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001_転生

 二月。季節外れの陽気に誘われ、散歩をすることにしたが、気分は晴れなかった。つい先日、三十歳になったが、生きる意味はこれっぽっちもわからないままだ。


無理やりにでもテンションを上げるため、爆音で最近流行りの曲を聴くことにした。そのまま無心でただひたすら歩き続けた。


 結局、運動不足のせいで早々に疲れ果て、もうそろそろ家に帰ろうかと考え始めたころ、ごしゃりという音が全身を貫き、目の前の景色が横に吹き飛んだ。イヤホンをしていたせいで車の接近に気付かず、そのままひかれたらしい。


 痛みはないが、「これは死んだな」という確信だけがあり、寝落ちするかのように、やけに気持ちよく意識が薄れていくのを感じた。


***


 目が覚めると、木造の屋根が目に入る。どうやらベッド寝かされているようである。


 なるほど、一生に一度あるかないかのチャンス、今こそあの台詞を言うべきか。


「知らない現象だ」


 女性の声が隣から聞こえた。ハスキーな声だった。


 誰だ? 僕の台詞を横取りしたのは。しかも間違っている。

 目だけで横を見ると、えらく鋭い目つきをした外国人が、愕然とした面持ちでこちらを見ていた。


 カフェオレのような褐色肌に、絹糸のような白髪が美しい。短めの髪と背の高さが相まって、どことなく男前な印象があるが、体の描く線からして女性であることは明らかだ。


 それにしても、看護師さんにしては服装がはっちゃけすぎている。黒のキャミソールドレスに裸足だ。お見舞いに来てくれたと仮定しても喪服みたいで縁起が悪い。


「どちら様でしょうか?」

「あぁ、失礼。私はシックルという。死神だ」

 なるほど、死神と来た。本来なら、どういう類の冗談なのか頭を働かせても良いものだが、何故かそれが冗談ではないという自信があった。


 感じるのだ。目の前の存在は人間ではない、明らかに超常の存在であると。


「僕は死ぬということでしょうか?」

「いや、殺したはずなんだが、死ななかった。安心してくれ」

 安心できないが?


 そもそも、さっきから気付いていたが、僕の体がおかしい。声が高すぎるし、手も小さすぎる。

「もしかして、転生ってやつか?」

 思わず思いつくままに呟くと、

「転生! それだ! どうりで……なるほどなるほど。やはり私の仕事は失敗していなかったのか」

 シックルさんはひとりでに納得し、晴れやかな表情を浮かべた。


「……出来れば説明していただきたいんですが」

「うむ、説明しよう」

 

 その後、シックルさんに聞いたところ、この体は元々アルベールという三歳の男の子のものだったそうだ。風邪からの肺炎をこじらせて今日死ぬ運命にあったため、シックルさんが命を刈り取りに来た。


 しかし、一度魂を消滅させた後に、どういうわけか僕の魂が入り込み、転生してしまったというわけらしい。本来、そんなことはあり得ないはずだが、例外的に別の世界から迷い込んだ魂がこの場にたどり着いたとしたら、この状況に説明がつくと教えてくれた。


 話の流れでこの世界自体について確認したところ、国から歴史から、あからさまに知らないものであった。亜人だの、魔獣だの、剣だの、魔法だの……。いわゆるファンタジーチックな世界ということか。


 とにもかくにも、シックルさんが殺す必要があったのは元のアルベール君の魂のみであるため、僕の魂をあらためて殺しなおすことはないらしい。


「私は君に興味がわいた。これからの君の人生を見守ることにしたので、しばらくそばにいるよ。よろしく」

「は? いえ、お引き取りください。もう僕を殺す予定はないんですよね? それに次のお仕事があるんじゃ?」

「確かに君を殺す必要はないが、一度殺した人間が生きている、であるならば、その行く末を観測することも必要だ。うむ、必要だ。仕事はまだ終わっていない」

 絶対今適当に考えただろう。まあ、この世界について知らなさすぎる僕にとっては、色々と教えてくれそうな存在が近くにいるというのはありがたい。


 物騒ではあるが、殺さないと口約束はしてくれているのだ、信じようではないか。信じる者は救われる。汝、神を信じよ。死神を信じていったい何がどう救われるのか、はなはだ疑問ではあるが。


 こうして、僕の二回目の人生が始まった。


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