首枷
私とルーくんとフリューさんは、槍の国の宿屋に瞬間移動しました。突然現れた私たち三人に大層驚いている宿屋のご主人に「おっちゃん三人で二部屋」とフリューさんが言い、手早く鍵を受け取ります。部屋に入り、先ずルーくんをベッドに降ろしました。
フリューさんが微妙に私と距離をとって立ってます。
「どうしました?」
「いや、裏切ったばっかりだから間合いに立ちづらい」
???
どういう意味でしょう。私の間合いならこの町から出てもう一つ分くらい離れないとダメですけど……。ああ、フリューさんの間合いということですか。まあ魔物に取り憑かれてたわけですから気にすることないと思いますよ。
「魔物の影響とかじゃなくて、わりと積極的にお前らを殺そうとしたからな、俺は」
「そうなのですか」
「ああ」
私たちもフリューさんを殺しに行ったわけですから、おあいこですが。ふむ、フリューさんは落ち込んでいる模様です。というか心臓を抉られたはずなのに元気ですね。あ、自己再生効果のあるディバインメイルのおかげですか。
「そうだ。ディバインメイルをルーくんに貸してあげてくださいますか」
「逆効果だと思うぞ。回復呪文と同じで使い手の魔法力を傷の治癒に変換してるだけだから。いまのあいつは魔法力も枯渇してるだろ」
む、微妙に役に立ちませんね。デクの棒でウドの大木ですね。
「魔王になってでも生き延びたかったんですか」
勇者さんが殺された時に、しんがりになって魔王を食い止めてくれたフリューさんからすれば、それはなんだかとても違和感のある行動な気がしました。
「ま、そうだな。自分でもお前らを殺してでも生き延びたいと思うほど生き汚いとは思わなかったよ」
やはり魔王の影響と考えたほうがしっくりきます。
うーん。
「ヒフミ?」
「はい?」
普通に返事をしたつもりが、まばたきをするとポロポロと涙が膝の上に落ちました。少しでも勇者さんのことを思い出すとすぐにこれです。おかしいですね。
「ぶっちゃけあなたが生きていようが死んでいようが、裏切っていようが庇ってくれようが、勇者さんが帰ってこないならどうでもいいんですよね。私」
「そうだな」
なにげなくフリューさんは立ち上がり剣を取りました。ちらりと窓の外を伺います。
「どうしました?」
「瞬間移動呪文の準備を。ルイと一緒に逃げれるように」
キリリとした真剣な顔で言います。元が線の細いイケメンな顔立ちなのでこういう顔をすると緊迫感があります。私は眠っているルーくんの手を掴みました。敵、でしょうか? 魔物? 街中ですけど。
「人間だな。武装してる。多分十七、八人くらい。囲まれてる」
音波反響呪文を使ったのでしょう。周囲の状態を見切ったフリューさんが鞘から剣を抜き払います。
ていうか、いまさら人間が私たちになんの用でしょうか。あ、もしかして魔王を倒したことが広まっていないから捕まえにきたのでしょうか。素直にお伝えすれば引いてくれるかもしれませんが、命令を受けて動くだけの兵隊さんならばそうはならないでしょうね。
「戦闘ならお任せしても?」
「ああ。借りは返すさ」
微笑んだフリューさんは伸長呪文を唱えて剣を振るいました。長大に伸びた剣が入り口の扉を半分切り裂きます。扉の前に立っていた人の首筋数ミリ手前で剣を止めていました。
「一応訊いとくが、殺し合いにきたのか話し合いにきたのかどっちだ?」
「――」
「まあ捻じ伏せてからでいいか」
フリューさんはそのまま横薙ぎに剣を払って三人ほど固まっていた兵隊さんをまとめてぶっ飛ばしました。一応、伸長呪文で刃の部分を厚くして斬撃ではなく打撃で済ませたようです。
不意に窓の外が光りました。一拍遅れて爆裂音。まさか大砲ですか? 街中に向かって? 呪文で軌道修正してここだけにあたるようにはしてるんでしょうけど。
