呼ばれた意味
異世界に関しての話。
ちょっと重め(多分)
巨大スライムとの戦いを終えて、俺はしばらく動けなかった。
俺は体を確認する。
1回死にかけたが、いつの間にか脇腹の穴が無かったかのように完治していて、体中にあった傷も治っていた。
「これもこの剣のおかげ……か?」
持っている剣を見る。
錆びていた古い剣が、今はとてつもない力を秘めた「聖剣」と化している。
「………これからもよろしくな。フルンティング。」
あの声は聞こえなかったが、反応するように剣身が光っていた。
「さて、いい加減村に戻らないと……メル?」
メルが座り込んでいる、疲れてしまったのだろうか?
「旅人さん………あれ。」
メルが後ろを指差す。振り返ると薄いゼリーが蠢いていた。
「まだ生きているのか!?」
フルンティングを構える。
しかしゼリーはその場から動く事はなく、俺は剣を降ろした。
「旅人さん!」
「今度は何だ!?」
再びメルの方へと向く。メルの傍にあった石版が怪しげに光っていた。
俺は次の光景に驚いた。
石版が勝手に動き出し、空中に浮き出したのだ。
石版がさらに光りだし、3本の白い線が出てくる。白い線が伸びる先にはあの薄いゼリーがある。
白い線がゼリーに触れた途端、ゼリーは白くなり小さくなっていく。
それはまるで、白い線がゼリーを吸っているようにも見えた。
白い線が離れる時には、ゼリーは跡形もなく消えていた。
次の瞬間、石版が強く発光して俺は反射的に目を瞑った。
突然の浮遊感に目を開ける。
あったのは上も下もない黒い空間だった。
「なんなんだよ次から次へと………」
「すまないのう。」
突然老いた声が聞こえ、俺は辺りを見回す。
「前じゃよ、前。」
前っていってもいなかったような……
ふと視界の端に何が横切った。
突然体がピタッと固まり、止まる。
「そんなに回ってたらまともに話もできんからの。少し強引じゃが固定させてもらった。」
「あっ! あの時の爺さん!」
聞いたことのある声だと思ったが、いたのは俺に白い本を渡してきたあの爺さんだった。
あの時の貧しそうな雰囲気は無く、白色の長いコートを着ていてどこか清楚な雰囲気だった。
「ほっほ、災難じゃったのう。お前さんの事は全て見てたわい。まさかそんな早くに魔物が出会うとはのう。」
「爺さん、あれは何だったんだよ。あの赤黒いスライムとか、この剣は?」
「まぁ待つのじゃ。その前にあの世界について離さなければならん。」
爺さんの表情が真剣になる。
「まずあの世界はお前さんがいた世界とは違う。異世界というものじゃな。双子の神ソルとマリアが管理する[テルメリア大陸]。それがお前さんが送られた世界じゃ。」
「テルメリア大陸……じゃああの魔物は?」
「彼奴は魔物の中でも異常な程強くなった究極の魔物。
お前さんの世界のゲームでいう、[Lv99]という奴じゃ。」
[Lv99]
あのスライムはどうやらLv99だったらしい。
アイツそんなに強かったのか……
「そもそも数十年前までは魔物はいなかったのじゃよ、出たとしてもソル様とマリア様が倒していた。」
「じゃあ何でスライムやLv99って奴がいたんだ?」
「双子の神ソル様とマリア様が、突然いなくなってしまったのじゃ。そのせいでいなくなった当時はあのような魔物がウロウロ蔓延っていたのじゃよ。」
Lv99が蔓延る世界……そんな世界だったら今頃生きてなかっただろうな。
「ワシたちはこの事態をどうにかするために、ソル様とマリア様の行方を探した。長い年月をかけて、ワシたちは手がかりを見つけた。」
……ん?
「ワシたち?」
「そうじゃ。行方を探すときに最も強かった4人が選ばれた。ワシはその一人じゃった。」
つまり爺さんは、Lv99と張り合えたのか。
案外すごい人じゃないか?
