15話挿話(アルフォンス目線)
「・・ア・・アル?」
フィリアにそう呼ばれたとき、急速に記憶が巻き戻され、かろうじて残っている面影と、目の前のフィリアが重なった。
かつて、俺をそう呼んだ人物は、一人しかいない。
現王の側妃だった女性。俺の母親。
記憶の中の彼女は、美しく、弱かった。
そのはかなさが王の心を掴んだとも言える。
なぜなら、正妃は対照的に、強い女だったから。
母親の記憶は、俺が9つになって亡くなる前までだから、そんなに多くない。
「アル、世界で一番愛してるわ。」
と言って柔らかく笑う母の顔は俺の世界の全てだった。
亡くなってすぐに、正妃は俺とクリストファーの婚約を決めた。
あからさまな差。
今となってはその意図は明確だが、俺はまだよくわかっていなかった。
エリーゼは明るくて、決められた関係とは言え、自分と一生共に過ごす相手がいるのは安心できた。
シュバルツも、正妃の遠縁とはいえ、そんな空気を醸し出すことはなく、友として唯一信用していい相手だと思っていた。
その二人が引かれあっていることに気付いたのはいつだったか。
(ああ、俺はもう誰の一番にもなれないんだな。)
妙な納得をしてしまった俺は、その頃には多くのことを既に諦めていたのだと思う。
フィリア嬢に興味を持ったのは、エリーゼが初めて紹介してきた女性だったことと、何かと関わってくるようになりだしたあと、クリストファーが珍しく質問してきたことがきっかけだ。
「君は、フィリア嬢と親しいのか?」
あの時のクリストファーの探るような顔は、初めて見るものだった。
いつも、当たり前に俺の上位にいて、俺を気遣い、俺に施す存在。
俺のほうは張り合う気も毛頭なかったし、それが当たり前だったのだが、その時のクリストファーからにじむ不満げな態度は、嫌な言い方になるが新鮮だった。
(フィリアの目的が、令嬢たちとのトラブル回避とは。)
その相手として、俺に白羽の矢が立ったのは、失礼極まりないが我ながらふさわしいなとも思う。
シュバルツに、自分はエリーゼとパーティーにいくつもりがないと告げ、誘うように仕向けた。
そのあとに紹介されたため、てっきりエリーゼに頼み込まれてきたのだと思っていたのに。
フィリア嬢は美しい令嬢だった。
プラチナブロンドの髪。キラキラしたグリーンの瞳。
きっと多くの人を引き付けるその容姿で、フィリアは、なにかと俺に絡んでくる。
目的を聞いたとき、初めは意外だったのだが、よく聞くとなるほど確かに、と思う部分もあった。
フィリア嬢は、精神的に自立した女性だ。
今までにいないタイプで、素直に、面白い、と思った。
彼女になら、今まで考えはしたが協力者が思い付かなかった計画を持ちかけてもいいかもしれない。
「・・で、シュバルツ。恋人らしいやりとりって、どんなものだ?」
フィリア嬢の協力をとりつけ、俺は、壁にぶち当たっていた。
恋人らしさってどうしたら出るのだろう?
「いや、俺が教えるのもなんか変って言うか。」
シュバルツは何やらうろたえていた。
これは、何かある。
「協力は、相互、が基本だと思うが?」
ちょっと声を低くしてみる。
「あ、だって、俺たちも恋人っぽくなったの最近なんですから。」
思いあっていても許されない関係。
そう思っていたのが、急に許された。
まあ、まだ学園限定ではあるが。
「どうすれば恋人に見える?」
男子二人で策を練る。
「やっぱり最初は呼び方ですかね?」
「呼び方?」
「名前呼びとか、愛称呼びとか・・。」
何を思い出しているのか、シュバルツが赤くなっている。
「他には?」
「・・あー、手を繋ぐ、とか腕を組む、とか?」
「他には?」
「えっと、抱き合うとか、キス、とか・・?」
「お前たち、そんなことまで・・!!」
「いやいや!ない!ないですよ。俺らは最近やっと手を繋いだところで・・。」
シュバルツが赤い。
(こんな風にシュバルツと話をすることになるなんてな。)
エリーゼのことで後ろめたい顔をするシュバルツに、俺も気を遣っていたし、打ち解けた会話は久しぶりだ。
俺は、笑いながら、ちょっとだけ、フィリア嬢と手を繋ぐところを想像してしまった。
・・そして、今に至る。
フィリア嬢が、意外にも俺との時間を楽しんでくれていた様子に心は暖まった。
クリストファーとのやりとりは気になるが、そのあとの庭での時間は、不覚にも楽しんでしまった。
「アル。」
フィリアにそう呼ばれるのは、なんだか悪くない感じだ。
「やめておきましょうか?」と聞かれたが、それ以外のことはできそうにもない。
「それ以上は、ハードルが高すぎるからな。」
と思わず言った一言は、フィリア嬢にはばれていなさそうだった。
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