第2話
「・・様。フィリア様。」
呼ばれてうっすら目を開けると、見知らぬ女性が覗き込んでいた。
目が合うと、彼女はにっこりと笑い、私の脇の下に手を差し入れて、抱き上げる。
ん?抱き上げられてる??
驚きのあまり硬直していると、そのまま抱っこされて別の部屋に連れていかれた。
『あ、あの!』
しゃべろうとすると、
「あう、ばー。」
可愛らしい喃語が・・。
これは、私の声?
「はい。おはようございます。フィリア様は、今日も可愛らしいですね。」
女性になでなでしてもらって、ちょっと幸せ・・って違う!!
とりあえず、危害を加えられる恐れは無さそうなので、されるがままになっていると、女性が連れていったのはバスルームだった。
・・わあ。服脱がされてる。
さすがにちょっと抵抗したものの、いまいち感覚がつかめなくて簡単に押さえられ、するりと裸にされてしまった。
あら、そんなとこまで。いやん。
首を支えられて、お湯にちゃぽんと入れられ、柔らかい布で、体を優しくぬぐわれる。
恥ずかしいけど、気持ちいい。
お風呂をでると、タオルでふかれ、新しい服を着せられた。
そのまま子供部屋とおぼしき部屋に入り、ようやく私は鏡を見ることができた。
(あら、可愛い。)
そこにいたのは可愛い赤ちゃん。
まあ、薄々そんな気はしていたが。
(ほんとにあるんだ。異世界転生・・。)
そして、一番気になるのは、先程の女性が自分を呼ぶときに言う、「フィリア」という名前。
フィリア、は、私がゲームヒロインにつけた名前だった。
記憶をたどる。
多分予想が正しければ、私はこの世界のヒロイン。つまり主役。
男爵家令嬢にして、将来すんごい強運な美人になる予定の、フィリア・フォンティーヌその人である。
フォンティーヌ家は、爵位こそ高くないものの、倹約家で無駄遣いのない家族たちのおかげで、土地から得られる収入だけで充分に豊かな暮らしをしていた。
両親は教育熱心で、本はたくさんあったし、来てくれた家庭教師の中には武器の扱い方を教えてくれる先生もいて、兄と二人、文武両道を地でいく育ちかたをした。
もちろん、マナーも厳しくしつけられた。
十二歳になる頃には、かなり立派なレディに成長したと、我ながら思う。
武器の扱い方や戦闘については、だいぶ少なくなってきたが、それでも、先生とは互角にやれる。
本も、うちにあるのは全て読み、知識量もかなりのもの。
帳簿がつけられるくらいには計算もできるし、マナーも、もういつ社交界にデビューしても大丈夫だ。
だが、私は悩んでいた。
もうすぐ学園に入ることになる。
私は、ヒロインとして、あのゲームの攻略対象たちと会うことになる。
どう振る舞うべきか。
私が、あのゲームに今もどっぷりはまっていたなら、選り取り見取りな恋の相手にときめいていたかもしれない。
だが、今の私の正直な気持ちは。
「だれとも結ばれたくない・・。」
今から思えば、当て馬役のご令嬢の方が彼らには絶対ふさわしい。
そして、アラサーの切実な思いとして。
(もう、女のドロドロはいやです。)
彼氏はいなくても、それなりに女子トラブルは経験してきた。いわれない嫉妬や、逆らえない相手からの命令。もう、そんな世界はこりごりだ。
そのために、必要な力はかなり身につけた。
一生一人でも、なんとか生活はしていけるはず。
「誰のハートも射止めず、無事に卒業式を迎えるのよ。」
私は、ヒロインにあるまじき決意をして、学園への入学のときを迎えようとしていたのだった。
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