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1.テンプレ婚約破棄

 



 なぜこんなことになってしまったの。

 私はライアン様の婚約者として精一杯努力してきたと言うのに。

 どうしてなの。

 いきなり婚約破棄だなんて。


 昼食時、ある計画を実行しようと食堂へ行ったところ、全く予想もしていなかった事が起こった。

 ライアン様があの平民の田舎娘をかばって私の事を言及なさったのだった。

 身分もわきまえずに庶民であるあの娘が目障りで、自分の立場を身をもって分からせるために私は色々なことをしたわ。

 でも私がしたことを咎めること何て誰にもできないはずだった。

 それに、私はこの国の未来の王妃となる者。

 そのために、この国のためを思って邪魔者を排除しようとしただけよ。

 私は正しいわ。

 何も間違ったことはしていなかったじゃない。

 ライアン様、どうして分かってくださらないの。

 馬車に揺られながら私はそんなことを繰り返し何度も何度も考えていた。


「着きましたよ。さあ、早く降りてください」


 いつの間にか馬車が止まり、御者が扉を開いていた。

 なかなか降りようとしない私を促すように声をかける。

 これは王都の馬車で、ライアン様の命のもと私をここまで連れてきた。

 ここから降りてしまったらライアン様とも王都とも繋がりがなくなってしまう。

 そう思うと立ち上がる気など起きなかった。


「いいから、早く降りてくれよ。こっちだって無駄な時間取られたくないんでね」


 そう言うと御者は私の腕を掴み、エスコートと言うにはあまりにも乱暴に私の事を馬車から引きずり下ろした。

 なんて、無礼な行為なの。

 いつもなら体罰を与えた上で仕事をクビにし然るべき罪状を言い渡すところだが、今の私にはそんな気力はなかった。

 そして、御者は馬車に乗り込むとそのまま馬を走らせていった。

 その馬車が私の前から立ち去ったライアン様の姿と重なる。


「いやー!!お待ちになって!!私を置いていかないで!!」


 私は再び泣き叫んだ。

 泣き叫ばずにはいられなかった。

 誰も待ってはくれないというのに。




 連れられてきたのは私が幼いころ過ごしていた屋敷。

 お父様とお母様がいる言わば実家だ。

 ライアン様の婚約者となり王妃教育のために王都へ出て来てからほとんど帰ってきていない。

 ここ3年は1度も帰っていない。

 懐かしく思う気持ちなど全くなかった。

 ここは王都とは天と地ほども違う。

 綺麗な建物や華やかな人たちが町中に溢れている王都に対して、この屋敷の周りには青々と茂る雑草しかない。

 屋敷から少し離れたところにある集落でも、芋っぽい低俗な住人達がいるだけだ。

 ライアン王子との婚約を破棄され、魔法学校からも除名された私はこの場所でひっそりと生きていくことしか出来ない。

 あのように大勢の前で大々的に宣言なさったのだ。

 婚約破棄が覆ることなど絶対にあり得ない事は、誰にでも分かることだ。

 だから、絶望せずにはいられなかった。


 いつのまに連れて来られたのか、屋敷の自室の椅子に放心状態で座っていた私はそこからふらふらと立ち上がった。

 おぼつかない足取りでキャビネットまで歩き、引き出しを開けその中から昔に裁縫で使っていた裁ちばさみをつかみ取る。

 そしてそのまま、湯の張った浴槽へと向かった。


 もう、いいわ。

 こんな世の中生きている価値なんてないわ。

 あの方の、ライアン様の隣にいることができなくなってしまうのだったら今までしてきたこともこれからすることも何の価値もないことだもの。

 それにこんな田舎で暮らしていくなんてこの私が絶えられるわけがないわ。

 だから、もういっそのこと……


 私は左の手首に裁ちばさみの刃をぐっと押し当てそのまま思いっきり切り裂いた。

 切り口から溢れる鮮血で浴室の床はみるみるうちに赤く染まっていった。


 ピキィィーーーン


 何かが壊れる音がした。

 いや、正確には音ではなく何かが壊れるように感じただけ。

 わずかに魔力も感じたから、術式か何かが壊れたのかもしれない。

 そんなものあったかしら。

 でも、出血のせいかとても眠くなってきたわ。

 だから、私にはもう関係の……ない……こ……と………




「痛――――――い!!!」


 え?なにこれ?どうなってんの!?

 なんかめっちゃ手が痛いんだけど!?

 この前電車のドアに指挟んだ時が人生最大痛さだと思ってたけど、それを軽く超すレベルだわ。

 って、そんなこと言ってる場合じゃないよ。なんか超、血が出ちゃってるし。押さえても全然止まらないんだけど。これは結構やばいんじゃないの!


 やばいやばい!

 なんでこんなことになってるの!

 私がそう考えていると、身体が最期を感じ取ったのか今までの記憶が走馬燈のごとく浮かんできた。


 ライアン王子との出会い。魔法学校。転入生の登場。いじめ。悪行。婚約破棄。学園追放。


 様々な出来事が頭の中を駆け巡る。

 だが、身体ももう限界に近いのかだんだんと意識が薄れていく。

 その薄れゆく意識の中で私はあることを考えていた。そして、そのことを最期の力を振り絞ってでも叫ばずにはいられなかった。



「これって、悪役令嬢のテンプレ婚約破棄やないかーーーーーーい!!!」




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