フリューさんが私たちと窓の間に立ち、自身が腕につけているバックラーに伸長呪文をかけました。同時に硬化呪文を施します。ごく小さな盾が幕のように広がり、そこへ砲弾が直撃しました。衝撃と爆音が空気を揺さぶりますが、盾は砲弾を悠然と受けきりました。二発、三発と着弾しますがやはり無駄です。フリューさんを相手にするのに、魔法使いを用意しないのはあまりにも無謀です。
「ふっ」
フリューさんが剣を突き出すと、瞬間的に200メートル以上伸びた剣の切っ先が大砲の砲台を貫きました。砲撃戦に望みがないと見た兵隊が十数人、最早崩壊している部屋に踏み込んできます。「ヒフミ、伏せろ」フリューさんが腰に差した短剣を抜きそちらにも伸長呪文を施します。半回転するように体を捻ったフリューさんが長大に伸びた2本の剣を振り回しました。まとめて襲い掛かってきていた兵隊がものの見事に叩き伏せられ、路地に転がります。同時に大砲によって崩壊寸前だった宿屋がトドメを刺されました。倒壊した二階が落ちてきます。私は旋風呪文を使って降ってくる瓦礫をふっ飛ばしました。
「派手にやりましたね」
「まあ死んでないだろ」
呪文を解き、元のサイズに戻った剣を鞘に戻します。私はあの勢いで金属の塊がぶつかったなら死んでいてもおかしくないんじゃないかなーと思いました。
ともかく、フリューさんは手近なところに倒れている一人の頬をぺちぺちやって叩き起こしました。「おいこら、起きろ」ふむ、よく見ると、槍の国の国軍の装いです。しかも住民を避難させてからことに及んでいた様子。街中で大砲ぶっ放すんだから最低そのくらいはしてますよね、そりゃあ。そして鎧の随所に対呪文兵装が見られます。紋様を施して減衰呪文の効果を与え、攻撃呪文の威力を削るモノです。物理攻撃には効果がなく、むしろ鎧を削って紋様を刻む分だけ装甲が脆くなったりします。……ということは彼らって対魔法使い戦を想定して、つまり私との戦うためにやってきたのでしょうか?
「い、いたい」
「俺らになんのようだ?」
「……」
フリューさんは兵士さんの折れている腕を捻りました。「うぐぅ」痛みに呻く兵士さんに冷たい目を向けます。
「おい、早くしろよ。別にこっちはお前にトドメを刺して他のやつに聞いても構わないんだぜ」
さすが元・軍人さんです。こういうときは情け容赦がありません。
「わかった話す!話すからやめてくれ!」
「おう、さっさとしろ。あと、」
フリューさんの背後をとって仕掛けようとした兵士さんが、奇襲しようとしていました。後ろも見ないままフリューさんはわずかに腰に手をやって、鞘に伸長呪文をかけました。急に伸びた鞘の一撃を食らって兵士さんが吹っ飛ばされていきました。
「こういう小細工は次にやったら命ねーぞ?」
「ひいいっ」
フリューさんが大変恐いです。ええと、私って戦術の相性上フリューさんに対してほぼ必勝できるのですが、なんというか私が勝てる相手でよかったです。そうでなかったら恐くて近くに立てなかったと思います。イケメンですし、魔王ですし、私が恐がる要素満載です。イケメンとても恐い。なんか目とかキラキラ光ってるので恐い。鼻からモテる粒子とか出してそう。
「もう一回聞くが、誰の命令でどういう大義名分でお前らは動いてるんだ?」
「っ……」
怯えきって何も言えないでいる兵士さんの腕を、もう一回捻りました。
「ひ、光の国だ! 光の国から依頼があったんだ!」
「あん?」
フリューさんが怪訝な顔をします。光の国とはルミア星光教会という世界最大の宗教組織の総本山です。領地の中に聖地を有し、ルミアの加護のうんたんかんたんで様々な影響力を持つ国です。呪文による傷の治療などのノウハウを一身に集めているので、病気や傷の治療には先ず教会を頼ることになります。勇者ご一行の旅の、最大のスポンサーでもありました。かくいう私が回復呪文を使えるのも教会の神父さんから熱心に教えていただいたためです。
そんなルミア星光教会ですから、これの依頼を他の国が断るのは容易なことではありません。断ったらいわゆる病院施設がその国から撤退してしまうこともあるわけですから。
では光の国がどうして私たちを捕まえようとしたのか、ですが。
