第20話
「やあ、君の担当になれるとは光栄だよ、フィリア嬢。」
図書館にあるテラス席。きらきらしい笑顔で私の前に座るのは、クリストファーだ。
(完全にルートに乗せられてるよね・・)
それでも相手は第一皇子。沈む気持ちを見せないように、精一杯笑顔を作って応じる。
「お時間をとらせてすみません。よろしくお願いします。」
それから、いくつか国史に関する質問をされ、答えていく。
「ほぼ完璧だね。これなら、特に補習しなくても大丈夫だ。」
クリストファーはそう言って、にっこり笑った。
学園では赤点をとると、上級生による講義と追試験が課せられる。そして、現状は、私が一番恐れていた事態だった。
「これで、0点だったなんて信じられないな。体調でも悪かったの?」
クリストファーが心配そうに聞いてくる。
「いえ、たぶん、名前を書き忘れてしまったんだと思います。自分の間抜けさにあきれてしまいます。」
「そうか。気を付けないとね。」
クリストファーは得心がいったように頷いた。
正直なところ、早く時間が過ぎてくれることを祈りながら、私はクリストファーとの会話を進める。
記憶を頼りに、無難で好感度が上がらない返答をしなければと必死だった。
『入学式で出会ったのを覚えている?』
「入学式で出会ったのを覚えている?」
ゲームのセリフが投げかけられる。
『ええ。クリストファー様に見とれてしまいました。』
これが、好感度が一番上がる答えだ。だから、言わない。
「ええ。あの時はありがとうございました。」
『あの時は、見た目の上品さと違う可愛らしさがあって、面白い新入生だな、と思ったんだ。』
「あの時は、見た目の上品さと違う可愛らしさがあって、面白い新入生だな、と思ったんだ。」
クリストファーは続ける。
『あの時は急いでいたんです。いつもは違うんですよ?』
「あの時は急いでいて・・すみませんでした。」
少し違う解答。弁解したり、上目遣いで媚びるようなことは絶対しない。
『ダンスパーティーは、一緒に過ごせて楽しかったよ。』
「ダンスパーティーでは、誘いを断られて落ち込んでいたけど、一曲踊れて楽しかったよ。」
少しクリストファーのセリフが変わる。その変化に、分かっているのに戸惑ってしまう。
(どう返すのが正解なんだろう?)
「あの時の言葉を、覚えているかい?」
クリストファーの視線は甘い。
無防備に受けてしまえば、恋してしまいそうなくらいに。
「失礼なことを言ってしまいました。すみませんでした。」
謝ってうつむく私の頬に手を添えられ、クリストファーの方を向かされる。
「謝ることなんてない。君は、母もロザリンドもくれることのなかった、僕がずっと欲しかった言葉をくれたんだ。」
(まずい。だめな方にいってる。)
この先を言わせてはいけない。
分かっているのに、クリストファーから目が離せない。
「あ、あの・・。」
(だめ。言わないで。)
「僕は、君が好きだ。君を、僕のものにしたい。」
「・・・!」
がさがさっ!
私が息を飲んだ瞬間、近くの草むらが揺れて一人の女生徒が姿を現した。
シルバーの巻き髪。大きなリボン。
「ロザリンド様!!」
ロザリンドは、唇をかみ、つり上がった目で私を睨み付けたあと、
「そういうこと、でしたの。」
と小さく言い、
「失礼いたしました。」
とクリストファーに淑女の礼をしてその場を去った。
「違います!今のは・・!」
慌てて弁解しに追いかけようとして、クリストファーに腕をつかまれ、そのままの勢いで抱きしめられる。
「やめてください。なんでこんなことを?クリストファー様には婚約者がおられるのに!」
「・・アルフォンスだってそうだろう?」
クリストファーの声が低くなる。
「っ!アルフォンス様は!」
「・・エリーゼは、他に相手がいるんだね。シュバルツ、だったか。」
知っている?
私は、思考が停止する。
「ずっと考えていた。なぜ君のことがこんなに気になるのか。でも、あの日、君がアルフォンスと温室でダンスをしているのを見た時、胸が締め付けられて、分かってしまったんだ。君への思いの正体にね。」
これがゲームなら、美しいスチルと共に、ロマンチックな告白のシーンなのだろう。
でも、私には絶望感しかなかった。
クリストファーを、攻略なんてしたくない。
けれど、シナリオは、あっけないほど簡単に、私をとらえてしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、
上記の☆☆☆☆☆評価欄に
★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!




