覇竜の再臨
「始まったか」
覇竜オウルウが赤い宝玉を取り出して、それが虹色の輝きを放つさまを確認する。《ラ・ルミアの六つの卵》の最後の一つだ。ヒフミには砕いたと言ったが、実際はそうではない。戦いの趨勢を決めるであろうルミアの力を人間に渡したくなかっただけだ。
通常魔族はルミアに触れることはできない。九つに分かれたルミアの断片を埋め込まれたオウルウだけが例外的にルミアに縁の品に触れることができる。
オウルウは魔王が敗北するであろうことを予測していた。なぜならあの魔王は信念も情念も、怨念すら持たない、ただ力だけの怪物だからだ。奇策めいた能力で先勝はできても、その能力を知られて対策を打たれれば脆い。
化け物は所詮化け物なのだ。例えそれが六十一代勇者の肉体を乗っ取り魔族へと作り変えた異様であれど。
オーブの放つ虹色の輝きが止む。戦いが決着したのだろう。
やがてオウルウの元にごく小さな黒い影がやってきた。ソウルイーターだ。
「だろうな。お前はより強い肉体を求めてここにやってくる。ようやく会えたな」
ソウルイーターは単独で力を振るうことができない。依り代となる肉体が必ず必要だ。そしてここには三眼二刀の魔族、クルヴェスターの肉体がある。おそらくはこれは地上最強の肉体だ。寄り代を失ったソウルイーターは必ずここにやってくることをオウルウは見越していた。
オウルウは自身の魔法力で剥き出しのソウルイーターを掴んだ。
「いま一度我の元に還るがいい。我が力の欠片よ」
きっとルミアでさえこの現象は予想していなかっただろう。まさかルミアがオウルウに憑依した際に弾きだされた魔力の塊が、魔物となって人間を襲うとは。オウルウがソウルイーターを食らう。ぎいぎいと鈍い悲鳴をあげながら、黒い影が小さく萎んでいく。圧倒的な魔力がオウルウの中に満ちていく。かつての力だ。この世界における神と同義の存在、ルミアさえも滅ぼした魔族の王としての力。
彼に憑依していたカ・ルミアの力が彼から弾き出された。ルミアの呪いから解き放たれ、覇竜はここに復活した。
凄まじい魔法力の波動が黒の大地を駆け巡る。
本来の王の帰還に、すべての魔族が歓声を挙げた。