198.ダリアと得物④
水の梶木剣VS炎の鉄剣。
海域の剣士マーリング。ダリアは男のことを話だけでも聞いたことがあった。
けれど実際に会うのは初めてだ。
こことは離れた港町にて両氏を営む男は海域の剣士として有名だった。
何故なら、男の左腕が長い剣になっていることがその由縁にある。
「そうだったんですね。その左腕はカジキの吻だったんですね」
「バレたら仕方ないな。悪いが、ここからはもっと速いぞ」
マーリングはダリアに向かって左腕の長い柄の剣を振るった。
あまりのしなやかで、カジキの吻らしく得物を突き刺すような動きから独特な叩きつける動きに変わった。
ダリアは一瞬の隙を突かれて胸を貫かれそうになったら、間一髪のところで炎を出して攻撃を掻い潜った。
「はぁはぁ……《ファイア・シールド》を出していなければ危なかったですね」
「それだけ余裕があるということか」
「余裕はないですよ。でも海域の剣士と手合わせができて、私は嬉しいです」
「嬉しい? ……わからない感情だな」
「そんな! 私の聞いた海域の剣士は、笑顔が素敵な漢だって聞いたことがあります!」
「それは過去の俺だ。今は雇われの剣士。……それが俺の得たものだ」
何か裏があるのは明確。
しかしダリアは構っていられずに、大剣を突き出してカジキの吻を弾こうとした。
けれど一回弾いた吻がバウンドしてダリアを襲う。
「嘘っ! さっきまでこんなことなかったのに……」
「確かにお前は剣士としてはその歳ではありえない程優秀。だがまだ青い!」
褒められた後に落とされた。だけどそれもそのはずで、ダリアもまだ剣士としては未熟だと思っている。
でも負ける気はない。
死線をくぐってきたのなら、迷わずに突き進むしかない。
「纏って、《スカーレット・ブレイブ》!」
ダリアは大剣に炎を纏った。
その動きはまさに魔剣を振るう剣士のものだが、マーリングは簡単に払い落としてしまう。まるで飛び火する火の粉を撃ち落とすみたいに淡々としていて、聞いていた豪快さはどこにもない。
「どうして……」
「はっ?」
「どうしてそんならしくない動きをするんですか! それになんで楽しそうじゃないんですか!」
ダリアは我慢ができず怒鳴りつけてしまった。
マーリングの表情はまさに死人のようで、目の奥に生気はない。
ただ剣を振るうだけの亡者で、ダリアはらしくもない聞いたこともないマーリングの剣技に飽き飽きしていた。
けれどマーリングが嫌悪するでもなく、淡々としている。
「知ってどうする。今の俺に剣を誠に振るう権利はない」
「どうしてそんなに冷たいんですか!」
「若いな。だが甘い、そして青い。今のお前で俺の感情を突き動かすことは到底できない」
ダリアはムカッとした。それと同時に心の奥が燃え盛る。
大剣を捨てると、ダリアは腰に納めていた剣を抜いた。
血混じりの忌々しい剣だ。
「それは……今までと違う殺気」
「この剣は特別な時にしか抜かないって決めているんです」
「特別な時? 普通の剣、嫌劣化が酷いが魔法でコーティングがされているのか?」
「よく喋りますね。でもここからは喋らせてあげませんからねっ!」
ダリアが剣を抜くと、《スカーレット・ブレイブ》で剣を纏わせた。
炎が渦を巻いて剣の剣身を取り巻くと、煌々とした赤色を放つ。
「血のニオイがする……これはどういうことだ」
「剣に取り巻いた血のニオイは絶対に消えないんです。だからこそ、この剣は特別です。特別性根を殺さないといけない時にだけこの剣は抜くんです。それから大切な人たちを守るために修羅にならないといけない時だけです」
ダリアは綺麗なブロンドヘアーが真っ赤に燃えていた。
目の奥も完全に赤く炎を抱いている。
それだけではない。先程までの気迫が一気に膨れ上がり、さっきにまで発展していた。
そこにいるのはもはや青い子供剣士でない。幾重もの視線を越えても尚、立ち上がり剣を振るう本物の剣士だった。
「雰囲気が変わった。面白い」
「面白がっている余裕がありますか? 《剣錬成》!」
ダリアの周りを4本の剣が展開する。
その剣はダリアの意思次第で相手を追撃し、自発的に攻撃してくれるよう思考とリンクしていた。これは剣士である先生から教わったものだ。
「一気に叩く……終わりです!」
「終わりだと? 笑わせるな。俺は剣士だぞ」
「剣士なら剣で応えてください。でも、今の貴方の剣は全然怖くありません!」
ダリアは一気に懐に飛び込んだ。その素早さは華奢な体格故だろうが、あまりにも力強い攻撃の運び方にマーリング一瞬反応が遅れる。
しかしそれが決定打となった。剣士によって一瞬の判断ミスは命取りである。
「ふざけるな。俺は、俺は負けん!」
カジキの吻が飛んできた。
しかしダリアを守るように展開している剣に阻まれて攻撃は通用しなかった。
通用しないということは、すなわち届かないということだった。
「ごめんなさい……でも、これで終わりです」
ダリアは笑みを浮かべていた。
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