第5話
「おはよう、フィリア。ダンスパーティーのお知らせがでていましたわね。」
エリーゼが、朝から弾んだ声で話しかけてきた。
エリーゼは、入学時から席が近く、なにかと親切にしてくれる友人だ。
実はゲームでは、要所要所でゲーム内のしくみを説明してくれるチュートリアル担当の少女だ。
分かった上で仲良くするのは利用しているようで、若干の後ろめたさがあったのだが、そのうちあまり気にならなくなった。
彼女は、普通にいい子なのだ。
姉が卒業生とのことで、慣れない私を気遣ってあれこれ世話を焼いてくれる。どうしても頼るし、懐いてしまう。
「ダンスパーティーが、ついにきちゃうのね・・。」
どうしたらよいのだろう。
誰かといかなければいけない。
攻略対象の誰も選びたくない。
婚約者がいるご令嬢たちは、その相手を誘うだろう。
まあ、主人公はそんなの関係なしに攻略を進めるから、学園内では割と自由に相手を決められるようなのだが、誰でもいいと言うわけでもない。
だって、略奪イコール泥沼なのだ。
「どこかに、フリーのちょうどいい相手はいないのかな。」
心の声が出てしまい、エリーゼがぴくりと反応する。
「厳密に言うと、フリーじゃないけど、一人、いらっしゃるわ。」
ちょっと低い声。
気になってエリーゼにつられてひそひそ話の体勢をとる。つまりは扇で口許を隠すのだが。
「それは、気になるわ。どなた?」
「私の婚約者様です。」
「えーーーー??」
こんなところに、分かりやすい罠が?エリーゼ、いい子だと思ってたのに!!
大きな反応に、エリーゼはちょっと慌てたようだった。
「変な風にとらないでくださいね。彼とは幼い頃から親が決めた婚約関係なのです。でも、私には少しも興味がない様子で。」
つまり、婚約しているが、恋人ではないのだという。
しかも、エリーゼには、ダンスパーティーに行きたい相手がいる。
「親しくさせていただいている方です。婚約者はいますが、誘っていただいて、できればその方と、行きたいのですが。」
婚約者が一人になるのに、自分だけ他の人と行くことはできない。その辺りを悩んでいたのだという。
「無理にとは言いませんが、フィリアなら、あの方も喜んでパーティーに行かれるかもしれません。」
まあ、私なら、のあたりは微妙な気持ちになるが。
それなら、泥沼とは無縁で、相手を調達できるかも、とちょっと揺れる。
「ちなみに、相手の方の名前を伺っても??」
エリーゼは、一呼吸おいて、その名を告げる。
「アルフォンス・ノーデンブルグ様ですわ。」
アルフォンス、ね。
あれ?ノーデンブルグ??
「えっと、つまり・・。」
「はい。実は、クリストファー殿下の、異母弟にあたる方です。」
なるほど。私の中で、いろいろと合点がいく。クリストファーの異母弟ということは、正妻の子ではない。しかも同じ年齢。後継者争いからは、早めに外されたはずだ。そうでなければ、母子ともに危険にさらされる。
だから、婚約者も、身分が高くない令嬢が選ばれた。
しかし、エリーゼが、クリストファーの異母弟と婚約していたとは。
待てよ・・と、私の頭はフル回転する。
王族がパートナーならば、他の人は引き下がるしかない。
そして、クリストファーは、あの性格なら、義母弟のことはずっと気に掛けているはず。
義母弟のパートナーを奪うような真似はしないだろう。
(意外と優良物件なのでは??)
「エリーゼ。紹介ってしてくれます?」
行動あるのみ。聞く感じだと、異性に大して興味もなさそうだ。一回だけダンスしてくれれば問題ない。しかも、婚約者も許しているなんて、逃したくない。
「さすがにパーティーには触れにくいですが、紹介だけなら。」
エリーゼも、割と協力的だ。
ロック、オン。作戦が頭を駆け巡るなか、私はちょっと気になることがあった。
アルフォンスという名前。
ゲーム内で、絶対どこかででてきている。
しかし、どこだったのか、思い出せない。
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