おにぎり総選挙
俺は焦っていた。「第8回おにぎりアイドル総選挙」まであと二週間に迫っているからだ。現チャンピオンである俺「鮭おにぎり」が「梅干おにぎり」から王座を奪ってもう三年になる。今年の総選挙も前評判では俺が有利だった。最大のライバルは最近めきめきと実力をつけてきた「ツナマヨおにぎり」である。外国人とのハーフである特徴を生かして、ローティーン層を中心に人気は上昇中で、俺「鮭」に迫る勢いである。あの、いけ好かない「ツナマヨ」だけには負けたくない。俺はライブでのファンサービスに以前にも増して力を尽くした。
ところが……である。予想外の事態が発生した。なんと「イクラおにぎり」と「明太子おにぎり」が「魚卵’S」というコンビを結成したのである。なんてこった。断りもなくチームを作るなんて選挙ルール違反ではないのか? 大体「イクラ」は俺「鮭」の子供じゃないか。チームを作るとしたら俺とじゃないのか。ふざけやがって。先日、イベントの楽屋で「イクラ」の姿を見かけたので文句を言おうと声をかけた。しかし、彼はとぼけた表情で答えた。
「そりゃ先輩にはお世話になりましたけど、選挙では別っスよ。ペアを組んじゃいけないなんてルールはないっス。お互いフェアにいきましょ、セ・ン・パ・イ」
彼は涼しい顔で去っていった。
色々考えた俺は最終的にある決心をした。「ツナマヨ」とチームを組んで「魚卵’S」 に対抗するのである。奴とペアなんて気が進まないが仕方がない。この提案を告げると奴は薄笑いを浮かべて言った。
「ふーん、君が僕と組むってことだよね。意外だな、君は僕のことを嫌っていると思っていたんだが」
俺だってお前となどとやりたくない! 口から出そうになったが必死でこらえた。俺は、「魚卵’S」が着実に人気を獲得していること、このままでは「鮭」も「ツナマヨ」もトップにはなれない可能性が高いことを一生懸命説明した。
「まあ、君がそれほどまでに言うなら考えないでもないけどね」
そういうわけで「鮭」と「ツナマヨ」のコンビ「フィッシュ・ブラザーズ」が結成された。最初のライブでの手応えは十分だった。「ツナマヨ」とも息が合ってきた気がする。これならいける、俺はそう思った。
総選挙当日、固唾を飲んで待つファンと緊張した面持ちの俺達の前で選挙結果が発表された。
結果「フィッシュ・ブラザーズ」と「魚卵’S」で票が割れ、「梅干おにぎり」が王座に返り咲いた。