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吉田屋にて

店に入ると2人がけのテーブルに向かい合って座った。席につくなりメニューが決まっているのか少年は早速テーブルにある呼び出しボタンを押して店員をよんだ。


「すいません、僕豚丼ネギ玉乗せ特盛りで!それと味噌汁も。えーっとあなたは?」


「え?うーん」


お嬢様育ちの優美はあまりこういったお店には来たことがなくさらに初めて会った男性の前という特殊な状況下‥メニュー選びは慎重にならざるをえなかった。


「それじゃ、豚丼チーズトッピング並で。それにサラダもつけてください」


「かしこまりました、すぐにお持ちしますね」

そういうと店員はまた厨房へと戻っていった。 


「ねぇ、ぼくたち同い年くらいだと思うんですけどおいくつなんですか?ちなみに僕は先月16歳になりました」


「あ、じゃあ同い年よ。私は早生まれだからしばらく15歳だけど」


「やっぱりそうなんだ!見かけない制服だけど都内の学生さんなの?」


「うん。と言っても今日転校してきたばかりで、今は制服がなくて前の学校のを着てるって感じ」


「へぇー、こんな時期に転校って変わってるね。お父さんの仕事の関係とか?」


「それは‥」

言葉を詰まらせる優美。しかしそこに幸運にも2人の会話を遮るように店員はあっという間に豚丼を運んできた。


「お待たせしました。ネギ玉豚丼特盛りと味噌汁。それからチーズ豚丼とサラダです。ご注文以上でよろしいでしょうか?」


「はい、ありがとうございます」


優美はこの時店員に2つの意味でありがとうと言いたかった。自分の今の複雑な家の状況、その解決のための転校なんていう重ための話を、ましてや初対面の男性に話すことではないと思ったからだ。


「いただきまーす」

そう言うなり少年はものすごい勢いで豚丼をかきこみはじめた。若い男子のその食べっぷりに優美は見入ってしまっていた。 


「食べないのか?」


「いや、あなたの食べっぷりがあまりによかったからつい見入ってしまって」


「あー、朝から何も食べてなかったからさ!お腹空いてて」


そう言うと少年は再び豚丼をかきこんだ。豚丼、豚丼、味噌汁。そんな調子であっという間に食べ終わってしまった。

「早‥」


ブーン、ブーン。

「ごめん、ちょっと電話かかってきた」


そう言ってスマホを取り出し店の外に出て電話に応答していた。優美は少年の食べっぷりに見入っていたばかりいて自分の豚丼とサラダが全く減っていないのに気づいた。


あまり食べたことのない吉田屋の豚丼。チーズトッピングを選んだのもメニューに人気1位とデカデカ書いてあったからにすぎない。おもむろにいかにもハイカロリーな豚丼をくちに運ぶ。

「うま!」

このクオリティー、サラダつけても600円しないコストパフォーマンスに驚いた。ゆっくり味わいつつ食べ進めていく。少年ほどではなかったが優美もあっという間に豚丼とサラダをたいらげた。


優美が食べ終わっても少年はまだ電話から戻ってこなかった。

「おそいなー」

チラッと店の外に目をやると優美に衝撃が走った。少年の姿がどこにもなかったのだ。

「うそ!」

慌てて店の外に出ようとしたがすかさず店員が駆け寄ってきた。


「お客様困ります。ちゃんと料金を払っていただかないと‥」


「いや、一緒にいた人が‥いえ、払います。おいくらですか?」

「合計1500円になります‥はい、ちょうどお預かりします。ありがとうございました!」

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