都市伝説の処方(レシピ) File.02
"都市伝説の処方" の視点を変えた続編ですが、
どちらを先に読んでも構いません。
■都市伝説の処方 File.02
俺には、いま妻に内緒にしてることがある。
結婚記念日のサプライズ旅行。
妻に隠して密かに企画中なんだ。
海外旅行ならやはりハワイかな?
ある朝、朝食前に旅行情報でも見ようとノートパソコンを開く。
すると「何してるの^^」って妻が肩越しに覗いてきた
いや、チョッと調べものを・・と、何とか誤魔化そうと振り返ると、妻がすごい眼で睨んでた!?
「な、なんで私のパスワード知ってるの!?」
えっ?・・なんでって・・蓋開けただけだよ?
あれ?・・スイッチ入ってたの??
しかも、このスタート画面、俺のと・・違う!?
このPCは妻と共有で使っている。
アカウントを二つ作り、別々のパスワードで管理することで、
検索履歴やメールなどのプライバシーが守られていた。
本来、シャットダウしないで蓋を閉じると、スリープモードに入り、
再度使用する為には、パスワードが必要になる・・はずなんだよなぁ?
俺は焦った。
「こ、これってちょっと特殊な、珍しいPCエラーなんじゃないかな?
ほら、だって君、昔から○○○○〇・・・・あっ!」
!!!!!!まずい(*_*)!!!!!!!
私は言って直ぐに後悔した。
これは彼女にとって最悪のNGワード!
妻は、ものすごい眼で私を睨み・・・
そして、少し悲しそうに目を反らしてしまった!
まずい!まずい!まずい!まずい!
結局その朝、まったく目を合さず無言の食事を済ませ、
俺は、早々に出勤した。
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定時に帰宅。
妻の無言攻撃、恐怖のサイレントアタック!
既に心が折れそうな俺の前に冷めた夕食を、ぞんざいに置いて浴室に向かう妻。
俺は、ふぅ・・と、ため息をつき・・
あれ!?
書棚の脇にボーッと光るものが・・?
スカーフに隠されたノートパソコン。
あいつ、またスイッチ入れ放しだ。
開いてみると、画面に表れたのは、毒々しい色で縁取られた不気味なサイト・・
”毒夫デス*ノート”??
あいつこんなもの見てるのか?
あれ? ・・・「Message・K」と書かれたボタンが点滅している。
クリックすると、
・・・・・秘薬のレシピ??
あっ! 妻が浴室から出でくる!
私は急いでプリントアウトし、
ノートパソコンを閉じた。
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<< 秘薬のレシピ >>
【 疑似心不全薬 】
○〇製薬の風邪薬○○ナールを粉末にし10mgを、・・
○△漢方の胃腸薬×△15mg・・・・・加熱後・・
※服用後、30分で、心不全に酷似した症状が現れる。
<秘薬は汝らの為に。一つは選ばれた、残りは一つ。成すか否かは汝の自由。>
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俺は、興味本位にレシピの指示にある薬品を集めてみた。
劇薬指定のものなど無く、近くの薬局で簡単に手に入った。
調合と言っても20分程度で終了。
かなり拍子抜け。
真剣に頑張っちゃった俺ってバカみたい。
これって効果有んの?
冷静に考えれば、
こんなもので劇薬など作れるはずがない。でも市販薬でも安くない。くだらない茶番に散財しちまった。
この闇サイトの噂も調べてみた。
要点を整理すると、
①管理者は死神であり、必要とする者のみ招かれる。
②その者に適する秘薬の処方が授けられる。
③秘薬を作れるのは招かれた者だけ。
都市伝説としても、かなり低級な部類だ・・
そもそも目的がわからない。悪質な有料サイトか?
それとも、スピリチュアル系の詐欺だろうか?
妻どうやってこの闇サイトを見つけた?
どこまで本気で信じているのか?
とりあえず、少し様子を見ることにする。
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ある朝、不快な気分で目覚める。
夢見が悪かった・・って、どんな夢だっけ?
などと思いながらリビングに向かう途中、
ふと、キッチンを覗くと・・・
妻がカップに何かを入れた?
なるほど、今日が決行日なんだ。
さて、どうしようか?
とりあえず食卓に着く。
そして、何気なく会話を試みる。
「俺たちもう結婚3年目だろ、今度の結婚記念日、二人で旅行でも行かないか?」
こんな場面で言いたくなかったなぁ
「え?!」
驚いた様子の妻。サプライズ成功・・・なんてね・・;
「海外旅行なんてどうだい? あっ!でもパスポートの期限は大丈夫かな? 調べてくれないか?」
「あっ・・は、はい!」
妻は部屋を出た。
彼女のカップには小さな口紅の印。なるほど・・
そして・・・俺は自問した。
”俺はどうしたいんだ? ”
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計画はこうだ。
とりあえず、俺は何も知らないふりをしてコーヒを飲む。もちろん本当には飲まない。
そして、大げさに苦しむふりをする。
その時の妻の反応を見てやろう。
もし、妻が後悔し、嘆き悲しんだら、
俺は、元気に飛び起き、俺は死にません!と、にっこり笑う。
逆に、妻が作戦成功とほくそ笑んだら、
俺は、おまえの悪巧みなど、まるっとお見通しだ!と・・・
えっ!?
パスポートを持って戻ってきた妻は、俺にパスポートを渡すと同時に、
そっと、自分のカップから小さな口紅跡を拭き取り、俺のカップと交換した。
そして・・・
コーヒーを一気に飲み干したぁ!?
この一連の動作を、俺が見ていたことには、妻は気付いていない。
・・ 一つは選ばれた ・・・
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<秘薬は汝らの為に。一つは選ばれ、残りは一つ。成すか否かは汝の自由。>
秘薬なんて嘘っぱちさ!
あんなもの効くはずがない!
でも、妻の苦しみに耐えるかのような表情。
それでいて何かが吹っ切れたような笑み。
そして少し潤んだ眼差し。
それらは、何を意味するんだろうか?
もしかして、あの闇サイトは『自殺サイト』?
俺はその考えに納得がいった。
妻がこんなに追い詰められてるって知らなかったんだ・・って、いまさら、言い訳か?
・・ 一つは選ばれた ・・
君は、一人で逝くことにしたのか? 俺をおいて?俺は君を失う?
・・ 秘薬は汝らの為に ・・そして・・ 一つは選ばれた ・・
そして、妻は ・・ 実行した!!
・・ 残りは一つ ・・
俺は、俺の作った”秘薬”を数滴たらすと、
カップに口を付け、一気に飲み込む。
味にも香りにも違和感がない普通のコーヒー。
妻の淹れてくれたコーヒー
・・ 汝は選んだ ・・
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雨の少ないハワイで、7日中、4日が雨、しかも晴れ間なしの連続豪雨。待ったく想定外!
新婚旅行の夜、悲しい声で妻はこう言った。
「いつもこうなの、想定外エラー、想定外の女、ずっとそう・・そして、これからも・・」
それが俺たちのNGワード・・・
馬鹿なこと言うんじゃないよ(笑)
今度のハワイ旅行は全日快晴さ!
絶対だよ! 俺の命にかけて・・・って、しゃれになってない?
そうだ、会社に有休申請しとかないといけないな!
「行ってきま~す♪」
俺は、元気に手を振って、車に乗り込んだ。
そして、小さく手を振り、優しく微笑む妻の姿を、うるむ瞼に閉じ込める。
こんな闇サイトを見つけたのも、想定外の偶然かな?
でも・・・
生まれ変わっても、一緒にいような