第33話
(本当にこんな場所にいていいのだろうか?)
私は、学園のパーティーとは明らかに格の違うパーティー会場で、びくびくしながら壁際に立っていた。
今日は、クリストファーの皇太子即位のお披露目パーティーだ。
大人たちはそうそうたる面々。
宰相であり、アルベルト、ロザリンドの父上にあたるサルバドール公爵。ウィリアムの父にして現騎士団長のアイゼンバッハ伯爵。セドリックの父、ランバート伯爵もいる。他にも、国内の要職につく貴族の方々が勢揃いしていた。
そして、国王陛下、王妃様。
その場には、二人の皇子を始めとした子息、令嬢も一同に介していた。
当然、私の家に招待状は届いていない。
しかし、ロザリンドやアナスタシアの手配によって、私とエリーゼはそのパーティーに潜り込んでいた。
ここまで関わったのだから、見届けなさい、とロザリンドになかば強引に連れてこられたのだ。
先程皇太子即位のお披露目が終わり、パーティーは祝福モードで、皆歓談している。
クリストファーが動いたのは、そんな時だった。
・・空気を読まないにも程がある。
「父上。」
クリストファーの声は凛として、フロアまで響き渡った。
「本日は、身に余るお披露目のパーティーを開いていただき、ありがとうございます。これから申し上げることは、今後に関わる大事ですので、ぜひ、皆様にも聞いていただきたく思います。」
ゲームがフラッシュバックする。
(クリストファー、本当に始めるつもりなの?)
私は、見つめ続けるしかない。
皆の注目が否応なしに集まるなか、国王の「申してみよ」の言葉に大仰に頷いて、クリストファーは口を開いた。
「学園生活の中で、僕には親しくしていた令嬢がいました。しかし、その令嬢を虐げるものがおりました。僕は未来の国王として、その行いを許すことができません。近衛。ロザリンド嬢をここに。」
会場がざわめく。
近衛兵が戸惑いながら動きかけた瞬間。
「それには及びませんわ。わたくしはここにおります。」
しっかりした声。ロザリンドは自ら前に出た。
「どういうことだ?ロザリンド嬢はお前の婚約者だろう?」
王の困惑した声。
クリストファーは、ロザリンドの強い目に若干出鼻をくじかれたものの、発言は続いた。
「婚約者だからこそ、です。未来の王妃に、犯罪者がなってはなりません。」
困惑の空気。
その中で、語るクリストファーは、得意気に見えた。
「ここにいるロザリンド嬢は、僕と仲良くしていたフィリア嬢に嫉妬し、周りに命じて水をかけさせたり、物を盗もうとしたりし、挙げ句の果てには誘拐までさせたのです!許されるものではありません!」
「お話は以上ですか?・・馬鹿馬鹿しい。事実無根のお話ですわ。」
会場に冷えきったロザリンドの声が響いた。
「事実無根だと?こちらには証人がいる。クレア嬢。きたまえ。」
余裕のあるクリストファーの声。
その場に、ウィリアムに付き添われて、クレアが現れた。
「クレア嬢。君は誘拐に協力していたね。フィリア嬢は、君に呼び出されて、人気のない庭園に行ったのだ。誰に頼まれてフィリア嬢を呼び出したのか、証言したまえ。」
クレアは震えていた。
彼女の行動は許す気もないが、その姿はさすがに気の毒だった。
口をなかなか開かないクレアの肩を、ウィリアムがそっと抱く。
クレアは助けを求めるようにウィリアムを見て、それから、意を決したように国王陛下を見た。
「聞こう。その、フィリア嬢を呼び出したのは、誰の指示なのだ?」
国王の言葉。
クレアは、震えながら、ゆっくりと言った。
「私に、フィリアさんを誘拐する手伝いをお命じになったのは・・なったのは・・・・クリストファー様です!!」
静まり返っていた会場がどよめく。
クリストファーは呆然としていた。
「残念でしたわね、クリストファー様。私、安い罠にわざわざかかって差し上げるほどできた婚約者ではないのです。」
ロザリンドはクリストファーを一瞥し、それから国王と王妃に向き直った。
「国王陛下。王妃様。ご覧のとおり、クリストファー様は、冤罪をでっち上げてしまいたいくらいに、私を嫌っておいでです。私は、未来の王妃になるべく、今日まで頑張って参りましたが残念です。どうか、クリストファー様の望み通り、婚約破棄をさせていただけませんか?」
気高く、上品なたたずまい。
婚約破棄、は確かにクリストファーが求めたシナリオだ。
しかし、立場は逆転していた。
そこにいた誰もが感じたのは、
「クリストファー皇太子が、婚約者に愛想を尽かされ、捨てられた」
という、見たままの事実。
「お待ち下さい!」
そこに、アルベルトの声が響く。
皆が道を開けるなか、アルベルトとアナスタシアが二人で進み出た。
「今、ご覧のとおり、我が妹ロザリンドは、もう少しで無実の罪を着せられ、断罪されるところでした。こんな悪意ある卑劣な行為をされて、黙ってはいられません。我がサルバドール家は、皇太子殿下を支持いたしません。皇太子立位への賛同は取り消します!」
「な!?」
アルベルトの発言に、クリストファーがうろたえる。
「さ、宰相どの!なぜご子息を止めないのです?」
クリストファーのすがるような声に、宰相のサルバドール公爵は、怒りの滲む声で答える。
「なぜ?息子の言葉は全て正しいからですよ。息子の言葉は、我がサルバドール家の総意と思っていただいてよろしい。ちなみにアナスタシア様のご実家も同じご意志だそうです。国王陛下。うちの可愛いロザリンドを、クリストファー様に嫁がせるのは、やめたいと思います。婚約破棄をお認め下さい。」
クリストファーは、二の句がつげない。先程までの余裕は消え、何やら小声でぶつぶつ呟き始めていた。
「お待ち下さいな、宰相様。」
その時、話を遮った声は、王妃様のものだった。
「・・クリストファー。あなたがこんな愚かなことをするはずがありません。あなたは誰かに唆されたのでしょう?例えば、あなたが親しくしていたという、そのご令嬢に。」
クリストファーの呟きがピタリと止まる。
「そうか。そういうことか。」
血走った目で会場を見回したクリストファーは、私をみつけた。
(気づいていたのね。)
「フィリア!そうだ!そこにいるフィリア嬢が全てを企んだんだ!・・母上。僕はすっかり騙されていたようです。フィリアは、狂言で苛められたと訴え、僕に助けを求めてきたのです!」
「クリストファー!いい加減にしろ!」
アルフォンスが声を荒げる。クリストファーにつかみかかろうとして、護衛に抑えられ、憎しみを込めた目でクリストファーを睨み付けた。
「そうです。アルフォンスも共犯だ。二人で誘拐をでっち上げて僕を誘導し、この状況を作ったんだ!二人を捕らえろ!」
とんだ言いがかりだ。だが、クリストファーの命令に、数人の護衛が動き、私を捕らえようとする。
だが。
彼らの手が、私に届くことはなかった。
私の前に立ち、彼らを制止する人物がいたからだ。
「はあ。全く。この国の将来を憂えちゃうなあ。」
そう言ってため息をついた、その人物は、セドリック・ランバート。
「なんだか醜いものを見せられるのが嫌になってきたので、発言を許していただいていいですか?誰が悪役なのか、はっきりさせましょう。」
混乱のなか、誰も彼を止めるものはいなかった。
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