「勇者が魔王に敗れたのは魔法使いヒフミと盗賊ルイの裏切りにあったからだ。背教者であるこの二人を捕らえよと」
「わー……」
なんか知らないうちに、私とルーくんってば本格的に人類の敵にされちゃってますね。
「なんだそりゃ」
フリューさんも思わず呆れています。
「お前らは間抜けにもそれを信じたのか?」
「い、偉大なる聖ルミアの力を持つ勇者が、卑劣な罠なくして魔王に劣るはずがないだろう!」
露骨にため息をつきます。
「ルミアの力があろうがなかろうが負けるときは負けるんだよ……。しかもあいつ結構迂闊だったから稲妻が通用しない魔物に囲まれまくって、その度に俺とかヒフミが四苦八苦してだな……。いや、まあいいや。バカめ」
フリューさんは兵士さんから手を離して、私とルーくんのところに戻ってきました。
「しかし教会が相手とは、面倒なことになったな」
「そーですね」
まあ私としてはどーでもいいのですけど。勇者さんを殺したやつはぶち殺したわけですから、もうやることがないわけです。ルーくんに手を出すやつに対してはちょっと怒るけど、私を狙うなら全然気にしないのです。殺されたらそれまで。
ルーくんだって敵が人間なら一人でも大丈夫ですし。なのでルーくんが回復するまでは襲ってくる敵を倒しながら様子見ってところですかね。
「まるで危機感がないのがすげーな」
「そうですか?」
「星光教会の規模って世界の人間の半分以上だぜ? 人類の半分を敵にまわしてけろっとしてられるのもお前くらいだろうよ」
「そうかもしれないですね」
「それとお前、俺のことが恐くないのか」
「え、普通に恐いですけど」
イケメソですから。
「対策講じなくていいのかよ。また裏切るかもしれないぜ」
「そうなったらそのときで、なんとかするかなーと」
「能天気だな」
「む」
「提案があるんだけどよ、俺に首枷呪文をかけろ」
「へ?」
これはまた突飛なことを言います。
先にも少し出てきましたが、首枷呪文は禁呪法の一種で、簡単に言えば術者が対象者に「死ね」という指令を飛ばせば対象者は即死します。時間加速呪文のように「負担が大きくて危険だから」とかではなく、単に外道だから悪用を避けるために禁呪指定を受けています。
「裏切り防止には鉄板の対策だろ」
「でも教会に追われる本格的な理由になりますよ」
「お前が俺を殺さなかったらバレないだろ?」
「万が一私がフリューさんのこと好きになって、フリューさんが愛しの幼馴染さんと結婚するときに『他の女と結婚するなんていやー!』とか言ったらほんとに死んじゃうんですよ?」
「そんな使い方するのか?」
「いや、しませんけど……」
フリューさんは自身の裏切りをそんなに懸念しているんでしょうか。あるいは「私が首枷呪文を使った」という事実の構築がなんらかの教会に利することになる、つまりフリューさんは既に私たちを裏切っている、とか? うーん、考えてみたけどよくわかりません。
そしてフリューさんは実際に恐いです。私は勝てるのでともかくとして、本気でフリューさんに襲い掛かられたらルーくんを守りきれる自信はありません。
「わかりました」
悩んだ末に、私はその提案を受け入れました。
「力を抜いて。呼吸を楽にしてください。魔法力も鎮めてください」
「ああ」
私は直接攻撃系の呪文のほうが得意ではありますが、この手の呪詛系呪文について心得がないわけではありません。ええと、契約の神マリナンの下に被施術者の意思を問うて、フリューさんの魂の欠片を取り込んで、あとなんでしたっけ。そうそう、首枷ですね。そうそう、対象者の首から脊椎に侵入して、脳と神経系を焼き尽くす魔法生物を埋め込むんです。
「では、魔法使いヒフミが汝の意思を問います。私の意志に背いたときその魂をくべることをあなたは誓いますか」
「誓う」
躊躇いがないですね。
「契約はここになされました」
私はフリューさんの首に触れました。フリューさんの脊椎に私の指示でだけ動くノミに似た魔法生物を埋め込みました。
