転入の理由
「俺達も帰るか」
意外にもしゅんはすんなり一緒に帰るのを受け入れてるようだった。
「いた仕方ないわね」
しゅんに反して優美はやや子供みたいな態度を取ることしか出来ず少し情けなかった。
「それより、家どっちの方向なんだ?」
「昨日行ったあの吉田屋の方だけど」
また昨日のことを思い出してか優美は少し嫌味っぽくしゅんにそう言った。
しゅんのほうはまるで何とも思っていないかのように話を続けた。
「それじゃとりあえず吉田屋の方に行けばいいんだな」
そう言うと2人はとりあえず吉田屋の方へと歩いていった。
並んで歩く2人。それは昨日と全く同じ情景だった。
違うとすれば昨日は全く知らない同士だったが、今はお互いを認識した一応知り合いという関係の若い2人だということだ。
黙って歩く2人だったがほどなくして優美の方からしゅんに話しかけた。
「ねぇしゅん、どうして私がこんな時期にこの学園に転入してきたと思う?」
先程まで、麻耶がしゅんと呼んでいたからか優美も不意にしゅんと呼んでしまった。しかし当のしゅんの方はあまり気にしていないようだった。
「さぁさっぱりわかんね。たしか今お前の家大変なんだろ」
しゅんは唐突の呼び捨てを気にしていないようだったが
優美の方はこのお前呼ばわりがやはり気になるようだった。
しかしいちいちつっこむことでもないと思い会話を続けた。
「父がある依頼を受けて出たっきり帰ってこなくてもう1ヶ月になるの。警察にも捜索願いを出してるんだけど
まだ何も見つからなくて」
「ああ、それは何となくニュースで見たよ。なんて言うかほんと大変だな」
最大限気を使ったが上手い言葉がしゅんには見つからなかった。
「一条家の当主がこのまま帰ってこないとなると
次の当主を決めなければならない」
「当然その候補に優美も入ってるんだろ?」
「確かに入ってるけど第一候補はおば様の、つまり父の妹の婿さんなの」
日本の魔道士の大名家ともなると後継一つで国中を騒がせることになる。
ごくごく普通の家庭で育ったしゅんにはそのことも
優美の気持ちも理解し難いものだった。
「私、その叔父さんのこと正直言って全然信用できないの。
叔母様は魔法が苦手で跡継ぎの候補にもなっていない。今の私は年も若いし力も足りない。だけど‥」
優美は少し言葉を詰まらせた。15歳の少女が抱えるには
あまりにも大きな問題だった。
「無謀だけど私が跡取りになるしかないと思ったの。お母様のためにも一条家のためにも。だから日本一の学園に転入して一位になってみんなに、世の中に認めさせたいそう思ったから‥だから!」
優美の言葉からその決意の固さはしゅんにも十分伝わった。
「そういうことだったのか‥強いんだな。
父親が帰ってこない状況で家のために転入までするなんて」
しゅんの言葉はやさしいものだった。
豚丼を勝手に奢らせたり、お前呼ばわりしたり
偉そうだったり、出会ってから優美はしゅんに良い印象を持ってはいなかったが、この時はほんの少し嬉しかった。
「そういうことだから、私の目的は内田しゅん!
あなたを倒して序列一位になることよ!」
感心して聞いていたしゅんだったが冷静に考えると
この学園の序列一位は現在自分で、倒す目標というのが
自分だということにドキッとした。
しかししゅんもまたこの学園に来て序列一位になったことで
初めて力が認められたこともあり、この宣戦布告は何だか嬉しい気がしていた。
「言っとくが同情して負けるつもりなんてないぞ」
「そんなことしたら絶対に許さないわよ」
昨日まで他人だった2人が友人、そして同時にライバルになった瞬間だった。




