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アンパンとジャム  作者: みつき
2/3

2話


 そして、ある朝。目が覚めたら彼は消えていた。



「アンパンマン!?」

 発狂したかの様に我を忘れて叫ぶ私の目の前には、いつからか居たお母さん。

「え、なに、何突然叫んでいるの!? 夢でも見たの? 何、アンパンマンって」

「お母さん! 此処にあったパンは!? アンパン!!」

「捨てたわよ! まったく、折角買ってあげたのに落書きなんかして! あれじゃ食べられないじゃない!」

 ……そんな、私の現実逃避の王子様。


「……何て、何て事するのよ! 返して! 返してよ!! 返してぇぇ!!」

 ベッドから崩れ落ちながらも、叫びなのか嗚咽なのか、もう何も分からなくなって掴みかかる私に、お母さんは怯えて後退りをする。

「な、何を言ってるの!? ちょっと、お、落ち着きなさい!!」

「うわあぁぁぁぁ! 返して! 彼だけなの! 彼だけが私を助けてくれるの!! あああぁぁ!!」


 木漏れ日の差し込む窓辺。空気を入れ替える為に開けていたのか、そこへ収まる様に吸い込まれて行く。

 お母さんは足が縺れ、滑る様に外へ――


 ……落ちる。

 ……落ちる。

 ……落ちる。


「あ……あ……お母さん……?」

 我に返る私に、お母さんは困惑した表情で離れて行く。

「そんな、違う、お母さん……お母さん」


 ――飛べよ。


 ――お前、俺が教えただろ? 二人っきりのドキドキレクチャーしただろ? ほら、飛べよ。


 手を伸ばし、ゆっくりと降りる様に見えるお母さんの手を掴む。

 あの時、彼が私の手を繋いで空を飛んだように、ふわりふわりと空へ。


「お母さん」



―――――………‥‥



「私があの子を助けるの! 仕事仕事で、あの子がこんな状況なのに、貴方は何なの!!」

「……俺は……別に」

「別にって何よ! 自分の娘がいつ死ぬかも分からないのに、少しも病院に来ないで! そんなに仕事が大切なの!? もういい、私が助ける! 此処の費用だって貴方には頼らない! もう……終わりよ。私達」

「……いや……俺は」

 ――お母さんと、お父さん?



―――――………‥‥



「私一人で、あの子を助けてみせる」

 ――お母さん、泣いて、いるの?


「仕事だって見付けた。あの子の世話だって、毎日!」

 ――お母さんが、お仕事してる。


「……何で急にアンパンなんて欲しがったのかしら」

 ――私の事、知らないよね。


「最近、あの子が笑ってくれない。何だか、私も怒ってばかり」

 ――私の事…知らないよね。


「仕事が忙しくて、疲れてるのかな。あの人に仕事ばかりだと責めたのに、私、何してんだろ」

 ――お母さん、また、泣いているの?


「私は、あの子を、助けたいのに……消えないで……消えないで……」

 ――お母さん……。

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