第1話 姫勇者のプロポーズ 6
『私はこの方と結婚します。』
目の前の少女はおそらく両親の目の前で自分にプロポーズ(プロポーズというより結婚報告に近いが)をした。王様は玉座の前でひっくり返ってしまい、謁見の間は大変な騒ぎになっていた。
あまりのことに思考が止まる。
ありえるだろうか。見ず知らずの、言葉さえ交わしたことの無い男を結婚相手にするなど。
呆然としていると女性が顔を近づけてきた。ヨシトは思わずドキッとしてしまう。
「急で申し訳ありません。あとでご説明します。今は一先ずメイドの指示に従ってください。」
少女はヨシトの耳元でそう言うと部屋を後にした。いつの間にかヨシトの後ろにメイド服を着た女性が二人いた。
「ご案内致します。」
手を腹部で合わせ丁寧にお辞儀をし、そう言うと同じ階の客室に案内された。
案内された部屋はまるで高級ホテルのようだった。自分が三人寝てもまだ人の入る隙がある程大きなベット、美しい装飾が施された椅子や机、足で踏むのが嫌になる程綺麗な絨毯。ヨシトは客室までの廊下やこの部屋の様子から、最近始めたオンラインゲームの中のようだなと思った。
「お洋服は勝手ながらご用意させていただきました。左手後方にあるクローゼットの中に入っております。部屋の外におりますので、着替えがお済みになりましたらお声かけ下さい。」
ヨシトは「ありがとうございます。」と挨拶するとメイドは微笑み「失礼致します。」と部屋を出た。
ヨシトはメイドの指示通り部屋の左側にある扉を開けた。中は八畳程のウォークインクローゼットとなっていて、部屋中央には西洋風のタンスがあった。タンスの正面一番上の引き出しが開けれており中には下着一式が、奥を見るとクローゼットに黒地に青の模様が特徴的なビクトリア調のドレスコート、それに合わせたシャツとズボンがかけられていた。ヨシトは自分の部屋ぐらいあるなと驚きながら、慣れない服をなんとか着て外のメイドに声をかけた。
「とてもお似合いですよ。」
メイドはヨシトに満面の笑みでそう言った。あまり服装を褒められたことの無いヨシトは多少の気恥ずかしさを感じた。
「こんな良い服を準備していただいてありがとうございました。サイズもぴったりでした。」
「お褒めに預かり光栄です。ですが、賛辞は我が主人のフォリア様に。執務室でお待ちになっておりますので、ご案内致します。」
フォリア様。
先程いたドレスの少女だろう。彼女には色々聞かなければならない。さっきの言葉の真意やこの世界の事について。
執務室は城の中央に位置する階段を上り、廊下の中央にある螺旋階段を登った先にあった。そこは一見すると某電波塔の展望台のような作りになっているが、残念ながら部屋があるため外の景色は見れなかった。メイドが部屋の扉をノックする。
「失礼致します。フォリア様。お客様をお連れしました。」
中から「どうぞ。」という声が聞こえた。声は先程のドレスの少女のものだった。メイドは扉を開きヨシトを部屋の中に入れる。部屋の大きさは客室とそれほど変わらないと思うが、壁に引き詰められた本棚、部屋中央にある机や椅子、何より部屋の一番奥にある大きな長机が部屋を小さく見せた。どこぞの社長室か何かかと勘違いしてしまう部屋の奥、その風景にミスマッチ(と思うのは偏見なのだろう。)な少女が座っていた。
「こちら、レーヴ王国第一王女フォリア・レーヴ様です。」
「私はフォリア。フォリア・レーヴです。先程ぶりですね。異世界の旅人さん。」
王女と紹介された少女はそう言って微笑んだ。