31.秩序の名のもとに
こっからしばらくバトル回。
秩序の名の下に、悪を滅する。
そこに誰かの足音が響いた。
ルカはすぐさま察し、シルヴィアたちと柱の裏に隠れる。
身を潜め、ちょっとだけ顔を出して様子を窺った。
「この気配は……」
「誰なのかしら?」
ルカはこっそり覗き、シルヴィアはライラックの頭に顔を乗せる。
重たそうに顔を顰める。
しかしライラックは周りに注意を張り巡らせる。糸のように。
・・・なんでもない。
「気配はしないねー」
「そうだね。でも誰かは近づいてる。ほら、聞こえるでしょ」
ルカは二人にも耳を澄ましてみるよう誘った。
すると遠くの方から確かに誰かが歩いている音がする。
コツンコツン。石畳の上を革製の分厚い靴裏で歩く音だった。
「誰か来たわよ。あれは……えっ!?」
「静かに」
「ご、ごめんなさい」
ルカは小さな悲鳴を上げようとしたシルヴィアを叱りつけた。
しかし無理もない。
何せ落ち着いているライラックや凝視しているルカでさえ、まさかと思った。
だけどルカだけはその先を見ている。
今現状、そこにいるのは一人の女性。
黒い髪に、黒い服。すらっとした立ち姿はモデルのようで、高尚で風雅な印象が極めて色濃く出ていた。それこそ秩序を守る高尚性の塊のようだった。
「ノーブル・V・シュルベル……」
「でもなんで先生が……」
ルカたちは訝しんだ。
まさかノーブル先生が、二人の思考には嫌な妄想がふつふつ膨らむ。
けれどルカは違った。
もう一つある気配。それは当然、ノーブルにも見える範囲だったが、残念なことにルカたちには気づけなかった。
何故ならすでに《インビジブル》を発動している。
「ここが祭壇場跡ですか。思った通りでした」
ノーブルの声が聞こえた。
広い部屋だ。声が広がり反響する。
「出てきなさい。そこにいるのは分かっているのよ」
ノーブルは声を張った。
シルヴィアたちは自分たちのことだと思い勘違いするが、ルカに袖を掴まれて制止させられ、おどおどし始める。
だけどビビっても平気だ。何故ならルカの魔法は完璧だった。
それ故、ノーブルが言ったのは別。自分の視線の先、祭壇の奥の暗く影になった所から魔術師のローブを着た人の姿があった。
フードを目深に被り、その顔は見られないが、ひょろひょろな体つきと感じ取れる魔力の波動は不気味だった。
確実に男。
それだけじゃない。負の魔力エネルギーを秘めていた。
「よくぞここが分かりましたね」
「苦労しましたよ。貴方がボロを出して、今回のような騒動を起こしてくれるのをね」
「ほう。では最初から」
「ええ。貴方の正体も何もかもです。そうですよね、ロッセル・デイモンド!」
まさかの名前だった。
しかしノーブルがそう告げると、風が巻き起こり、フードを吹き飛ばす。
目深に被っていたはずが、ノーブルの魔力に乗せられた風の魔術がフードを弾いたんだ。
「くくく。くははははぁ!」
男は笑っていた。
高笑いに似たもので、陰惨とした乾いた笑いだった。激しく悪寒と虫唾が走る。
「よく分かりましたね。ノーブル先生」
「貴方が事件の首謀者であることは私が講師として着任してからすぐに知れましたよ。そもそも私は貴方をここで殺すために来たんですから」
「ほほう」
ノーブルの口から出たのはかなり物騒な言葉だった。
強い言葉にはそれだけ感情が乗りやすい。
ノーブルの発言には重みと、覚悟が表れている。
「私を殺す? 偉く物騒ですね」
「そうですか? 今まで貴方が行ってきた非人道的な行いの方が物騒に感じますが」
「それは貴女もでしょう。私と同じ臭いがしますよ」
「そうですね。ですがそれこそが魔術師としての性分みたいなものですから、仕方ありませんよね」
ノーブルは相手が誰であろうとその姿勢を崩さない。
しかしロッセルもそうだ。
ノーブルはまたしても嗚咽が混じる。何故ならそんな我物顔で来られても仕方ないからだ。
「ではいいじゃないですか。それにいいんですか? こんな時間にわざわざこんな人気のない場所に来て。死にに来るようなものですが」
「心得ています。それに貴方もでしょう」
ノーブルの死招く言葉に誘われてロッセルもピリつき始めた。
完全にボロが出ている。
だがしかしそれで調子に乗ったりはしない。
「いいですよ。貴方がその姿勢を崩さないのなら勝手にしてください。ですが私は……」
ノーブルは白い手袋を引き絞った。
それから手の甲を相手に見せつつ、
「貴方を排除します。私の秩序の名の下に」
明らかな決め台詞。
ルカはそう思いつつ、完全にステルスしていた。
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