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6.守銭奴の妖精

 



 目の前で仁王立ちし、急かすように手を差し出している人物を私は知っている。

 赤い髪に赤い瞳、背が高く整った顔立ちをした青年は名をアルフレドという。

 王子の婚約者だった時の王宮での知り合いだ。

 そして彼の燃えるように赤い髪の間からは二つの丸い獣の耳が、スラリと長い足の間からは長い尻尾が覗いていた。

 そんな人間とは少し変わった姿からも分かるように彼は妖精で、過去に私が召喚した妖精でもあった。


 でも、婚約者だった時の私は数え切れないほどの妖精を召喚しており、彼のことをそれくらいしか知らない。

 私、何かしたんだっけ?


「覚えがないんだけど、出す物って何だっけ?そんなものあった?」


「は?忘れたとは言わせないぜ。俺に未払いの給料があるだろうが」


 あ、そう言えばアルフレドについてもう一つ思い出した。

 彼は随分と変わった妖精だったんだ。

 妖精使いは公演をするために、まずは妖精と契約しなくてはならない。

 妖精を呼び出して契約するために召喚石を使って召喚する。

 婚約者の特権を使って資金をつぎ込み召喚を思うままに出来た私は、それほどランクの高い妖精ではなかったアルフレドの様な妖精のことは召喚しても気にも止めようとしていなかった。


 その私と関係を持とうと動いたのがアルフレドの方だった。

 妖精達の管理をする役を申し出てきた。

 その時は王宮の人間にそれを任せていたけど、妖精の立場のアルフレドがそれをした方が効率が良いと提案してきた。

 その時の私は結構良い提案かもしれないとそれを受け入れ、アルフレドに管理を任せることにした。

 今思うと、口車にうまく乗せられたような気もするけど。

 まあ、結果的にはアルフレドの言うとおり、前よりも管理がしやすくなったんだけどね。


 で、その時にそれをする条件として、アルフレドは給料の発生する雇用契約を要求してきた。

 街に出れば、人と同じように給料を貰って働いている妖精もいるが、召喚された妖精がそんなことを要求してくるなど聞いたことがなかった。

 それでも私は自分にとって有益となることには金に糸目を付けなかったので労働者として働く彼に給料を払っていた。

 うーん、それを思い出しはしたけど給料はその都度払っていたし、未払いの物なんてないと思うんだけど。


「毎月、きっちり払ってたでしょ。王宮からあなたに渡すように言っていたし。というか、それって1年以上前の話だよね。そんな話、なんで今更」


「お前が王宮を出てった月の給料が出なかったんだよ。今の王子の婚約者が自分には関係のないことだから、払わないとか言ってきた。これだから、庶民出の人間は面倒くさい。しかも、これからは給料も出さないとかぬかしやがった。協力するのは当たり前のことよ、とかふざけんな。で、辞めてきたから少しでも金は多く持っとくにこしたことはないと思ってここに来たわけ」


 なるほど。

 私以外の人間からすれば、召喚した妖精を雇うなんて考えられないような話だからね。

 でも、人間と同じような生活をしている妖精だっているはずなのに変な話よね。

 まあ、召喚できる妖精とできない妖精にはちょっとした違いがあるんだけど。

 そんな余計なことを考えていたら、早くしろというようにアルフレドが強い視線を送った。


「そうだったの。王宮も随分変わったみたいね。だから私を連れて行かないように言ったのね。でも、結果的には助かったからありがとう」


 アルフレドは私があのまま売られてしまっていたら、給料なんて払えなくなってしまうと思ったから、見捨てずに助けるようなまねをしたんだろう。

 そうだった、アルフレドはお金のことにはとてもうるさかったんだった。

 決まった仕事以外の事を頼むと契約労働外手当を、少しでも決められた時間を過ぎて働くことになると残業手当を要求してきた。

 そのくせ、そんなにお金を貰っているというのに他の召喚された妖精と一緒に住んで食費と居住費を浮かしていた。

 こういうのを守銭奴っていうんじゃないかな。


 でも、アルフレドが金にがめつかったおかげで本当に助かった。

 私じゃあそこで取り立て屋を言いくるめられなかったと思うから。

 しかも、アルフレドは素晴らしい提案をしてくれた。


 そうか!妖精使いとしてコンテストに出れば良かったのか!

 目の前のことに目を奪われすぎていて、そんな方法は考えもつかなかった。

 お先真っ暗だったこの現状に、少しだけ光が見えてきた。


「俺は金が貰えればそれで良いからな。別に、助けたわけじゃねえよ」


「いいえ、ほんとに助かったの。私だったら妖精使いとして借金を返していくとか思いつかなかったもの」


「へえ、お前本当にコンテストで賞金稼いで借金返すつもりなんだ」


 提案したのはアルフレドの方なのに意外そうな顔をした。

 確かに、元手も何もない状態でコンテストに挑もうとするなんて無謀すぎる。

 妖精を召喚するのも一苦労だろう。でも、私にはかなり邪道といえるような考えがあったのだ。


「ええ、良い考えがあるの。ねえ、アルフレド。そこで提案なんだけど、私のところでまた働かない?」


「は?なんだって?」


「私と雇用契約を結んで契約妖精にならない?もちろん、ちゃんとお給料は出すから」


 私がコンテストに出るためには最低でも1人、妖精を召喚しなくてはならない。

 でも、召喚石は1つ100万ペルもする。

 ペルという単位はこの世界の通貨単位で価値はほとんど円と変わらないものなので、日本円にすると100万円!高すぎる!

 そんな高価な召喚石を使っても、勝負にならないような妖精を召喚することも良くある。

 結構な博打だ。


 その点、アルフレドは激レアとまでは行かないまでも、中の上レベルの妖精だ。十分勝負になる。

 だから、ここでアルフレドと契約できればノーリスク、ノーコストでコンテスト出場条件を満たすことが出来るようになるのだ。

 普通だったら召喚していない妖精とコンテストに出るなんてあり得ない事だ。

 でも、色々とイレギュラーなアルフレドだったからこんな提案を思いついた。

 アルフレドもちょうど職を失っているみたいだし、彼にとっても良い提案だと思う。

 さて、誘いには乗ってくれるかな?




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