「その手がかりというのが、石版と4つの神器じゃった。」
「石版?メルが持っていたあの石版の事か?」
「それじゃよ。あの石版には、実はマリア様が眠っているのじゃ。」
嘘だろ?
石版に神様がいるなんて思えるはずもなかった。
「その事が分かったワシたちは魔物たちを倒し、様々な場所を巡った。しかし残念ながらソル様とマリア様を救うことは出来なかった。」
「それで、俺を?」
「4つの神器は、ワシらには扱えなかった。ワシたちが扱えなかったとなると、異なる世界の者なら扱えるのではと思い、賭けてみることにしたのじゃ。」
4つの神器というと、フルンティングもその神器なのか。俺が扱うことが出来たから、爺さんの賭けは成功したらしい。
「ワシは人生の全てを使い、異世界に転移できる本を作り出した。その本でお前さんの世界に転移し、本をお前さんに託した。」
「本を俺に渡したのは偶然なのか?それとも最初から俺に?」
一番気になっていた事を聞いてみる。
「分からん。」
「は?」
「あの時お前さんを見つけたのは、最初から出会う運命だったのか、それともただの偶然なのかワシにも分からんわい。」
「なんだよそれ、そのせいで俺は死にかけたんだぞ!?」
「だが、現にお前さんは生きている。神器の一つである、聖剣フルンティングに認められ覚醒してな。」
「だけど……!」
「お前さんは選ばれた。坂崎優、どうかソル様とマリア様を救ってくれ。」
言い返すことが出来なかった。
俺がフルンティングに認められたから神様を救うなんて頭がどうにかなりそうだった。
「石版の封印は魔物の力で解かれる。しかし生半可な力では駄目なのじゃ。究極の魔の者の力しか石版は取り込まない。」
「そういや、石版がゼリーを吸っていたような……」
「あと、究極の魔の者は、神器でしか倒すことは出来ない。倒すことが出来れば、石版は力を取り込んでくれる。」
「つまりは……魔物を倒して、石版の封印を解いてその…マリア様を救えばいいのか?」
「まあ、そんな感じじゃよ……」
「爺さん?」
「おっと、ボーッとしてたわい。」
爺さんが誤魔化すように笑う。
「そういえば、もう一人の…ソル様はどこにいるんだ?」
「ソル様の行方は、まだ分かっていないのじゃ。昔のワシたちには見つけることは出来なかった。今も行方を探してはいるが、どうかソル様の行方も探してくれると……」
「分かった分かった。どうせ二人見つけないと帰れないんだろ?」
「帰れんぞ。」
「…………」
……………………………………は?
「なん………て…?」
「……もう元の世界に帰ることはできん。」
爺さんが何を言っているのか分からなかった。
「おい! どういうことだよ! こういうのは全て終わったら帰れるものじゃねぇのか!!」
今にも爺さんに掴みかかりたいが、体が固定されていて動かす事が出来ない。
「ほんとにすまんのう。そうしたいのはやまやまなのじゃが、あの本を作り出す魔力はワシにはもう残ってないのじゃ。」
「そんな…………何なんだよ。せっかく希望が見えてきたのに……」
涙が出てくる。
異世界に送られてきて、もう戻れないという直視出来ない現実に、俺はもう逃げたかった。
「この世界で……俺は生きていけるのか?」
「生きていけるじゃない。生きるのじゃ。」
爺さんの姿が透けていく。
「つらいかもしれんが……どうかこの世界を…」
「くそう……………くそぅ……!」
「お前さんの他にも……転移した者は二人いる……そやつらと……力を合わせ……」
この世界を救ってくれ、
そう耳にし、爺さんは姿を消した。
気がつくと黒い空間ではなく、ベッドの上だった。
体を起こす。見渡すとどこかで見た部屋だった。
「ここは……」
「気がついたか、若者。」
どこからか声がする。
窓から外を覗くと、剣をくれた爺さんと子犬のタロが外で待っていた。