エピローグ
何とか最終日に間に合いました。
流れ星に願いを 最終話です。
今までの物語とは一味違った物語をお楽しみ下さい。
一部大幅改稿しました。(22.6.7)
惑星アレトには衛星が一つある。ノームと呼ばれるそれは五大国が主となり共同統治されている。ノームには都市が建設されており、宇宙を研究する巨大な施設が併設されている。
ノームの自転周期はアレトと連動しているため、常に同じ顔を見せている。またアレトから見て裏側にあたる面には大きなクレーターなどが見当たらず比較的平坦なため、巨大な電波望遠鏡が設置されており、施設では日夜その観測データを分析研究している。
宇宙飛行士を志す人々の憧れの地ともなっているその施設は、庶民が目指せる最高峰の場ともいえるだろう。
だが、ノームにはその研究施設の他に一般の人々には全く知らされていない巨大な施設が存在する。
アレトの実権を握る貴族達と、一部の守秘義務契約をした庶民のみが滞在することができる特別な施設。その名を『ノーム学園』という。
貴族の中でも王族とそれに準ずる身分のもの、そしてそれらの特権階級によって見いだされた特に能力の高い貴族だけが学ぶことを許された特別な学園だ。
学園に通える者は、いわばエリート中のエリート。貴族達が目指す最高の地位を保証された者を育成する機関だった。そのように将来国の中心を任される者たちがなぜ一様にアレトではなくわざわざノームで学ばされるのだろうか。
貴族は誰もが持つ感情の波、思念波を操る事が出来る。庶民達が手の甲や腕に持つ思念石を、貴族は額に付けているという。
だが多くの庶民は貴族のことをよく知らない。貴族達が表だって庶民の前に現れることはほとんどないからだ。
力ある王族は、その思念石を複数装着しているが、王や盟主など限られた存在が時折姿を現すだけで、多くの貴族が庶民と触れ合うことはほとんどない。
思念波を操ることが出来る貴族は容易く庶民を意のままに操ることが出来てしまう。それゆえにこれは庶民を守るための手段でもあるのだ。庶民はほとんど貴族に会うことがない。ただ存在を知るのみ。
レナーリエとシイナールはそんな貴族の中でも特に限られた存在で、額には三つの思念石が装着されている。三つの思念石は複雑な形に編まれた虹色に輝く金属で繋がれ、二人の額で青く輝いている。
水色の長い髪にラピスラズリを透明にしたような濃い青の瞳の少女達は、並んでいると姉妹に間違われるほどよく似ていた。
しいていえばレナーリエのほうが髪の色も目の色も濃い。そしてシイナールの瞳が好奇心に溢れ、いつもきょろきょろとよく動いているところが違いといえるだろうか。だがもっとも大きな違いは、レナーリエの髪に一房紅く染まった部分があることだ。
レナーリエとシイナールはエミューリア人だ。二人はエミューリア王国の王女であるシュリーア姫と共にノーム学園で過ごし、他の同じエミューリアの貴族達と共に帰国の途についていた。
ノーム学園は春の終わり頃から秋の始まりまでの数ヶ月間のみ開かれる。選ばれた貴族達はそこで四年間学ぶ。二人はシュリーア姫と共に、二年目を終えたところだ。
レナーリエ達はノームから宇宙船に乗り、アレト上空の宇宙港へ。そこから宇宙エレベーターに乗り換え、地表にあるアレト空港島に向けて降下しているところだった。
宇宙エレベーターは時速200kmで運行することを定められており、リニアや新幹線よりも遅いくらいのスピードでゆっくりと地表を目指す。
およそ九日間かけて地表に到着するのだが、六日間はまだ無重力空間にいる。その間に少しずつアレトが大きく見えるようになってくる。不思議なもので見える景色は出発時と変わらないはずなのに、出発する時は星を見るのに夢中で遠ざかるアレトを少し寂しく想うだけなのだが、帰還するときはアレトに視線が向きがちになる。
ノームからでは小さくしか見えなかったアレトがどんどん大きくなり、帰国が近づくにつれ懐かしさが込み上げてくるのだ。
宇宙エレベーターの中ではアレト空港の時刻で過ごすことになっている。夜眠る時は夜の地球。目覚めている時には明るい地球と共に生活する。長い滞在期間の間には地表に降りてからの準備を整えておかなければならない。
レナーリエはシュリーア姫とその姉であるレイアーナ姫との連絡係で、シュリーア姫の日常や外遊に付き添いながら、その報告をレイアーナ姫に毎日送る役目を持っていた。親友のシイナールはシュリーア姫付きの文官の一人で、能力の高いシイナールは常にシュリーア姫と行動を共にし、サポートする役割を担っている。
シュリーア姫は学園にいる間に交遊を広げ、他国に人脈を作らなければならない。そのため、帰国後は秋の収穫祭が終わると新年の感謝祭までの間外遊に出る。
