転入生
「おい、聞いたか。なんか今日このクラスに転入生が来るらしいぜ」
「ああ、でもめずらしいよなうちに転入生なんて。しかもこんな時期に。そもそも転入の制度なんてあったのか?この学園に」
7月上旬、夏もいよいよ本番かという頃、日本一の魔法学校との呼び声高いここケセーム魔術学園1年A組では、転入生の話題で持ちきりだった。
しかし生徒たちが言うように夏の一学年への転入というのはどこか違和感のあるものだった。
「おーい、静かにしろー。ホームルーム始めるぞ」
出席簿をうちわがわりに煽ぎながら担任と思われる男性が教室に入ってきた。
「もう知ってるやつもいるかもしれないが今日はこのクラスに転入生がくる。それと男子ども喜べ、美人だぞ。入れ」
「はい」
担任の声に続いて、女子生徒が教室に入った。
「おおー」
教室の男子生徒達から漏れるように歓声があがった。
黒髪のロングヘアー。大きくキリッとした目にスッと鼻筋が通っており、まるで外国人のような紛れもない美人であった。
少女はそのまま教卓へ進むと軽い自己紹介を始めた。
「一条 優美です。よろしくお願いします」
一条、その名前を聞いた途端教室がざわつき始めた。
「ねぇ、一条ってあの今お家騒動中の‥?」
「ああ、どういうつもりだ転入なんて」
先程の反応とは変わって、今度は怪奇な目がその女子生徒に向けられた。一条とは数百年の魔導師の歴史を持つ日本屈指の名家で、魔導を学ぶものの中にその名を知らないものはいないほどだった。しかし現在は当主である一条直人、つまり優美の父親の失踪により一条家はその跡取り問題で世間を賑わせている真っ只中だった。
「ええ、その一条です。他に質問は?」
教室中の生徒を睨みつけるような表情で優美は言い放った。
「おい、その辺にしろ!」
ざわついた教室を静めるように担任の教師が言い放った。
「色々あるだろうが彼女もお前達と同じ高校生なんだ。しかもうちの入試よりさらに難しい、転入試験に合格してるんだぞ。おい一条1番後ろの空いてる席に座ってくれ」
「はい」
そういうと優美は静かに後ろの席へと着いた。
「よし、じゃあこのまま日本史の授業始めるぞ。一条は‥
となりの加藤に教科書みせてもらえ」
「はいはーい」
そう言いながら優美のとなりの男子生徒はおそらく普段全く使ってないであろう新品さながらの教科書を見せてくれた。
「俺、加藤隆弘。よろしくな」
運動部を思わせる日焼けした肌に黒髪短髪。その雰囲気はクラスのムードメーカーといった感じだった。
「ありがとう。よろしく」
そういうと優美は黒板の方に目をやり授業に集中した。加藤の方もそれ以上は特に話しかけることもなく授業は進んでいった。