第32話
「ちょっと待って。フィー。」
アルフォンスが言う。
「何でしょう?」
「・・少しだけ、恋人のふりをさせてくれ。」
答える間もなく、抱き締められた。
背中に回された手は、力強いのに、そっと触れられているのが分かる。
「アルフォンス様?・・アル?」
「君がいなくなったと聞いて、本当に心配した。無事でいてくれて良かった・・。」
アルフォンスは、私の髪に顔をうずめるようにして、かすれた声で言った。
そうだ。彼はそういう人だ。
真実を話す前に私は一つだけ伝えたいことがあった。
「アル。クリストファー様がおっしゃったことの中で、私は一つだけ、どうしても許せなかった言葉があります。」
私は、アルフォンスの背に手を回してきゅっと抱き締め返した。
『わからないな。なぜ君はアルフォンスのものなんだ。僕に、アルフォンスより劣るところがあるようには思えない。』
あの言葉をクリストファーが言った時。
一瞬頭にカッと血が上った。言い返したいのを我慢したのは、こちらの思惑を知られるわけにはいかなかったからだ。
「私は、アルの優しさがなければもっと救われない道を歩んでいました。みんなが自分のことしか考えていなかったダンスパーティーの時、あなただけが、自分以外の人の幸せのために動いていました。」
それが、クリストファーにはないもの。
だが、その差ははかりしれない。
セドリックが言った、「自分の利益を最優先しない人物」は、アルフォンスこそ当てはまる。
『君はクリストファーとは結ばせないよ。初めてだよ。クリストファーのものをほしいと思ったのは。僕は何としても、君を手に入れる。』
あのセリフは、それ以外の全てを諦めてきたアルフォンスだから、印象的で心に刺さるのだ。
同じセリフを言うクリストファーは、正直なところ、おぞましかった。
「今からいう話で、あなたが私をどう思うか、分かりません。だから、先に言わせてください。ダンスパーティーのパートナーを、あなたに頼ることにして、良かった。アル、とあなたを呼んで過ごした時間は、とても温かい時間でした。」
アルフォンスから離れ、胸ポケットから、アルフォンスから借りていた詩集を出して渡す。
何度も読んだ。
誘拐のあとも、御守りのように抱いて眠った。
でも、もう返そう。
私の前世の記憶も、私の本当の目的が、四人の攻略対象との恋を避けるためだったことも、アルフォンスには隠さず話そう。
嘘つきだと思われても、信じてもらえなくても構わない。
私は、私だけは、彼の優しさに相応しい人間でありたい。
自己満足だとわかっているけれど。
私は・・アルフォンスの優しさに惹かれ始めているのだ。
「全てお話します。始めから、全部。」
それから、私は全てを話し始めた。
今、気づいた、アルフォンスへの気持ち以外は、全部を。
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