎりで切ったりして、張りぼてを作る。
そのための塗装の買い出しを任されたんだ。
「塗装って。何で、使い回しがないのかな」
ルカは考えていた。
まさかじゃんけんで負けて買い出しに行く羽目になるとは。でも、今回はわざと負けたといってもいい。
セレナとたびたびじゃんけんをして、相手の手の形や動きから、何を出すかを瞬時に把握する。それができるのは、ルカの経験上、可能になったからだった。
要するに、理論上負けることはない。
だけど今日は負けた。だって、教室で箱詰め。しかもシルヴィアの長々とした下りを延々と聞いていると、お昼を食べ損ないかねなかった。それだけは流石にない。
「流石にこんな時代になってまで、食い損は困るもんね。それだけは死活問題だよ」
今頃、ライラックは半目になって寝ぼけている頃だろう。
ルカはそんな彼女たちの優雅な姿を頭に思い浮かべて、不意に周りの様子を見て回った。ルカの視線を遠くを見ている。視野が広いのはいいことだ。
中には、単純に魔術を使って、レクリエーションや競技に尽力する姿もある。
それこそが本当に見たかったもの。
この世界の魔術に、より関心を深めるためにも、この世界の動きを把握することは必要だ。それにしても、
「何で杖を持っているのか、不思議なんだけど」
「それはですね」
「ナタリー」
また聞こえてきたのは、ナタリーの声だった。聞き慣れているから、よくわかる。
それにしても、神出鬼没だ。
ナタリーは昔から、こうだったのかと言われればそうでもないが、突然姿を現すことは比較的多かった気がする。しかしもっと多かったのは、アイツだ。
けれどアイツの場合は、神出鬼没じゃない。そんなレベルではなく、そこにいてそこにはない。それこそがまさに相応しい。
「アイツは。グロリアは今頃、何処で何をしているんだろうな」
「ルカさん」
その瞬間、冷酷な視線がルカを見下ろす。
冷たい視線の正体はナタリーのもので、周りも動けなくなる。
「ナタリー。分身体のくせに、さっきが強すぎるよ」
「ですがルカさん。あの者は、危険人物です。馴れ馴れしくされては困りますよ」
「別に仲が良いわけじゃないよ。でも嫌いでもない。ただそれだけの関係だよ」
「ですが!」
ルカは淡々としていた。それほどまでに、グロリアとは恐ろしい人物。それこそ、ルカにも匹敵する魔法使いだった。
だけど、今も生きていることは確定。ルカはそれすら計算の内で話していた。そんなに恐ろしい相手かどうかは、実際に対峙して死闘を繰り広げなければわからない。
それこそルカは、冷静だった。
ごくりと息を飲んだ。
ナタリーは、冷汗をかいていた。
「まさかナタリーは、私がいざグロリアと戦って、負けると思う?」
「それは……」
「セレナにも、単純のパワー勝負以外なら勝る私が、グロリアの魔法に、他の人の魔術を止められないと思う?」
「そんなことはありません。何せ、貴女は……」
「そういうことだよ」
これが強者の余裕と言うことだろうか。
それとも違うのか。単に強情なだけではない。ルカは、強い。誰よりも強い。
それは自負していなければ、いざ本当が崩れれば効力を失いかねない。
しかしそれはない。今後一切ない。ナタリーはそう悟っていた。
「それじゃあナタリー。私は行くよ」
「は、はい」
ルカはその場を離れることにする。まだ青いペンキを買ってきていないからだ。
ついでにご飯も買ってこないと、このままじゃ放課後が終わっても、夜までかかる。
ぶっちゃけ、選手よりも準備の方が大変だった。
それがわかっているから、発端は自分だからこそ、ナタリーは止めたりしない。内に秘めた心の檻を外すことはなく、箱に鍵をかけて、ルカには黙っておくことにした。
何故なら、
「ルカさん。グロリアとは、本当に恐ろしい魔女ですよ。貴女が強すぎるだけです」
ナタリーは恐れていた。
魔女の称号を欲しいままにする彼女たちを。下手に出ることを嫌うのではない、しかしあの女だけは虫唾が走って、血眼になる。
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