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囚われの神代(1)

 都民広場での一件があった翌日、フィアは自宅待機を命じられていた。現在の住まいであるウイークリーマンションのリビングでフィアは窓の外を見つめている。


 今日は朝からずっと雨が降っていた。雨が降りしきる音を耳にしながら、フィアは昨日の出来事を思い返す。ロキが去った後の都民広場で神災対策本部長、そして東京都知事でもある塔屋時子が神災対策本部を立ち上げた経緯を説明してくれたのだ。


 東京のはずれには神境という、神と人間が住まう世界の境目がある。その場所を境界にして、人々と神々は互いの領地を冒すことなく暮らしていた。だが、ある日、そんな環境に一石を投じる存在が現れる。


「それが北欧神話の一柱である神、ロキだ」


 北欧の神トール、それにロキ。フィンランド人を両親に持つフィアには馴染みのある名だった。なぜなら幼い頃、両親が寝物語に北欧の神々の話を聞かせてくれたからだ。


 雷神にして、最強の戦神でもあるトール。そして、悪戯好きである神ロキ。二柱は兄弟のように親しい仲で、時にはともに旅をすることもあったという。そんな神々と自分が関わりを持つことになるとは、フィアは夢にも思っていなかった。


 だが、神代が雷神トールというのならば、得心がいくことがいくつもある。


 神代が人並み以上に神に詳しく、人間が感じ取れない神気を辿れること――それも彼が神界に住まう神ならば当然だったのだ。


 人の心をよく解さないこと――神である彼が人心を理解できないのも当然だったのだ。


 神代と出会って以来のことを思い返せば、彼が普通の人間と違う点はいくつも見受けられた。ただ、それらについてフィアが深く考えなかっただけなのだ。何という浅慮さだろう。


 塔屋時子の話を聞いていたフィアが重い口を開く。


「ロキって、さっきわたしや神代さんを襲った……」

「そう。ヤツは神でありながら、悪戯好きで周囲をかき回す存在だ。そんなロキは神界の平和な状況に飽き飽きしていたらしい。そこでヤツは考えた、退屈しのぎにあるゲームを人界でしようとな」

「ゲーム?」

「そう。黄金の林檎というアイテムを創り出し、神界にばらまき、それを口にした神の理性を奪い、人界で暴れさせるというものだ」


 黄金の林檎――フィアも何度か目にしたものだ。あのロキが創り出したのか。


「初めはロキの悪巧みに気付く者はいなかった。だが、一柱だけがヤツの企みを知った。それがロキの親友である雷神トールだ」

「トール……、神代さんのことですね」

「そうだ。正義感の強い彼はロキに詰め寄った。神を人界で暴れさせたら、大変なことになる、と。だが、ロキは逆にトールにあるゲームを持ちかける。自分はこれからも神々に黄金の林檎を与え人界にけしかけるから、それを止めてみせろとな」


 ここでフィアが塔屋に問いを投げかける。


「もしかして、それで神代さんは神界からこの世界に?」


 塔屋が小さく首肯してみせた。


「ロキの残虐で狡猾な一面を知るトールは、彼を止めることができるのは自分しかいないと、そして彼の友人であるという責任感から人界へ降りた。だが、トールがこちらへ来るのは一歩遅かった」

「え?」

「十年前の国会議事堂周辺で発生した第二級神災、君も知っているだろう。トールが人界に降りる直前にあの事件が起きてしまった。ロキが創り出した黄金の林檎を食べた神が東京で事件を起こしたことを知ったトールは一策を講じ、当時東京都知事に就任したばかりの私に接触してきた」

「神代さんが……」


 フィアは複雑な思いを抱きつつ、塔屋の話を聞き続ける。


「最初は驚いたよ。何せ自分を神だと名乗り、トールは私の前に現れたのだからな。だが、直近で国会議事堂の不可解な事件が起きたこともあり、私はトールの話を信じた。そして、彼はロキが人界で災禍をばらまこうとしていると語り、私にある提案をしてきた。ロキの奸計を阻止するための組織をこの東京につくってほしいとな」


 ここでフィアはハッとした。


「もしかして、その組織が神災対策本部ですか? でも、どうしてわざわざそんな……」


 フィアは疑問に思う。先程フィアは神代が神力を使う場面を目の当たりにしたが、あれほどの力を振るえるのなら自身でロキを止めることも可能なはずだ。そんなフィアの疑問を察したように塔屋が彼女に問う。


「フィアローズくん、君は人界と神界の不可侵の制約を知っているか?」

「あ、はい……」


 不可侵の制約とは、東京都民なら誰しもが暗黙の了解で知っているものだ。その内容は、人も神も互いの領地内で力を振るってはならないということ。


 例えば神が人界で神力や神器を、もしくは人間が神界で兵器を使用することは許されない。一度その制約が破られてしまえば、神々と人間の間で全面戦争が起きてしまうかもしれないからだ。


「人界でロキの奸計を阻止するため、トールが神力を用いることはできない。だから、彼は一計を案じた。自身は神力を用いることはできないが、神々や神界に関する知恵を人間に与えることはできる。だから、その知恵を使い、ロキの企みをともに潰してほしいと私に申し出てきた。何とも荒唐無稽な話だと思ったが、実際に都内で原因不明の事件が発生していたからな。これ以上、第二の国会議事堂の事件を起こさないためにも、私はトールの申し出を受け入れた」


 塔屋の説明が一段落したところで、フィアは一番気にかかっていたことを彼女に尋ねることにした。


「あの、神代さんはこれからどうなるんですか? どうして神力を使ったら自分を拘束してくれだなんて……」


 すると、塔屋が小さく息をつく。


「ロキに対抗するための不可抗力とはいえ、トールは人界で神力を使ってしまった。不可侵の制約を破った者には、互いの世界でしかるべきペナルティーを下すという罰則がある」

「じゃ、じゃあ、わたしたちの世界でのペナルティーって……」



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