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第22話

ロザリンドたちの動きは早かった。

アルフォンスに会えないまま、向かった食堂で、先に食べ終わった令嬢に、水をかけられたのだ。

明らかにわざとの動きだったが、

「あら、ごめんなさい。水がこぼれてしまいましたわ。」

そのご令嬢は笑いを含む声で、そう言った。


(良かった。食べ物は無事だし、一人の時だから巻き添えもいない。)

「大丈夫ですわ。お気になさらず。あなたこそ大丈夫でしたか?」

にっこり笑って返す。

始まったものはしょうがない。

受けて立つしかないのだ。


笑顔での返しを予想していなかったのだろう。その令嬢は、

「なら、良かったですわ。急ぎますのでごめんあそばせ。」

とそそくさと立ち去った。


とりあえず、軽く拭いて、食事を続ける。

「あら、そんなお姿でお食事なんて、信じられませんわ。よほどお腹が空いていらしたのね。」

「それとも、ご両親から、どんな時も食事だけはすませなさいという意地汚い教えをうけていらっしゃるのかしら。」

ロザリンドの取り巻き達が、絶妙な距離と声の大きさで嫌味を言う。

(まあ、これなら無視できるレベルかな。)

ロザリンドは扇で口許を隠している。


私は、とりあえず食事を終わらせてから、先生に事情を説明し、寮に戻って予備の制服に着替えることになった。


「始まっちゃったなあ。」


ぽつりと呟く。

だから嫌だったのに。

女の悪意にさらされるのは、もう嫌だ。


パンッ

気を取り直して、両手で自分の頬を軽く叩く。

エリーゼが言ったとおりだ。

やらなければいけないなら、私だってもてる武器は使おう。

初めてやられるわけではない。

この後の展開は予測できるのだから、先手をうつ。


ただ、シナリオに生じている歪みの影響だけはわからない。

ゲームよりも、クリストファーの告白は早いし、ロザリンドたちの動きも早い。

また、あの手のゲームは時系列が曖昧なため、例えば、何月何日になにが起きる、みたいな明確な予知ができるわけじゃない。


(とりあえず、壊されたり汚されたりしそうなものは、持ち歩こう。それから、やっぱりアルフォンスには言っておいたほうがいいよね。あとはエリーゼにも相談してみよう。)


頭がいたい問題も実はいくつかある。考えてもわからないため、流れにまかせようと再び学園に向かった。


「聞いたわよ、フィリア。食堂で水をかけられたらしいわね。大丈夫だった?」

教室に入ると、クレアが話しかけてきた。

「ありがとう。もう着替えてきたわ。」

そう返すと、クレアは心から心配しているといった顔で「そう・・。」と頷き、

「何かあったら相談にのるわよ。気をつけてね。」

と言う。


(この反応の早さに、普通は気づかないといけないのよね。)

頭がいたい問題の筆頭は、実はこのクレアだ。

彼女は、優しく主人公に近づき、信頼を得る。

でも、クリストファールートにおける彼女は、ロザリンドの腹心であり、私を苦しめる数々のいじめのプランナーでもある。


つまり、クレアと近づくと、ろくなことにならない。


エリーゼも、アルフォンスも、ついでにシュバルツも、クラスが違う。私のクラスには、味方がいない。

基本的に親しい友人を作らない主人公は、ロザリンドたちのいじめに耐えるうちに、クレアを拠り所にしてしまうのだ。

クレアには、クリストファーとのことも打ち明ける。

そして、その情報を使われ、クリストファーと会う約束をした秘密の場所で、誘拐されるんだよね。

大事な人と思っていたクレアからの裏切り、というおまけ付きで。


ただ、場合によっては裏をかくために必要になるかもしれない存在でもある。

今は、できるだけ普通に接していよう。


「ありがとう、クレア。でも本当に大丈夫よ。」

にっこり笑ってみせて、授業に向かう。

早く放課後になれ、と祈りながら。


そして、放課後。

エリーゼと私は、温室に向かった。


最近は、放課後になると、この温室で過ごすことが多い。

他の生徒もいる時はあるが、奥の小さなテーブルスペースには、いつもアルフォンスとシュバルツがいて、本を読んだり、勉強したりしていた。

恋人のふり、に有効だからと、行くようになってからは、もう習慣化している。

エリーゼが、シュバルツと堂々と過ごせる数少ない場所でもあり、エリーゼから誘われれば断る理由も特になかったからというのもある。


「アルフォンス様。今日は相談があります。」

私がなかなか言えないのを見越して、エリーゼが切り出した。

「相談?君が俺に?」

「私がではなく、フィリアが、です!」

エリーゼはそう言うと、シュバルツの腕を引き、少しはなれたところに腰かけた。

(気を遣わせてるなあ。)

ここまでしてもらったのだ、言わなくちゃ。


「クリストファーから何か言われたか?」

「!?」

勇気をもって切り出そうとしたとたんに、先手をうたれて、うろたえてしまう。何か知っているのだろうか?


「・・告白、されました。」

他に言い方がなく、そう言う。

「そうか。それで?」

「それを、ロザリンド様に聞かれて・・。」

「?いや、告白のほうは?」

「え?えっと・・そう言えば何も答えてない?いや、やめてくださいとは・・。」

「あ、すまない。君にとってはご令嬢のほうが問題か・・。」

「いえ、アルフォンス様との約束を考えれば告白の方が・・。」

「・・アル、だ。」

「あ、はい。アル・・。」

変な展開になって戸惑う。


反応があまりなかったので、思っていたより、クリストファーとのことには関心がないのかと拍子抜けしたのだが、そうでもないのかな?


「あ、いや、すまない。そうじゃなくて。ロザリンド嬢のほうは大丈夫なのか?」

「それが、今のところ大したことないのですが。大丈夫ではなさそうで。」

まだおきていないことを相談はしにくい。ただ、この話が余り自分にとって良くない広まり方をしていて、一部の令嬢達とあまり顔を合わせたくないと話すと、協力してくれることになった。


「さて。では、作戦会議ですわ。」

エリーゼの部屋。

なんだか気合いの入ったエリーゼと共に、いくつかの対策を考えることになった。

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