昨年はザラマンデルに滞在し、今年はアイサ帝国から誘いを受けていた。レナーリエとシイナールはそのアイサ帝国に関する情報の収集と分析に追われていた。
レナーリエはエレベーターに乗車すると直ぐにレイアーナ姫の文官に連絡を取り、シュリーア姫の外遊先がアイサ帝国になったことを報告してデータを転送してもらっていた。そのデータを読み込み、更に詳しい調査の必要なものを選び出して、他の貴族達に割り振ったりと降下の間も精力的に働いていた。
そんなレイアーナの楽しみは、夜シイナールと共にアレトを眺めることだった。アレトが近付いてくるにつれ、アレトの上空で起こる様々な気象現象が見えるようになってきた。
最初に見えるようになったのはオーロラだ。北極付近と南極付近に時々見られるこの現象は刻一刻と変化し、色も形も変えていく。何度見ても飽きることがなかった。
さらに数日がたち、足元に大きく地球がみえるようになると、雲の間に時折閃光が現れるようになってきた。雷だ。地上で見るような光の筋は宇宙から見えない。カメラのフラッシュのような光が雲の間にパッと光っては消える。
宇宙エレベーターはアレト上空を周回する監視衛星や要塞とは違い、静止衛星と繋がっていて地球を周回することはない。その分、刻一刻と移っていく雲の様子や台風の目が動いていく様子が見られ、アレトの美しさを再確認出来る贅沢な経験が出来た。
ある日の夜、空港島から広い範囲が快晴となり、くっきりと地上からの灯りが宇宙に向けて瞬いているのがよく見えていた。少しずつ大きくなってきた空港島を眺めていると、大気圏を横切る光の筋が見えた。
雷とは違い、すーっと一本の線が流れては消えていく。しばらく目を凝らしているといく筋かまた、つい、ついーと流れて消えていく。
「流れ星だわ」
レナーリエがそう呟いてシイナールの方を見ると、シイナールは手を組み、目を閉じて何か祈っている様子だった。
ふわりとシイナールの思念波を感じたレナーリエは、自身も再び流れ星を見た瞬間に目を閉じて祈った。
今は遠く離れ、二度と会うことの叶わない大切な人々へ向けて。
── 元気でいますように。幸福でありますように。
どうか。どうか……。
── 新しい世界で、私達は生きています。新しい人生は驚きと発見の連続で。私達は精一杯この世界で生きています。だから、どうか……。
アレトが少しずつ近付いてくる。空港にはきっと彼が出迎えに来ているはずだ。 一見紳士で、腰の低い、人懐こそうな雰囲気をまとい、誰からも好かれる好人物。けれどもその実は非常に有能な外交官で、笑顔で人を従わせてしまうカリスマすら持つ一筋縄では行かない上司。
ザラマンデル外遊の際には陣頭指揮を取り、ビシバシ鍛えられたことは記憶に新しい。しかも帰国時に姿が見えないと思ったら、まさかの庶民と同じ飛行機で帰国するという破天荒さも持つ彼。
── 大丈夫。私もあの頃の私ではない。今回の学園生活でも成長できたはず。先ずは後数日、帰国までの間に完璧な外遊計画を立てて彼に認めてもらおう。
レイアーナはだんだん大きくなる空港島を見下ろし、かたく誓う。
── 私達はもう振り返らない。 私達に出来る最善を毎日積み重ねていこう。
レイアーナは最後の眠りにつく前に、もう一度だけ流れ星に願う。
── これからの毎日を悔いなく過ごせますように。もっと羽ばたけますように。
流れ星に、祈りを。
ここまでお付き合いありがとうございました。最後に私が作成したレナーリエ、シイナール、シュリーア姫を掲載します。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
短編はこれにて無事完結いたします。
惑星アレトの暮らしを少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
外伝という形で始めた物語。本編の背景の部分をほんの一部切り取ってお見せしました。
本編に関わってくる人物はエピローグと五話に出てきたあの方のみです。
本編にも興味持っていただけたら、是非本編にも目を通して見てください。
主人公達がこの世界に関わってくるのはまだまだ先ですが、アレトの世界を書くのはとても楽しかったです。
面白いな、良かったな、と思っていただけたら、是非ブクマと⭐️を入れて下さい!
ありがたいことに冬童話の中で30位辺りにランクインしています。
この作品を読んで下さった全ての人へ。
ありがとうございました。見つけて最後まで読んでいただき、感謝します。
皆様に風の守りがあらんことをお祈りいたします。
本編はこちらからどうぞ。
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