11.基本ペット不可なのはこちらでも同じなようで
「ちょっとアルフレド。なんでこっち見てくれないのー?」
「別になんでもねえよ。ちょっ、こっち来んな」
召喚の後、宿へと向かう私たちは目的地は同じだというのにとても仲良くとは言えない距離感で歩いていた。
アルフレドは私のことを全くかまわずにずんずんと先へ進んでいく。
その原因は、私にあるのは感じているんだけど。
あの後、私がもふもふ天国から意識を取り戻して恐る恐るアルフレドを振り返ると、私の奇行を見たアルフレドは、視線が合った瞬間に私からばっと目を反らした。
それ以来、私と目を合わせてくれないのだ。
うう……
やっぱり私の気持ち悪さに引かれちゃったのか。
それでも、私と一緒の宿に泊まれば無料券を使えるから行動を別にしないところがさすがのアルフレドだ。
私は腕の中の子犬をさらりと一撫でした。
今は召喚で疲れたのか眠ってしまっている。
前世では家がマンションだったし、家族に犬アレルギーの人がいたのでこんなにも長く子犬に触れられる機会など無かった。
ついつい触ってしまう。ああ、癒やされるー。
悪役令嬢だった頃は、最上ランクの妖精にしか興味がなかったから人型を取った妖精としか会わなかったしね。
でも、人型の妖精でも基本系は動物型だから姿を変えることが出来る。
動物型を取ってもらったことはないけど、一回くらいは見せてもらえば良かったなあ。
あ、そういえば……
「ねえ、アルフレドの動物型って何なの?」
「はあ?急になんだよ」
「その耳と尻尾から考えて、獅子とかだと思うんだよね。当たってる?私、間近で見たことないから一回見てみたくて……今度、見せてくれない?」
アルフレドの耳と尻尾は特徴的で、ライオンのそれに似ていた。
妖精は大体は動物が基となった姿をしている。例外的にユニコーンやドラゴンなどの空想の生物もいるんだけどそれはごく少数だ。
ライオンなんて前世では動物園で遠くからしか見たことないし、今世では姿を見たこともない。
だから、見てみたい。
こんな状況なのに、私はそんな好奇心を抑えられずにいた。
だって、襲われる心配なくライオンを近くで見れるなんてなかなかない機会だし。
それに、触ることだって出来るかも知れない。
あのふさふさのたてがみをもふもふしたい。もふもふに埋もれたい。
おっと、いけない。
そんなことを考えてたら無意識に手が動いてしまった。
ふさふさをもふもふするイメージトレーニングを始めてしまった。
わきわきと動かしていた手を後ろに隠して、私は再びアルフレドに微笑みかけた。
「……い、嫌だ!絶対お前には、お前にだけは見せないからな!ひっ……、やめろ!こっちにこれ以上近づくな」
アルフレドはまるで恐ろしいものでも見たかのように、後ずさった。
心なしか顔色も悪い気がする。
なんで?別に何も怖いことはしないよ?
むしろ気持ちいいことしてあげるよ?
それでも、私がニコニコと優しく笑えば笑うほどアルフレドはどんどん離れていくので、とても残念だけど諦めたのだった。
私はもう一度、腕の中ですやすやと眠る子犬に目を落とした。
真面目な話、これからのことを考えるとこの子が召喚されたことはあまりラッキーとは言えなかった。
出来ることならもっと上のランクの妖精が召喚されて欲しかった。
やはり、コンテストで優勝するとなると妖精もある程度の強さが必要となってくるからだ。
しかも今回は時間が無い。
賞金を稼ぐ前に取り立て屋に見つかってしまったら返済能力の証明も返済計画の交渉も何もできないだろう。
出来れば明日にでも、コンテストに出場したかったんだけどな。
アルフレドとだけで出るか、それとももう少し日をおいてこの子を育ててからにするか悩み所だ。
実は低ランクの妖精でも一緒に経験値を上げたり、レベル上げのアイテムを使ったりなどすることで高ランクの妖精と同じくらいの能力を付けることも出来る。
でも、前世のアプリゲームでは低排出率の高ランクの妖精を出そうと躍起になってガチャにジャブジャブする人たちがいっぱいいた。
それはなぜか。
育成する手間が省けるという点もあるが一番の理由は、一目で激レアと分かるような豪華な絵と豪華声優によるボイスが高ランクの妖精にはついていたからだ。
そのボイスのために諭吉をつぎ込み課金戦士と化していた。
この世界では低ランクの妖精が人型を取ったときに声がないということは無いけど、高ランクの妖精の方が華やかで価値観があると認識されている。
召喚時に低ランクの妖精は差別して見られている。
貴族の令嬢など外聞を気にする人たちは低ランクの妖精を育てようとする事なんて無かった。
私も悪役令嬢の頃はそう思っていたんだけど……
そんなの勝手すぎる。
自分たちで呼び出しておいて気に入らなかったら突っぱねるなんて。
ゲームの中での話なら何とも思っていなかったけれどこの世界はもう私にとって現実のものだ。
妖精にだって心はあるんだ。
この子が一緒に戦ってくれるっていうんだったら最後まで召喚した者としての責任を持たなければならない。
「あなたはどうしたいのかな?」
気持ち良さそうなその寝顔を見ながら、私はまた頭を撫でた。
もしコンテストに一緒に出るんだったら最低でも人型を取れるようになるところまでいかないといけないんだよなあ。
問題は山積みだ。
「着いたぞ。その無料券が使えるのはここの宿だ。早く行くぞ」
「うん」
宿に着くとアルフレドは私の方を向いてくれた。