「あんまり意味がないような気がしますけど」
「そうかもな」
何か考えてることがあるみたいですが。なんでしょうね。まあわからないときは流れに身を任せましょう。
「とりあえず移動しましょうか。こんな瓦礫の中でいるとルーくんにもよくないでしょうし」
大砲の砲撃とフリューさんが大暴れしたせいで散々になっているあたりを見渡します。建物は崩れてるし、道は瓦礫で埋まっていて風通しが非常にいいです。ところどころで骨折したりしてのたうちまわっている人々がアクセントを添えています。私が呪文で防いでいたのでルーくんと私の周りだけは綺麗ですが。
「だな」
「では、とりあえず詳しい事情を聞きに行きましょうか。知ってそうな人のところへ」
「というと、ああ」
私は眠っているルーくんをおんぶして、フリューさんの手を取り、槍の国の王様の寝室に瞬間移動呪文を唱えました。
「ハロー王様」
「?!」
突然現れた私たちを見て王様は引きつった顔でベッドから脱出し、壁際に退避しました。代わりに寝台にいた女性が私に向けて突き飛ばされます。怪我しそうだなぁと思ったので抱き止めます。全裸でした。ちなみに王様も全裸です。下すら穿いていません。きゃー。どうやらことの最中にお邪魔してしまったようです。私たち、とても無粋な輩ですね!「だ、だれ、……か」叫び声をあげようとしたのを、一瞬で間合いを詰めたフリューさんが口を押さえつけて黙らせます。「落ち着いてください、王様。あまり騒ぐとあなたを手荒な方法で黙らせなければいけません」「……!」王様、血の気が引いています。荒事が得意な殿方がいるとこういうときに楽でいいですね。とてもやりすぎな気がしますけど。
「落ち着きましたか?」
青ざめたまま王様がコクコクと頷きました。
とりあえず私は手近にあった王様の服を投げました。全裸が相手では真面目に話をする気が削がれます。
「お、お前たちどうやって」「質問するのは俺たち、間違えるなよ」短剣を抜いてみせると萎縮した王様が細い悲鳴をあげます。
「フリューさん、完全に悪役になってますからちょっとテンションを下げましょう」
「ん、ああ。そうだな」
「えっとですね、王様。なんで私とルーくんは異端認定されて追っかけられてるんですか」
「ゆ、勇者を罠にかけ」
「それは聞きました。もう少し詳しいところをお願いします。その勇者を罠にかけたうんたんかんたんが私にもルーくんにもまったく心当たりがないのですよ。なにかしら明確な根拠がなかったら幾ら教会でもそんな無茶はできないでしょう?」
王様はしばらく躊躇ったあとゆっくりと口を開きました。
「勇者が所持していて教会に戻るはずの聖宝が戻っていない。あなたがたが勇者を殺し、盗み出したのだと」
「聖宝? 名前はわかります?」
「ア・ルミア」
「なんですと?」
ア・ルミア、つまり勇者を生み出すための聖魂を教会が管理していたなんて初耳ですよ? ルミアはわりと無作為に勇者を選ぶんじゃなかったんですか。いままでのア・ルミアの中には平民や貴族、商人の息子やらなにやら様々な身分の人たちがいましたが、それは教会が選定してア・ルミアを与えた末のことだったんですか? 勇者さんはそんなこと一言も言ってませんでしたけど。
「なぁヒフミ。嫌なことを思いついたんだが」
「なんですか?」
「俺たちが相手にした魔王はソウルイーターだろ? ひょっとア・ルミアはあれに食われたんじゃないか」
「……あ」
そういえばルーくんがソウルイーターに憑依されていたとき、ルーくんは常闇の魔王と恐れられたゾルマの魂をもぐもぐと食べていました。魔王級の魔族の魂さえ食べてしまえるならば、精霊であるルミアの魂を食べることができてもおかしくないかもしれません。
でもまさか、そんなことって。
わりとありそう、かも? いえさすがにないでしょう。だったらラ・ルミアの力でソウルイーターをルーくんから弾きだすこともできなかったはずです。ルミアの力は魔族と反発するのですから、よりによってア・ルミアがその例外だったなんて考えられません。でも魂の力を噛み砕いて消化するソウルイーターなら出来るかも……? もしそうなら教会が怒っているとかそんな問題ではなくなってきたかもしれません。
