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Act.12 ボイスレコーダーと起動

 澤村と高林は老朽化したビルの外階段に腰を下ろして煙草を吸っている。取り壊しが決まっており、立入禁止のお触れが出ているので、言いつけを守る良い子は寄ってこない。だから彼らにはうってつけの場所だった。


 三好はあれから数日、登校していない。


 澤村は目に見えて荒れていた。オイルライターのふたの開け閉めを何度も繰り返す。カチカチカチカチと。


「俺に恥かかせやがって、ほんといらつく」


 高林は、三好がやられたことはどうでも良いんだよなあ、とため息代わりに紫煙を吐く。高林は先輩の筒浦に秘密裏に撮っておいた廻栖野の写真を送る。筒浦からは上々の反応が返ってきた。


「なあ澤村、あのレーランの子にちょっかいかけに行こうぜ」


 澤村は口角を吊り上げて笑った。


×―×―×―×―×―×―×


 廻栖野哀は考える。

 強さはいつだって自分(わたし)が持っていないものだ、と。

 だから人間(ひと)は、他人(ひと)の中に強さを見出だす。


 校門から少し離れたところに、澤村と高林が立っていた。嫌がる清虚嶺蘭学園の生徒に執拗に構っている。


 廻栖野に気が付いた澤村が、やあ、と声をかける。


「その子を離しなさい。頭の中はマリファナ畑なの? 通報ものよ」

「そんなこと言わないでよ。だって君が構ってくれないから寂しくてさ、俺たち。これじゃあ浮気しちゃうよ」

「ストーカーには自分がモテないという自覚が足りてないって言うけど、本当ね。気持ち悪い」


 澤村が女子生徒に絡むのをやめる。


「今からハルカちゃんのとこに行くの?」

「あなたには関係ないでしょ。失せて」

「そんなこと言わないでさ、俺に乗り換えなって」


 それに、と廻栖野は不愉快そうに眉をしかめた。


「私はハルカ先輩の彼女ではないわ」


 余程、澤村の発言が癇に障ったらしい。高林は、おっかねーと冷や汗を垂らした。


「じゃあ、なおのこと俺と付き合ってよ」

「あなたたちにハルカ先輩に勝っているものがあるとは到底、思えないのだけど」


 澤村が、目を釣り上げる。


「ならハルカちゃんに勝ったら、俺たちに付き合ってくれよ」


 俺たちにって言っちゃダメだろバカと高林は澤村を内心、うんざりしていた。使い勝手が良いから、付き合っているが、そろそろ面倒になってきたなというのが高林の本音だった。


 だから廻栖野の解答は意外なものだった。


「良いわよ」


×―×―×―×―×―×―×―×


 川のそばのベンチで涼んでいた龍宮のところに、廻栖野と澤村、高林がやって来た。


「廻栖野。なんでそいつらがいるんだ」


 龍宮は怪訝な顔をして廻栖野を睨む。彼女はそっぽを向いていた。


「ハルカちゃんに勝ったら、俺たちと付き合ってくれるんだってさ」


 澤村はもう包み隠すことさえしない。


「本当か、廻栖野」

「ええ」


 心がざわつく。けれど龍宮はなんとか抑えた。「そうか」。龍宮は一拍置いて言った。


「なら俺は戦わない」


 澤村が「腰抜け」と挑発する。龍宮は黙っている。


「俺たちの不戦勝だな。ウェーイ」


 澤村が強引に廻栖野の手を引く。廻栖野がキッと澤村を睨んだ。


 物事には筋があると龍宮は考える。けれど今、それにかまけて廻栖野が連れて行かれて、その先はどうなる。考えるまでもない。焦燥や義憤は募り、火が着いたように龍宮はベンチから立ち上がった。

 ここで見過ごすことが正しいとは到底思えない。澤村の奴をぶん殴ろう。俺の流儀なんてかなぐり捨てる。そう思っていた矢先、廻栖野のボイスレコーダーが袖から落ちたのが見えた。歩み寄って龍宮が拾う。


 廻栖野の抵抗に対して、澤村が握る手に力を込めた。ほら行くぞ、と澤村が手に火を点して加速させる。足がもつれて廻栖野は転ぶ。 


「立てよ」


 抜け目のない廻栖野によって、一部始終がボイスレコーダーに録音されていた。ふざけんなよ、と龍宮は拳を握る。再生を続けると、『良いわよ』と廻栖野が言った場面の様子が流れた。


『だけど言っておくわ。ハルカ先輩の強さを、あなたたちは一度たりとも見てはいない!』


 水よ。


「立てよブス!」


 水よ。水よ。水よ


「澤村、手ェ離せ」


 澤村が「あ?」と高圧的な態度で、龍宮をねめつけた。


「廻栖野から離れろ。そう言ったんだ!」


 龍宮が川から水を集める。

 それはどこまでも透き通り、上流に向かって伸びていく道をのぞむことができた。


 アルターポーテンス、起動。


「流水神楽」

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