何となくぎこちなくはあるけど、あの奇行の記憶は薄れてくれたのかな?それなら良かった。
私はアルフレドのあとに続いて、子犬の妖精を胸に抱いたまま宿の中に入った。
「いらっしゃい。お客さん何人?……あー、駄目だよお客さん。うちは人型とれる妖精以外は宿ん中入れるの禁止にしてんだ。厩舎を貸してるからそこにおいてきな」
私たちを迎え入れたのは宿屋の主人だろう。
愛想良く話しかけた主人は、私の手の中の子犬を見ると顔をしかめた。
そっか。
前世でもペットOKの宿以外基本的に動物は一緒に泊まれないからね。
この世界だったらなんとなく大丈夫な気がしてたんだけど駄目だったか。
「そうなんですね。分かりました。そしたらこの券で1部屋貸してください。後は厩舎をお借りしますね」
「は?俺、お前と同室なんて嫌だからな。2部屋取れよ」
「お嬢さん、あんたのお連れさんはこう言ってるけどほんとに1部屋で良いのかい?」
「同室じゃないから大丈夫です。1部屋でお願いします」
アルフレドが横で口を出しながら文句を言っていたけど私はかまわずに手続きをして宿の鍵を受け取った。
そしてそのまま受け取った鍵をアルフレドに渡した。
「はい。アルフレドはこの部屋で泊まってきて良いよ。しばらくしたら今後の計画を立てるために行くと思うけど一緒の部屋には泊まらないから安心してね」
「俺がこの部屋に泊まるのか?じゃあ、お前は何処泊まるんだよ?」
「この子と一緒に厩舎に泊まるよ。召喚したばっかりで不安だろうし、こんなに小さい子を1人にしておけないからね」
アルフレドはまだ何か言いたそうにしていたが、これ以上長くなっても面倒なので私は気にせずにその場を離れた。
まずはこの子を早く休ませてあげないとね。
アルフレドとは後で話すからその時で大丈夫でしょ。
宿の裏にある厩舎に行くと先客がいた。
他の宿泊者が連れてきたであろう馬が2頭だ。
大きいなあ。1人と1匹お邪魔します!
どうでもいいけど、妖精ってなんて数えるんだろう。
動物型の時は1匹、1頭?人型の時は1人?
まあ、そこは臨機応変にイコール適当でいいか。
馬2頭がいてもまだ空間には余裕があった。
綺麗でふかふかな藁もたくさんあるし、なかなか快適に泊まれるんじゃないかな?
ちょっとアウトドア感あって楽しくなってきたぞ。
突然の半野宿の様な状況にわくわくしていると厩舎に誰かが近づく気配がした。
おっと、お仲間が増えるかな?
「って、アルフレド?こんなところにどうしたの?もう少し待っててくれたらそっちに話しに行ったのに」
厩舎の入り口には腕を組んだアルフレドが立っていた。
こちらを見ながらそれでいて何も話そうとしない。
私が話しに行くのを待ちきれずにここに来たのかと思ったがそういうわけでも無いみたいだ。
うーん、だったら何だろう。部屋が気に入らなくて文句言いに来たとか?
「この鍵返すよ。俺がそいつの面倒見るからお前があの部屋使って休め。王宮にいた頃だって俺がそういうことやってたんだから任せればいいだろう」
「ああ、そういうことね。いいよ、この子の面倒は私が自分で見たいの。一晩くらい厩舎で寝たって全然平気よ」
アルフレドの申し出は有り難いけれど、これから私と一緒に戦ってくれるかもしれない仲間を人任せにしたくなかった。
経験豊富なアルフレドの方がこの子にとっては良いのかもしれないけど、私がそうしたかった。
「平気なわけないだろう!」
いきなりアルフレドがそう声を上げた。
あまりに突然アルフレドが感情を込めたように声を大きくしたから私は驚いたし、腕の中の子犬の妖精も目を覚ましてしまった。
しかし、その声に一番驚いているのはアルフレド自身の様だった。
自分の口に手を当て、戸惑ったように視線をさまよわせていた。
「あ、いや、そうじゃなくて、借金の取り立て屋に見つかったらどうするのかと思って……」
「全力で隠れるから問題ないよ」
「そんな安易な考えが通るわけ無いだろう。お前だって女なんだから取り立て屋じゃなくても襲われることがあるかもしれないだろ。もっと危機感持てよ!」
怒ったようにそう言うアルフレドに私は場違いながらも嬉しくなってつい笑ってしまった。
アルフレドはこんな風にぶっきらぼうに言っているけど、私の事を心配してくれているみたいだってことが分かったから。
それを彼に伝えたら、また怒って否定するんだろうけど。
「……おい、何笑ってんだよ」
「ううん、別に」
案の定、にやけた顔を見られアルフレドに睨まれてしまったが、それくらい嬉しいのだから仕方が無い。
でも、アルフレドの優しさをむげにする事も出来ないし、この子と一晩といえども離れることも出来ない。どうすればいいかなあ。
答えを求めるように腕の中の子犬を見つめ、ぎゅっと抱きしめた。
「わん!」
私に答えるように、その子犬は一鳴きした。
すると、その瞬間だんだんと重さが増していくように感じた。
え?なに?実はこの子、子泣き爺だったの!?
私はパニックを起こして見当違いなことを考えながら思わず腕の中の子犬を藁の上に置いた。
すると私の気のせいではなく子犬は見るからに重量を増し大きくなっていった。
そして変化を終えるとその子犬がいた場所には5歳児くらいの黄緑色の髪をした男の子が立っていた。
これって、もしかしなくてもさっきの子犬だった子が人化したってことだよね?
問題は一瞬で解決してしまったのだった。




