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ファーン・ワージーの物語  作者: アルディス・サエルミア
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第1章 亡国の王女と光速の熾天使 その3

そして約束の時間の10ミル前に、二人は教員住宅についた。もちろん普段着で。しかしリュトは緑の、チハヤは白の夏用のマントは着用している。これでも耐物理、耐魔導の特製なのだから。さずがギルド御用達の高級品である。

シェレスタ教授の部屋はドアの脇に洒落た常夜燈があった。暖かな光が目に優しい。ノッカーは重厚な、しかし小形の鋳鉄製だ。

「こんばんわ」

「いらっしゃい」

反応良く開かれたドアの中には教授が静かに微笑んでいた。

「ようこそ、リュト、チハヤ。みんな揃ってるよ」

「え?グプタタイムじゃないの?」

「ハッハッハ。みんな懐かしくて待ちきれなかったのさ」

教授の案内でゆったりした居間に入ると、教授と近い年齢に見える男性が三人がいた。

「アチャーリア!アラム!サキヤ!みんな元気そうで嬉しいよ」

「相変わらず若々しいなぁリュト」

「君こそ元気そうだ」

「いや、懐かしいなぁ・・・」

「その美しい女性は?恋人?婚約者?奥様?」

「残念ですが違います。チハヤと言います。リュトのルームシェアの相手で仕事のパートナーです」

チハヤがたまらずに言葉を挟んだ。

「美しい女性同伴と聞いていたが・・・確かに。しかしお若く見えるね」

「はい。まだ14歳です。もちろんサリナスでは大学生でもあります」

「凄い!14歳でリュトのパートナー!将来が楽しみだね」

「ということは・・・肩にのっているのは・・・マテリアかな?」

「はい。ローズとシルフィです」

話が止まらないので、ここでシェレスタ教授からの紹介が入った。リュトの為に集まったのは、政府の考古学者アチャーリア氏、心理学部のアラム教授、図書館の副館長であるサキヤ氏。いずれもオッダンタプリの知識階級のメンバーだった。

まことに残念なことに、グプタ帝国の文明は、多くの子供たちが働いていることでも分かる通り、高度の教育を受けられる人々と、そうでない人々が社会構成の中で厳然と分かれているのである。

知識階級の人間である彼らは、いずれも富裕な階層の人間だった。もちろん、優秀な人間が努力で階層のギャップを越えることもあるにはあるのだが、それには幸運も必要であるのが現状だった。

「ところでシェレスタ教授。例の件はどこまで話したのかな?」

「このメンバーには話してあるよ。それから、あの後学長とも話してみたんだが・・・」

「うん」

「どうも学生データには、王女のことは記録されていないらしい」

「なるほど」

「間違いということは無いのかね?元の情報が」

「うーーーん。理論的には在り得るんだけど・・・ギルドが動いたのは、他にも根拠がありそうなんだよね。こう言ったら変に聞こえるかもだけど・・・ボクに依頼が来たというのは、何か二つ以上のルートからの情報と思えるんだよ」

「リュトの言うのは尤もだよ、シュレスタ」

「それに王女を匿うのに、ここほど適切な場所も少ないよね」

「我々は反ヘルヴィティアだし。子供を隠して育てるのは容易だし」

グプタ帝国の美点の一つは、国民をがんじがらめに統制しようとしないところだ。ヘルヴィティアやアーネンエルベのような管理国家と違い、国民の自由の幅が大きいのだ。だから居住者登録もルーズだし、信用できる証人さえいれば、子供が大きくなってから登録することも可能なのだ。

税金は大きな利益と固定資産にのみ掛かるから、この点も隠れて暮らすには都合が良い。悪いことをせずに真面目に生活すれば、穏やかに受け入れてくれるのだ。

「ボクも同感だよ。人権が守られているから、自衛も容易だし」

「だね。ちょっとサリナスも似ているよね」

「アーネンエルベのような管理国家は、人権より国家権力の方が強いから怖いよね。自衛の武器も持てないから、凄惨な事件の被害者が生まれる」

「確かに王女を育てるのに好都合な条件は多いよね。ましてやオッダンタプリなら高度な教育も可能だし」

「とにかく我々も、もう少し探ってみよう」

「そうだね。旧友に協力するのは吝かじゃないよ」

「ありがとう。過去の優秀な子供たちのデータも調べたんだけど、どうも分からないんだよね」

「ひょっとすると、幼児期にはアウランガバード辺りで育てたのかも知れないね。子供と保護者って関係なら、この国は寛容だし。移住も容易なはずなんだ」

「なるほど。最近オッダンタプリに移った可能性はあるね」

「うん。アウランガバードなら人口も多いし、子連れの外国人は住み易いかも知れない。ギルドの想定では、富裕と考えてるんだろうか?」

「なるほど。もし富裕なら猶更、この国は住み易いね」

「一応、王女だからね。ボクが提示された内容では、貧しいというのは無かったな。王宮の殆どの宝石類は行方不明のままだ。恐らくは最低でもその何割かは王女を守る誰かが持ち出しているのだろう」

「だろうね。誇り高いリヒターの王女が貧しいわけが無い・・・」

さすがリュトの旧友たちと言うべきか?誰もが事件に詳しい様子だ。

「まぁ、ともかく、一旦食事にしようよ」

シェレスタ教授の奥様が用意してくれたディナーは素敵なグプタ料理だった。特にキノコをふんだんに使った風味豊かなカレーは絶品だった。またタンドリーチキンの香辛料の使い方は玄妙と言って良く、お酒の好きなメンバーには特に好評だった。美味しい食事に会話もはずみ、次の会合の日程を約して、皆が情報収集に協力してくれることとなった。


楽しい会食を終えて次の集まりに、と道を行くリュトとチハヤ。空には大小の月が輝いている。

「じゃあボクの方が終わったら迎えに行くよ」

「はい。万一私のが早かったらお店の前で待ってますね」

「うん。そうならないように切り上げるよ」

「それじゃ!」

マテリアを肩と帽子に載せたまま小走りになるチハヤ。まだ熱気の残る街中は照明が明るい。パティスリーも照明全点燈で迎えてくれた。

「ヤッホー!チハヤちゃん」

「いらっしゃい!」

「待ってたわ!」

「ごめんなさい。遅くなっちゃった?」

「ううん。時間通りよ」

「グプタ時間では・・・早すぎかも」

「言えてる!!!」

あっと言う間にパーティがスタート!並んだ料理も美味しそうだ。

「さ!食べて食べて!!!」

「それより呑んで!」

お酒抜きのはずだったのに・・・薄いアルコール飲料も冷えていた。甘口のカクテル系だが。グプタではお酒の扱いに入らないから未成年でもOKなのだ。

「おぉ!チハヤちゃんってイケる口?」

「実は・・・全然酔わないんです・・・」

「素敵!今日は大人の人たちが呑むようなのは無いから大丈夫ね」

「そうよ。楽しい夜だもん!」


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