第1章 亡国の王女と光速の織天使 その6
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ゆっくりとノックする。コンコン。
「入りますよ」
開け放された窓から朝の光がさしている。
「リュティア、リュティアーナ」
がっちりした木のベッドには香木が使われていて、良い香りがする。
そしてベッドには緑の髪の女性が寝ている。私はちょっと、この人が苦手だ。リュトさんの時は気易いのにね。別に性格がきつくなるわけじゃないけど。
「うん」
「起きてるのね?朝食は?ルームサービス?」
「うん」
うんしか言わない。久しぶりの女性形だからかな?おふとんかむったままだし。
「じゃ、頼んで来るわね?お肉食べるよね?」
「うん」
また。まぁ良いけど。
「チハヤ」
「なぁに?」
しゃべった。
「昨日はありがと」
「うん。大丈夫よ」
大人しいわ。ヘコんでるのね。
居間に戻ってルームサービスを頼んだ。私もお肉が食べたいし。マテリア達も起きてる。
「元気そうか?」
ラストローズが念話で聞いてくる。
「もちろんよ」
二人とも昨日の形態のままだ。ローズは純白のワシミミズク。シルフィアーナは小妖精。美しい女性に天使みたいな羽がある。
レトも呼んであげよう。レティだと大きいからレトで良いわね。
「レト」
カメレオンが私の手の中に現れる。シッポを小指に巻き付けてくる。可愛いわ。
「おはようレト。昨日はありがと」
眼がグルグルしてる。照れてるのかな?
シルフィが消えた。リュティアのところね。
レトからじんわりとイメージが伝わってくる。あの弾はやっぱり榴弾だったらしいわ。きっとリュトは相当な量の魔力を使ったのね。まぁヘコむよね。隠密作戦なのに派手派手な襲撃されたら。でも今のところ、ローカルニュースにはなっていないみたい。
「おはよ」
リュトさんが登場。男の子に戻ってる。落ち着いたのね。いつものぼんやりした顔だわ。リュティアーナはかなり美人なのにね。肩にはシルフィ。ちょうちょに戻ってる。ん?いつのまにかローズも小鳥に戻ってる。いつも不思議なんだけど、ローズってどしてミミズクの時は白いのかな?気分?美意識?かなり高貴な気高い生き物のはずだけど。良くわかんないとこがある。
そうこうしてるうちに素敵な朝食が来た。お肉もたっぷり。大きめのステーキが2枚にラムのあばら肉のロースト。ホロホロチョウの丸焼き。うん。充分ね。山盛りのフルーツも素敵。そして大きなボウルに野菜スープ。これ基本よね。
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コンコン。
「いいわよ」
「入ります」
入ってきたのはウサギ耳の少女。まぁ見た目はね。
「カレナリエル様。お聞きになりました?」
「うん。商業組合から情報が来たわ」
昨日のチハヤちゃんの大活躍だ。それは商店街で騒ぎがあれば、私にも連絡はある。ギルドマスターだもんね。
「マリーさんのカフェの前で起こったそうですね」
「そうね。チハヤちゃん、頼りになりそうね」
「はい。そしてチハヤさんとコンビなのが・・・」
「分かったの?」
さすがメラニー!魔導師ギルドの聞き耳頭巾だわ。
「7年前の発掘調査の時の、あの人らしいです」
「チハヤちゃんと同じサリナスからですもんね。やっぱりリュト君か」
「なぜギルドに挨拶に来ないのでしょう?」
「隠密行動のつもりだったんでしょうね。それにあの人、旅人ギルドでもありますからね。おそらく元々の依頼が旅人ギルドに来たんでしょう」
メラニーの白いお耳がヒュンヒュンしてる。
「どうしますか?」
「う~ん。私たちの立場だと・・・今は静観ね」
「なるほど。ただ襲撃したのは・・・」
「うん。そっちの情報収集は任せるわ。今のところ、それだけで充分よ」
どこかしらね。アルミスタン?ヒュドラ?それとも・・・いずれにしてもロクな組織じゃないわね。いきなり物理攻撃したらしいし。暗殺目的なのは明らか。
「じゃ、そういうことで。何か追加であればいつでもご指示ください」
「宜しくね。情報統制だけ注意してね」
「はい。お任せ下さい」
なるたけ介入せずにいきたいわね。優秀な二人ですから。
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カレナリエルさん、落ち着いてたわね。でもご自慢の菫色の髪を触ってらしたから、何かお考え中ね。
「メラニー」
同僚のヴィヴィア。コーヒー色のお肌がきれいだわ。
「どうだった?」
「うん。情報収集と情報統制ね。とりあえずは」
「じゃ、あなた使うのね?」
「うん。あなたもお願いするわ」
私はテイムしてる小蛇ちゃんを使うことにする。ヴィヴィアにも口コミのネットワークを使ってもらう。と言っても主婦のとかじゃ無い。口のかたい玄人のネットワークだから安心ね。
「任せて。慎重にやるわ」
分かってるわね。
「お願いね。じゃ、掛かりましょう」
「はいは~い」
これで安心。上手くすればどこの組織が動いたのか分かるわね。土地っ子は強いわ。私はチハヤちゃんをマークしておこう。あとは・・・
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お昼時分のオッダンタプリは時折涼しい風が吹く。そろそろ秋の気配か。
リュトとチハヤのコンビがマリーのカフェに入ると店主が良い笑顔で出迎えた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちわ。昨晩はどうも~」
元気な挨拶はチハヤ。
「昨晩はご迷惑おかけしました」
リュトはまだ大人しい。
「大丈夫よ。気にしないでね」
店主は如才ない。
「今日は何に致しますか」
「今日はお肉!」
魔導師の魔力の元は大気に遍く存在するマナと自分の体重だ。オーケストラの指揮者も交響曲を指揮すると3kgほど体重が減るらしいが、魔導師も魔導を用いれば体重が減る。なので減った分を補充しなければならないのだ。
「もし宜しければ当店のスペシャルメニューは如何でしょう?」
「お願いします!」
チハヤが即決した。朝食もガッツリ食べたはずだが。
「お任せください」
優雅に一礼したマリーがキッチンに入った。
と。リュシェンヌ、リチア、マヌエラのトリオが入店してきた。
「チハヤちゃん!リュトさん。こんにちわ」
「ねぇねぇ、みんなで大きいテーブルで食べようよ」
コントローラーのリチアが指示出し。
「ルネさんとヨハネスさんは?」
連れられて大テーブルに向かいながらチハヤが耳に触りながら質問。リチアの耳を見ると何故か触りたくなるのだ。
「ルネは数学の研究室。ヨハネスはじきに来るわ」
そこへマリーがスペシャルを運んで来た。
「何これ?」
リュシェンヌがびっくり。
「お二人へのスペシャルです」
にっこり笑顔のマリー。爽やか。
大皿にタンドリーチキン、大串のシシケバブ、たっぷりのフルーツに山盛りのサラダ。大きなボウルにダヒー、ハチミツにミックスベリーのジャム。
「食べるわね~」
マヌエラも感心している。
「私はいつものセットで良いわ」
リチアは見ただけで満腹になったようだ。
「私も」
「私もランチセットお願いします」
マリーは笑顔でキッチンへ。
カランカラン。ドアベルの音。
「こんにちわ」
若々しく見える男性がやって来た。