第35話
「疲れた・・」
怒涛のパーティーが終わり、サルバドール家の馬車で寮に送り届けてもらったエリーゼと私は、ぐったりしていた。
「ホットミルクでも飲みませんか?用意しますわ。」
エリーゼに誘われて、部屋で着替えてから向かう。
何が起こるか知った令嬢達の決断は、気持ちいいくらいに容赦なかった。
(クリストファーが断罪される側になっちゃった・・)
このままいけば、婚約破棄だけでなく、皇太子の座も、友人も、もしかしたら王妃の比護も何もなくなってしまうかもしれない。当然主人公の私も手に入らない。
「なんだかすごい展開で驚きましたわね。今日の出来事も予知していましたの?」
エリーゼが甘いホットミルクをことりと置いて言った。
部屋着に身を包み、ここでホットミルクを飲んでいると、先程までのことが夢に思えてくる。
だが、事実だ。主だったご令嬢は、今は当主と共に実家に帰っている。今後の混乱に備えて、自分の家の立場と行動方針を話し合っているはずだ。
大人たちも後処理に追われるだろうが、子供たちも大変だ。学園生活は続いていくのだから。
「いいえ。もう、この世界は私のしっているシナリオと大きく変わりました。私もびっくりしています。」
あわや自分が断罪されかけるとは。
セドリックがいなければ結末はまた違っただろう。
「私、最初に驚いたのはクレアさんです。よく、彼女が証言しましたね。」
「ああ、それは・・。」
実は修羅場を演じ、クレアの所在がはっきりしたあの日の翌日。教室に行くと、ウィリアムが私を呼び出した。
「フィリア。・・クレアをしらないか?」
返事を躊躇っていると、ウィリアムは続けた。
「授業に来ていない。寮にも帰っていないそうだ。実家にも帰っていない。もう三日目だ。・・三日前、クレアと君は深刻そうな顔で何か話していただろう?何か知ってることがあるなら教えてほしい。」
「ウィル様。・・あなたはクレアをどう思っていますか?」
話すならば、巻き込まれる覚悟をしてもらわなければならない。
でも、正直なところクレアに本当のことを言うように説得するなら、彼以上の適任者はいないだろう。
「クレアは幼なじみだ。ダンスパーティーに君を誘っといて言うのも変だけど、単なる幼なじみではなく、大事にしたい女性だ。・・まだ彼女は知らないが、僕らの家同士で婚約の話が出てる。俺はクレアを生涯の伴侶にしたいと思ってるよ。」
私は、腹をくくることにした。
そこまで言うなら、真っ直ぐなウィリアムの決心はかたい。
そこに賭けよう。
もともと、クレアの証言はあてにせずにそれぞれの計画は進むはずだ。でも、もし、クレアが本当のことを証言してくれたら。
クレアの未来は、クリストファーの落ちる先とは離れて光のある方が拓けるかもしれない。
「それならば、私が知ることをお話します。クレアは、恐らく男子寮に。実は・・。」
結果は今日のとおりだ。
国王の前で虚偽の証言をしてしまったらもう、取り返しがつかない。
でも、クレアは嘘をつかなかった。
ちゃんと償えば、この世界だって許す構図がちゃんとある。
「そうでしたの。クレアは味方を得たのですね。良かった。」
こういうところがエリーゼの良いところだとつくづく思う。
彼女は、優しい。
「・・これからどうなるのでしょう?」
「どうなるのでしょうね。」
私たちはため息をつく。
「まあ、私は、アルフォンス様とフィリアの今後を考えて気をまぎらわしますわ。」
エリーゼは明るく言った。
ん??
きょとんとした私にエリーゼはパチンとウィンクする。
「今日のあの申し出、要するに堂々とフィリアにアタックしたいって聞こえましたけど。まあ、今日のパーティー唯一の熱い話題ですわね。」
そうだ。
アルフォンスの最後の言葉。
肩に触れた手を思い出して、体温が上がる。
「あとはセドリック君!かっこよかったですわ!彼がナイトに見えました!あれ?でもそれじゃあ、フィリアはプリンスとナイトに取り合われる構図?」
エリーゼのテンションが上がっていく。
(若いなあ。元気だなあ。)
対称的にとりあえず眠りたくなってきた私は、あくびを噛み殺す。
「あら。まだ寝かせませんわよ。濃いめの紅茶はいかが?」
目を輝かせるエリーゼをなだめ、今夜はエリーゼの部屋で一緒に寝るからとピロートークに切り替える。
ベッドに入ると、思いの外疲れていて、結局あっという間に私たちは深く眠ってしまった。




