10.召喚
私とアルフレドは2人、大荷物を抱えて商店街を歩いていた。
チュートリアルで勝利した私は豪華賞品というものを約束通り貰ってきたのだった。
「ほんとに良かったのかな?こんなにいろいろ貰っちゃって」
「良いんだよ。貰えるもんは貰っとけば。あの店は相当儲かってんだろうし。つーか、初心者にあんな勝ち目のないような勝負仕掛けてる奴なんだから、少しは痛い目見れて良かったんじゃねえの?」
「それはそうなんだけど。これからも、あの店は利用することになるんだから関係は友好な方が良いじゃない?」
「ははっ。お前、あれは傑作だったぜ。これからも仲良くやっていきましょうねとかなかなかな脅し文句だったな」
「え?脅し文句?私は本当に仲良くなりたいなって思っただけだったんだけど」
「お前、まじか。あそこまでボロ負けさせておいて、そんなこと言っても脅しか皮肉にしか聞こえねえから」
呆れたようにそう言うアルフレドに反論しようかとも思ったけど、第三者から見てそう見えるんだったらそうなのかもしれない。
うーん、デニスに悪いことしたな。
今度、何かお詫びが出来たら良いんだけど。
きっとデニスの中での私の第一印象は最悪になってるんだろうなあ。
これから何かとお世話になる予定だから仲良くしたいんだけど……
まあ、過ぎてしまったことは仕方が無い。
それよりも、今は目の前の問題に目を向けなければならない。
それを解決しなければ、そんなことも言っていられなくなるんだから。
「これからはどうする予定?」
「まあ、とりあえず今日やることは終わったから、宿にでも泊まるか?」
「そうね。さっきの賞品の中に宿の宿泊無料券もあったことだしね。あ!ちょっと待って!その前にやらなきゃいけないことがあったんだった。この近くで開けてるところってない?」
「ああ、あれをやるのか。それならあっちの方に良い場所があるぜ」
そうそう。
せっかくチュートリアルが終わったんだから、お決まりのあれをしておかないとね。
アルフレドの後についていくと、岩山のようなところに着いた。
そう言えばこの街にはもう使われなくなった魔法石の採掘場があるって聞いたことがある。
ここなら場所も十分あるし人も来ないだろうし良さそうだ。
「あ、アルフレドも見ていくんだ」
「お前にツキがあるのか見てこうと思ってな。まあ、今までのお前を見てるとあるようには思えねえけど」
「ふ、不吉なことは言わないでよ!」
そう、私が今からやることには運がとても重要になってくる。
デリケートな問題なのだ。
運気が下がるような事だけはしないで欲しい。
私はこれから妖精の召喚を行おうと思っているんだから。
召喚とは妖精使いが登録してから次に必要不可欠な過程でこれをしなければ普通は妖精と契約出来ることはない。
アルフレドと私の契約方法は例外中の例外みたいなものだ。
召喚なんてかっこよく言ってるけど、これはソーシャルゲームに良くある、いわばガチャだ。
召喚石1つで一体の妖精が召喚できる。
召喚される妖精にはランクがあり、高いものは出る確率が低く、ランクが低いものは排出されやすくなっている。
運が悪ければ何回やっても低レベルの妖精しか出ないときもあるのだ。
ちなみにこのゲームでの妖精は、動物型の妖精でデフォルメキャラが可愛いというのも人気の一つだった。
また、アルフレドのようにある程度ランクが高い妖精は人型を取って現れるが、ランクの低い妖精は人型を取ることが出来ない。まずはそこがランクの判断基準になる。
私は地面を軽くならすとそこにチョークで魔方陣を描き始めた。
召喚は先ほどのショップでも出来るけど、悪役令嬢時代も自宅で自分で魔方陣を描いて召喚をしていた。
魔方陣と召喚石さえあれば場所は問わずに召喚は何処だって出来る。
私、魔方陣描くのは小さいときも悪役令嬢のときも、もちろん今も好きなんだよね。
それに、こっちの方が自分の思いを込めた魔方陣だから出る気がするんだよね。
そうこうしている内に、魔方陣がほぼ完成した。
うん、我ながらなかなかの出来だ。
後は中央に魔法石を置いて外側の円を完全に閉じれば、召喚が始まる。
手持ちの魔法石は一つだけ。
チュートリアルの終了で貰った物だ。
この一回の召喚で決めなければいけない。
出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ………
「はっ!こんな風に考えてちゃいけなかった!」
「お前、物凄い形相で魔方陣睨んでたと思ったら、突然どうしたんだよ?」
「そうよ。これじゃあ物欲センサーが反応してしまう!クラリス、邪な気持ちは捨てるのよ」
「はあ?」
何か隣でアルフレドが言っているような気もしたけど、今はそんなことにかまっている余裕はない。
心を無にしなければ。
私はできる限り何も考えないようにして魔方陣を完全な円にした。
その瞬間、魔方陣から光が溢れ始まる。
そして、間が眩むような光が収まるとその魔方陣の中央に召喚石が消え、何かが存在していた。
「……くぅん」
そこには一匹の子犬が座っていた。
頼りなさそうにこちらを見つめそう鳴いた子犬はゴールデン・レトリーバーに似ていた。
動物型の妖精だ。
その姿をみとめた私は、目を見開きまともに声を出すことも出来なかった。
「かっ…………」
「あーあ、お前にはやっぱツキは無かったか。しかも、こいつ最低レベルの妖精だぞ。どうすんだ?捨ててくるか?」
私はあまりの衝撃でアルフレドの声など耳に届いていなかった。
そして、ふらふらとした足取りでその妖精に近づいていく。
そして、そこにたどり着くとその妖精に手を伸ばした。
「お、おい!」
アルフレドの制止の声よりも先に手が触れると私はその妖精を思いっきり………撫で回した。
思いの限り撫で回した。
なでなでなでなでもふもふもふもふ
「かっ、可愛すぎる!なにこの生き物!可愛いよう可愛すぎるよう!撫で心地も幸せすぎる!うん?ここがいいの?ほうら、よしよし。もっともっと撫でてあげるからねえ」
「わん!」
最初は不安がっていたその子も私が撫でている内に安心したのか、嬉しそうに返事をした。
気持ちよさそうにお腹まで見せてくれるその子に私まで癒やされていた。
私は前世から無類の動物好きだった。
動物を見ると我を忘れて飛んでいき撫で回していた。
その時の私の姿がきもいと前世の友人達にはよく引かれていたから1人の時以外は自重するようにしていたんだけど……
そこまで思い出して私ははっと我に返った。
そうだった!今、ここでも1人じゃなかったんだった!
記憶が戻ってからも動物と接する機会が無くて、久しぶりで嬉しすぎてテンションが上がりすぎていたからすっかり忘れていた。
ここにはアルフレドもいたんだった……。
おそるおそる後ろを振り向くとそこには、絶句という言葉がぴったりな表情をしたアルフレドがあんぐりと口を開けて私の事を見ていたのだった。
お願い!引かないでー!




