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アタシは、死ぬことにした  作者: 戦慄のばしょうかじき
4/5

頑張って探すことにした

 まあとにかく、遺書に従うと、アタシはこの場所に自転車を止めなければならない。

 しかも、次にコイツを迎えにくるのは、止めた本人のアタシではなく家族の誰かである筈だから、できるだけ判りやすい場所に置かなければ、見つけて貰えない可能性がある。

 それはどう考えてもコイツが可哀想だ。

 とはいえ…判りやすい場所どころか、現時点では空きスペース自体が見当たらないんだが。


 ぐるぐるぐるぐる。


 アタシは自転車を押しながら、空きスペースを捜して歩く。

 何だか怪しいがそこは仕方あるまい。

 ここに止められなければ、アタシは遺書を書き直さねばならない。

 しかも修正箇所が見て判るのは明らかにみっともないので、直すならその一文の書かれた一枚まるまるだ。

 ぶっちゃけ、それはめんどくさい(爆)

 仕方なく、適当な隙間に自転車を無理矢理割り込ませる。


 あ。




 がしゃん

  がしゃん

   がしゃん

    がしゃん

     がしゃん

 (以下略)




 自転車置場に、騒がしいが妙に虚しい音が響きわたった。

 あーもう。

 アタシが割り込ませたスペースの両隣では、見事な将棋倒しが起こっていた。

 仕方ない。

 こうなったら、コイツらを立て直すついでに隙間を詰めていって、アタシの為のスペースを確保してやろうではないか。

 ここでコイツらが倒れたのは、そうせよとの啓示に違いあるまい。

 アタシの自殺への道は明るく照らし出されている。

 無駄にポジティブな解釈をしながら、アタシは、アタシが倒した他人の自転車を、ひとつずつ直してゆく。


 よっこらせ。


 そうしながら、


『コレやるよか、潔く遺書書き直した方が、結果としてはめんどくさくなかったんじゃねえの』

 という、心の片隅での呟きを、アタシは無視することにした(爆)


 ようやく、目的の場所に自転車を止め、鍵をかけながら、アタシは心の中で呟く。

 ねぇ。

 アンタはずいぶん長いこと、アタシと一緒にいたね。

 北海道だから冬場は雪に埋もれながら、でも春になれば整備をしてもらって、雪のない間は、出勤やちょっとした外出なら、いつも一緒に出掛けたね。

 晴れの日も雨の日も、アタシを行きたい場所に連れていってくれてありがとう。

 こんな場所に置いていってごめんね。

 でもきっと家には帰れるから。

 それまで待ってて。


 さよなら。

 アタシの自転車。


 切ない気持ちがこみ上げてくるのを感じながら、アタシは自転車置場をあとにする。

 どうか家族が、コイツをうまく見つけてくれることを祈りながら。

 アタシは、駅の入口をくぐった。


 ・・・


 海が見たいという想いに深い意味なんかない。

 乗車券の販売機の前に佇み、アタシは己が行き先と料金を確認する。

 ラッシュ時間ならば迷惑極まりない行為だが、今は空いてる時間だ。


 うーん…。

 今の手持ちの金額で行ける海は…と。


 てゆーか。

 どうせ今日で人生終わりなんだから、銀行口座の中のわずかな全財産パァーッとおろして遠くに行くとかいう手段があった筈なんだが。

 そこらへん考えが及ぶくらいなら、自殺考えるほど追い込まれてない気がするので、ココつっこむのはやめておこう(爆)

 とにかく。

 財布との相談がまとまった場所までの切符を、アタシは券売機で購入し、二度と戻らない(筈の)運命のゲートをくぐった。


 ☆☆☆


 …ぶっちゃけ北海道の海はあんまり綺麗じゃない。

 観光用でもシーズンでもない砂浜には、それでもあちこちゴミが落ちてるし、打ち上げられたホンダワラには、ぴょんぴょん跳ねる虫がたかっている。

 ふと見れば、海岸を散歩するオヤジが連れている犬が、こころゆくまで思いのままに排泄していたり、もっと向こうでは制服着た女子高生が、何やらラッパ的な楽器を練習しているが、危うく耳を傾けたら砂につまづくくらい下っ手くそだったりして、思わず、


『まったく、これじゃムードもへったくれもないもんだ。残念だったね』

 と、砂の上に虚しく佇むデカいボートの陰でさっきから寄り添って座ってる若いカップルに、アタシは同情した(爆)


 やつらにアタシの心の声が聞こえていたなら、きっと


『今のオマエにだけは言われたくない』

 とでも言われていただろうが、そんなん知ったことじゃない。

 少し人目があるのが気にはなったが、夏場は海の家になっているであろう建物の前に、アタシは腰を下ろした。


 潮の香りは、割と好きだ。

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