■ 軍 神
少しでも感情移入できるよう、本文を大幅に加筆しました。
零戦のエースパイロット青松中尉の元に死神が現れた。
太平洋戦争末期、戦況は日本にとって極めて不利。圧倒的物量を誇る米国に劣勢を強いられ、既に資源も人材も尽きようとしている。
当初は無敵だった零式戦闘機も米国の技術力の前に優位性を失った。確かに現時点でも日本の技術力は高い。しかし量産体制の整った米国と、資源が枯渇し機体の材料はおろか燃料すら困窮している現状では日本の敗北は確定的だった。
そんな折、青松中尉の元に最新鋭零型戦闘機"紫電改"が届いた。おそらく彼の最後の機体。この機体があと十機あれば、そして操縦するのが俺の同期の奴らであればその数十倍の敵にでも勝てただろう。
彼は数日後、太平洋上に特攻に赴く。彼以外は従来型戦闘機であり、パイロットは戦闘経験も乏しいヒヨッコども。そしてギリギリの燃料。生還など初めから視点にないいわゆる"神風特攻"だ。
しかしそんな決死の攻撃も、米軍艦隊にとって微風程度でしかないだろう。無念。それが偽らざる彼の本心だった。
死神が現れたのは、その夜の事だった
青松中尉は、その異形に僅かに眉を顰めたが怯えることはなかった。今更・・と思う。毎日戦友が死んでいく、死は日常である。
そんな青松の思いを余所に死神は言った。
死神『汝の母が自らの命と引き換えに汝の命を救うよう神霊に嘆願した。しかし汝の死は必然であり変更できない。せめて汝に死に方を選ばせてやろう』
死に方を選べる・・?
青松「望みの死因を選べるのだな?」
死神『ソウダ』
青松「死ぬ日は指定できるのか?」
死神『七日以内デアレバ出来ル』
青松「場所は指定できるのか?」
死神『時間的、物理的ニ移動可能デアレバデキル』
青松「俺は四日後、太平洋上の敵艦隊に特攻する。敵旗艦空母と差し違えで爆死させてくれ」
そのわずかに残された彼の希望も、死神の次の一言で潰えた。
死神『他人ノ命ヲ直接ニ奪ウコトトナル行為ニ起因シタ死ヲ叶エルコトハデキナイ』
青松中尉は思った。それは戦場で死ぬという願いは叶わぬ、という事ないのか?
青松「母は、この "願い" の事を知っているのか?」
死神『知ッテイル。全ヲ死ッテナオ "願イ" ノ為、命ヲ絶ッタ』
武士の家系に育ち職業軍人の亡父を支えた母。無為に生きるより、潔く死ぬを尊んだ。
ならば何故.......。暫しの逡巡の後、青松は心を決め "願い" を告げた。
死神『ソノ "願イ" シカト叶エヨウ』
死神は消えた
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大本営発表
本日、海軍所属第〇××航空大隊(隊長 青松貞明中尉)が米軍第三艦隊に特攻。敵旗艦空母一隻、駆逐艦五隻、護衛艦四隻を撃沈。敵戦闘機多数撃破。その後、青松中尉は敵集中砲火を浴び撃墜されるも味方巡洋艦により・・
【 解 説 】
青松中尉は死神に『故郷で、七日後に、病気(心不全など)で死にたい』と望んだ。このことにより以後七日間、彼はどんなに無茶な事をしても死なない。実質的に不死に成れる。
(これは一例です。死因も場所も、他にいろんなパターンが考えられます)
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母は神に息子の延命を祈願し、既に自ら命を絶っている。神はそれを憐れみ、青松少尉に『自らの死を選ぶ権利』を与える。
四日後の特攻で、彼は"不死"の効果と、元々の戦闘技術の高さも相俟って多くの敵を倒したが、弾薬を打ち尽くし、燃料も尽き、敵の集中砲火により海に墜落するも、ほとんど無傷で味方の軍艦に救助され、その後、数日の休暇をもらえ帰郷し、七日後、心不全で死ぬ。