後日談一(クリストファー目線)
どこで間違ってしまったのだろう。
僕は何もかもを手に入れられる立場にいたはずなのに。
皇太子即位のパーティーの場で、断罪するつもりが逆に断罪され、手放したかったものに逆にすがりつくしかなくなった僕は、暗い気持ちで謹慎中の日々を送っている。
実は、僕の前世の記憶は、生まれた時からあったわけではない。全ては、夏のテスト前。
心惹かれてしまったフィリア嬢が、温室で弟のアルフォンスとダンスを踊っているのを見た時だ。
僕は、偶然それを見かけ、なんだか嫌な感情に襲われた。
その、嫌な感情と同時に、一気に記憶が覚醒し、この世界がかつて、妹がはまって何度もプレイしていた学園恋愛もののゲームの世界であることを思い出した。
そして、嫌な感情の正体も。
それは、『嫉妬』だ。
前世ではお馴染みの感情だったがクリストファーとしては、ずっと無縁の感情だった。
母である王妃と、婚約者のロザリンドの二人に息は詰まりそうだったけれども。
少なくともアルフォンスに嫉妬する日が来るなんて、想像もしていなかったのだ。
ゲームでは、僕こそが、フィリアと結ばれる運命だった。
違うルートもあるらしいが、クリストファールートは妹のお気に入りで、何度も繰り返しプレイしていたからよく覚えている。
(フィリアと結ばれれば、ロザリンドと婚約破棄できる。)
それはかなり魅力的だった。
そうだ。僕は常に誰よりも優位でなければ。
特にアルフォンスには負けてはいけない。
今から思えばそれは、母が僕にかけた呪いのようなものだったのかもしれない。
アルフォンスが一番嫌がる言葉を使って宣戦布告したのは、そんな醜いプライドからだった。
まず、歴史の教師を脅してフィリアを0点にした。
どのテストの出来も良かったようで、赤点がなかったからだ。
次期皇太子の権力は素晴らしかった。
攻略対象ではなかったはずのアルフォンスとダンスパーティーに来たことを考えると、フィリアには前世の記憶があるかもしれない。
名前を書き忘れた、と納得するかは賭けだったが、フィリアはそれに納得した。
(記憶がある、で確定だ。)
ならば、逃げられないようにルートに乗せてやろう。
フィリアに告白しているところをロザリンドにわざと見せた。
ロザリンドがフィリアをいじめ、僕が助ける。
フィリアとの仲も深まり、ロザリンドの断罪にもつながる。
侍従やクレアを使ってロザリンドに誤解させるような情報を流してみたが。偽の情報だけでは足りないのか、ロザリンドはたいして動かなかった。
クレアがいい手駒になったのは、どこかのご令嬢のペンケースをクレアが盗んでしまった時だ。
もともと、クレアがフィリアをいじめる実行犯であることは知っていたため、ちょっとつついたら真っ青で罪を告白した。
ロザリンドの指示ではないが、彼女のためにやった、と。
じゃあ、そんなに変わらないじゃないか。
僕は、ペンケースのことでクレアを脅して誘拐事件に加担させた。
全てうまくいっていたはずなのに。
もし、あの時予定通りフィリアを僕が救いだしていたら、彼女は僕のルートに乗ったのだろうか。
謹慎して1ヶ月たった。
僕に課せられたのは、ロザリンドの心を取り戻すこと。
あれほど捨ててしまいたかった婚約者が、今は僕の命綱だ。
でも、分からない。
今まで、みんな僕が好きなのが当たり前だった。
ちょっと微笑んでやればそれでよかった。
他に何をすれば??
でも、それができなければ、僕は全てを失うだろう。
「クリストファー様。待ちくたびれて来てしまいましたわ。」
謹慎2ヶ月目。何をすればよいか全く分からず、ただ抜け殻のように過ごしているところに、彼女は訪ねてきた。




