第8話
答えを出すときを目前に、私は先日アルフォンスが言っていた「事情」について考えていた。
「エリーゼは、今確かに俺の婚約者だが、この婚約に、利害関係は特にない。俺が有力貴族と交わらないように、義母が手をうったに過ぎない。」
アルフォンスはそう言った。
アルフォンスは、側妃の子どもだ。数ヶ月の差で早めに誕生したクリストファーの母にあたる正妃からしたら、早めに我が子の王位継承を磐石なものにしたかったため、二人が10歳になると、それぞれに婚約者が決められた。
宰相の娘であるロザリンド嬢と、クリストファー。
正妃の実家近くの地を治める子爵家のエリーゼ嬢と、アルフォンス。
婚約者の圧倒的差異で、クリストファーにマウントをとらせたのだ。
そのあたりの事情は、ゲームのクリストファールートであらかた知っていた。クリストファーも、彼なりに、その目的ありきの婚約に息苦しさを感じていたのだ。
「俺も、別にそのあたりはどうでも良かったし、エリーゼとの婚約にも文句はなかった。だけどな・・。」
それでも王位継承権第二位なのは違いなく、王子であるアルフォンスには、常に侍従、護衛がついた。
護衛役には、王妃の実家の分家であるリズベルト家の三男。その子どもであるシュバルツが侍従である。
まだ10歳の子どもたちは、礼儀作法こそ大人たちのまねをしていたが、自分たちだけの時は仲よく遊ぶようになった。そして、月日が流れ。
シュバルツとエリーゼは、互いを思い合うようになってしまった。
主の婚約者への恋などあってはならない。
婚約者の侍従への恋などあってはならない。
だが、アルフォンスは早くからそれに気づいてしまった。
「そんな中で、俺たちは学園に入った。俺は、親たちの手が出しにくいこの学園生活の中で、できれば穏便に彼らを結びたいと思っている。」
その第一手が、今回のダンスパーティー。
アルフォンスはシュバルツを説得し、エリーゼを誘わせた。正式な社交の場ではあり得ないが、学園のパーティーなら、そのあたりは多少緩い。
現に、婚約者のいる面々から、私は誘われていたし。
「真実の愛をみつけたと言って、一方的に婚約解消をするバカ皇子に俺がなれば、誰も傷つかずに二人をつなげられるだろ?」
つまり、その相手になれ、ということだ。
(め、面倒なことになってしまったわ。)
正規の誰かを攻略することを思えば、ましかもしれない。だが、私は、ダンスパーティーさえ凌げればいいだけなのに。
(婚約となると・・。)
もう少し、ライトな方法はないものだろうか。
だが、一方で、最初の印象とは違ってきたアルフォンスに、興味があるのも事実だ。
シナリオ、という強敵と戦うのに、アルフォンスはなかなか得難い協力者になってくれるかもしれない。
私は、ある決断をして、アルフォンスの待つ温室に向かった。
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