第16話
「ごきげんよう、フィリア。」
「ごきげんよう、エリーゼ。」
朝のひととき。ダンスパーティー後も、何かと私とエリーゼは行動を共にしている。
エリーゼは、私の「令嬢と争いたくない主義」を大切にしてくれ、アルフォンスのことで要らぬ嫌がらせがないように配慮してくれているのだ。
エリーゼは、人付き合いも上手い。
誰かに媚もしないが、誰とでも打ち解けた関係になるのが早くて、
(ほんとに見習いたい・・。)
目下、私の理想である。
ダンスパーティー後も、あまり日常は変わらず、クリストファールートからの、ロザリンドトラブルを恐れていた私も、少し落ち着いていた。
ただし、変化がないわけではない。
「フィリア!!ごきげんよう!!」
姿発見から信じられないスピードで飛び付いてくる、プラチナブロンドの美少女は、あの、アナスタシアである。
私の助言したドレスとネックレスが大当たりし、ダンスパーティーで夢のひとときを過ごした彼女は、次の日から、崇拝に近いくらいの熱で私に懐いてしまっている。
『そんなに話したことのない私に、心からの素敵なアドバイスを下さったフィリアさんと、私、お友だちになりたいのです。一方通行でも構いませんわ。私、フィリアさんのことが大好きになってしまいましたの。』
『私のことは、今日からアナ、とお呼びくださいな。私もフィリア、と呼ばせていただきます。きゃっ!』
・・前世にもいた。
はっきり言って、厄介なタイプだ。
距離の近付けかたが、一般的ではないタイプ。
ただ、一方通行でもいい、のあたりはまだまともな判断力を感じるし、打算的に考えると、敵になるよりは、はるかに味方でいてほしい相手だ。
なぜなら。
彼女の婚約者にして、攻略対象の一人、アルベルトは、クリストファーの婚約者ロザリンドの兄にあたる人物なのである。
「おはようございます、アナ様。今日もよいお天気ですね。」
抱きつかれた動揺を抑え、にっこり挨拶すると、アナスタシアは花が咲いたような笑顔を見せる。
(思い込み激しそうだけど、裏表のない、いい子だよね。)
私の中の大人の私がしみじみ思う。
アラサーで赤ちゃんになり、今は16。記憶の年数だけならアラフィフの落ち着きをなめてもらっては困る。
まあ、転生とは不思議なもので、前世からの自分と今世の自分は、バランスよく存在しているのだが。
「それにしてもあの夜のことは忘れられませんわ。あの、アルベルト様が・・」
とりあえず、一日一回アナスタシアの「ダンスパーティーの夜」ストーリーを一通り聞くまでは、ノルマ化している。
・・ちょっとだけ、疲れるが、可愛いから許そう。
一緒に聞いているエリーゼ、ごめん。
毎回笑顔で相づちをうってくれる彼女は天使だと私は思う。
(でも、この分ならアルベルトはアナスタシアとちゃんと結ばれそうよね。この調子でもう一組くっつけられないかしら。)
そんなことを考えながら教室に入ると、隣の席のウィリアム・アイゼンバッハが、「やあ。」と手を上げた。
ゲームでは余り登場しないが、現実の学園生活の中心は、もちろん勉強である。
ウィリアムはチャラい雰囲気の上、代々騎士団に所属し活躍している名家、アイゼンバッハ家の次男であり、自身も運動能力抜群なのだが、勉強もすごくよくできる。
ゲームでは、数学で赤点をとってしまう主人公に、勉強を教えてくれるシーンがあるのだが、当然女子の反感をかうので、入学以降死ぬ気で勉強して、学年5位以内をキープしている。
このウィリアム、婚約者はいない。
ライバル令嬢になるのは、彼の幼なじみの・・。
「ごきげんよう、フィリアさん。」
「ごきげんよう、クレアさん。」
笑顔の挨拶。
だが、油断してはいけない。
浮き名の多いウィリアムの幼なじみにして、相手のご令嬢のお友だちにいち早くなり、ウィリアムのことはなんでも知ってるアピールでマウントをとって撃退する女。それが彼女の本性だ。
でも、ある意味幼い時からずっとウィリアムに片想いしているわけで。
彼女がウィリアムと結ばれれば丸く収まるとも言える。
(相手の撃退ばかりしてないで、真っ直ぐぶつかればいいのに。)
ただ、そんなに深入りしたいわけでもなく。
とりあえず、ウィリアムルートに入らないように、クラスにいるときは慎重に回避している。
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