第26話
「ああ、安心してください。あなたをどうこうしようという気はありません。フィリアさん、珍しくいい人みたいだし。」
私の顔は青ざめていたのだろう。
セドリックはそう請け負った。
「大体察しはついていると思いますが、僕はただ勉強をしに学園にいるわけではありません。」
(だからなんで私が何か知ってる前提なの??)
「ああ、あなたは隠し事はあるけど嘘つきではないから、僕の裏の顔を知ってるんだろうなあってことは先程わかりましたよ。」
(なんでしゃべってないのに考えてることがわかるの?)
「だから、顔に出すぎですって。」
セドリックはこらえきれずに笑いだしてしまった。
妙な感じだ。
「こちらから種明かしをしましょうか?フィリアさん、僕が助けにきたことには驚いていたけど、僕が彼らを倒したことや、あなたの場所を街の一般人から聞いたことには納得してたでしょ?僕、一応頼りない、みんなの弟分ポジションなのに。」
・・ああ、そういうことか。
言わなくても、それが返っておかしいこともある。
「前から気になっていたんです。ダンスパーティーまでは、ちょっと気になる綺麗なお姉さんだったんだけど、アルフォンス様と現れて、その後もずっと、何かを避けるように行動してたから。」
見られていたのだと思うとドキリとする。
正直なところ、セドリックは完全にルートから外れたと思っていたので、あまり意識していなかったのだ。
「僕の予想では、フィリアさんは何か、みんなが知らないことを知っている。しかも、僕みたいにいろんな情報を仕入れてつないで・・ではなく、なんだか当たり前に分かっているような気がします。違いますか?」
だめだ。ごまかすのは諦めよう。
「確かに、私はいくつかのことを知っています。・・全てではないですが。」
セドリックの目が光る。
「それは、どのようにして?」
「・・言わなければいけませんか?」
「ああ、いいえ。言いたくなければ大丈夫ですよ。」
あっけなくひいたセドリックにえ?という顔をすると、彼は笑った。
「興味があるだけです。誰かに危害を加えるのに使うなら別だけど、フィリアさんはそんな気はないでしょ?」
それは100%だ。大きく頷く。
「確かに分かることはあるけど、その・・自分の恋愛事に関わることだけなんです。だから、セドリック君のお役には立てないと思います。」
そこまでなら言ってもいいだろう。
そう思って言ったのだが、セドリックは大きく目を見張った。
「あれ?じゃあ、フィリアさんの恋のお相手に、僕も含まれることになりませんか?」
ん?ああ、そうか。そう言っているようなものだ。
あたふたしているところに、セドリックのエンジェルスマイルが炸裂する。
「ふーん。じゃあ、僕もちょっと頑張ってみようかな。」
いや、待って。もう面倒なことは・・。
だが、私の心が読めるはずのセドリックはエンジェルスマイルを崩さない。
「貴重なんですよ、自分の利益を最優先しない人物って。さっきの彼ら、エドワードとマリアというんですが、あの日いろんな人に助けを求めていたんです。」
あの日は学園の入学式だ。
あの道を通っていた貴族は、早い時間ではあったが少なくなかったはずだ。
そうか。特に意に介さずに行った馬車は多かっただろう。
目的があり、それを優先するのはよくあることだ。
気づかないこともある。
気づいたとしても、自分は忙しい、自分が助けなくても、誰かが助けるだろうと考える。
あの時私は、なぜ助けたのだろう?
そうだ。あの時、私は、『時間には余裕がある』と思っていた。
かなり早めに家をでていたから。
本来、ゲームでは、私はギリギリに家をでて、慌てたが間に合っていた。
だからすぐに助ける選択をしたにすぎない。
実際には、結局ギリギリになって、ゲームのオープニングを追体験するはめになったわけだが。
「私は、そんな、綺麗な人間ではありません。全ては偶然です。」
素直にそう言うが、セドリックの表情は変わらない。
「エドワードから聞いて、僕はずっとあなたを意識して見ていました。あなたは偶然と言うけど、その一つ一つの偶然が与えている影響は大きい。今回、僕とあなたが繋がったのも、あの日あなたが偶然した親切のおかげです。」
こと、攻略対象との関係において、驚くほど強運なだけだ。
たまたま助けた人物が対象の一人と関係があり、たまたま誘拐されたときの監禁場所を発見し、たまたまセドリックが助けてくれた。そんな良くできた話、主人公でなければあり得ない。
(あれ?あの時、セドリックは偽物のナイト、といわなかったっけ?)
「・・あの。偽物のナイトのことなんだけど・・。」
「まあ、途中から思考の脱線に気づいてたけどね。一応口説きにかかってたんだけどなあ。まあ、いいですけど。」
セドリックは苦笑いしながら、自分の知る情報を教えてくれた。
ある人物が流していた情報。
その人物がクレアとこっそりあっていたこと。
そして、私を誘拐した二人の男の正体。
「まあ、エドワードがお世話になったお礼はしたということで。この件をどうするかは、フィリアさんにお任せします。」
『口説くのはその後にしますね』、と付け加えて、セドリックはウインクすると、私を学園まで送り届けてくれた。