「ど、どうしましょう」
これから先、どんなに強力な魔族が出てきても新しい勇者が生まれないかもしれないのです。それはきっと人間の破滅に直結します。教会が焦るのもわからないでもないです。
「ルイが回復したら教会に直接話を聞きにいくか。俺も教会には顔だしておきたいし」
あ、そういえばフリューさんの幼馴染さんは教会にお勤めなんでしたね。体が弱くてあまり外に出れないのだと聞いたことがあります。
「ふむ、じゃあどこかに潜伏してルーくんの回復を待ちましょうか」
私は瞬間移動呪文を唱えようとしました。
「お、お待ちください」
王様が言いました。
「あなたがたは本当に勇者の殺害には関与していないのですか」
「してませんよ。むしろ勇者さん死んじゃって私めちゃめちゃ落ち込んでたんですからね。ていうかまだ立ち直ってませんからね? なんならここで泣きましょうか? 多分一週間くらいずーっと泣いていられますよ。ルーくんなんて自棄酒してましたし」
「では教会はなぜ」
「さあ? 私たちが生きてたらなんか都合が悪いんじゃないですか」
「バカな、教会がそんな」
「お邪魔しました」
王様が続けて何かを言おうとしましたが私はフリューさんの手を取り、瞬間移動呪文を唱えました。
さて、潜伏先に選ぶとすればルミア星光教会の力が及ばない国にいくべきでしょう。
星光教会の勢力圏外の国は、大きく分けて二つあります。一つは砂の国。砂漠地帯に広大な国土を持つ国で、ルミアとは違う精霊を祀っています。たしか祀っている精霊の名前はゼミスだったかな? そうそう、思い出しました。この国の宗教組織の名前はゼミス神光教会だったはずです。この宗教においてルミアはゼミスの娘とされています。しかしルミア星光教会はルミアを最高精霊と考えていて、ルミアよりもゼミスを上位に置くゼミス教の考え方を認めていないため、ゼミス教を完全否定しています。ゼミス教の方からも「聖地」とされている光の街を占領、支配しているルミア教側を略奪者と見做していて、星光教会と敵対しています。
この二つの宗教はものすごく仲が悪いです。
もう一つは倭の国です。ルミア教とゼミス教は先述の通り、一部繋がりを持っています。しかし倭の国の宗教観はこれらとまったく異なっており、倭の国の宗教によるとアマテ、ナギ、イミ、カグの四つの精霊を中心にして、世界には無数の精霊が住んでいるそうです。
というかこの国の宗教における精霊は度々魔族と混同されています。倭の国では魔族が人と同居して、時には力を貸したり、また試練を与えたりしていたんだとか。行ってみたときに不思議な国だなと思ったのを覚えています。
で、私たちが向かったのは砂の国でした。
とりあえず槍の国のときと同じように宿を取って、ベッドにルーくんを降ろします。
「しかしルーくん、起きませんね」
フリューさんがどんぱちやってるときも王様に詰め寄ってる時も爆睡ぶっこいてました。もしかしたらこのまま目覚めないんじゃないかなぁ、なんて少しだけ不安にもなります。まあ魂の状態を観る限りでは大丈夫っぽいですが。
「対勇者用の人間兵器って言ってたからな。修理のために起きないようになってるんじゃないか」
「冗談でも怒りますよ?」
「すまん」
意外そうな顔をしてフリューさんが謝りました。
「わかればよろしい」
「お前、キャラ変わったな」
「そうですか?」
「前はもっと俺やルイのことを気にしてなかった」
まあ勇者さんのほうが優先度が高かったのは事実ですね。また泣きそうになりましたが、なんとか堪えました。ほろりと涙が落ちました。堪えられていませんでした。
「お前が泣き出すタイミングがまるでわからん……」
フリューさんが困っているのがなんだか可笑しくて私は笑いました。涙をぼろぼろ流しながら笑いました。