親玉とカエル
洞窟での戦闘回。
無数の鉱石が俺に向かってくる。俺は一番早く向かってくるヤツをフルンティングで迎え撃つ。フルンティングは鞘から抜けなかったが、これでも打撃武器にはなるはずだ。
ガンッ!
鉱石を叩いた衝撃で手がしびれる。しかし鉱石は崩れていく。
(やっぱ脆い。だけど沸いてくる原因を潰さないとラチがあかない……)
こいつらは倒してもいつの間にか増えてる。原因が分からない以上戦い続けるのはこちらが不利だ。
俺はあてもあく洞窟を走る。鉱石達がカエルを気にすることはなく、全部こちらに向かってくる。
あれ、状況が悪化したかな。あんなのに追いつかれたら死ぬ。
(早く鉱石達が沸く原因を…………)
鉱石の突進を走りながら回避し、剣を打ちこむ。それでも鉱石達は減ることはなく、むしろ増えてるきている。避けながらも洞窟の中をくまなく探すが不自然な箇所は見つからない。
「くそっ、次から次へと攻撃しやがって。てめぇらどっから沸いてくるんだよ。」
思わず言葉が荒くなる。鉱石達に親玉でもいるのか?いたら苦労しないが……
「カカカ」
……鉱石達の中に異様な形のヤツがいる。そいつ以外は丸っこい形の鉱石だが、そいつはひし形でツルツルしていた。
「お前かああぁ!」
急ブレーキを掛け、鉱石の大群に突っ込む。鉱石が体にドカドカぶつかるが、それでもひし形の鉱石の元へ走る。攻撃が届きそうな距離まで近づくと俺は高く跳躍しジャンプ斬りを放つ。
「ケッ!?」
しかしひし形の鉱石はひらりと躱し、そのまま天井まで浮いていってしまった。俺が着地した隙に鉱石達は一斉に近寄ってくる。
(せっかくのチャンスが……!)
一度きりの機会を逃してしまった。あんな高い所に上がられたらもう何も出来ない。いや、それよりも今この状況を何とかしないといけない。
「囲まれちまった……」
鉱石達の壁が俺を囲んでいて、もう逃げ道は無くなった。一斉に来られたら俺は間違いなくペシャンコになるだろう。この状態から抜け出したいが持っているのはフルンティングと傷薬ぐらいしかない。
フルンティングはあの時のように力を発揮してくれないし、傷薬も今回は意味が無い。
もうダメか。そう思った時、
「わぶっ!?」
鉱石の隙間から巨大な水柱が噴き出してきた。俺はその水柱に飲まれるが、水柱はあり得ない動きをして俺を運んでいき、カエルがいる噴水前まで戻ってきた。
カエルは今も光っているが、カエルは口からポンプのように水を噴き出している。どうやらカエルが助けてくれたようだ。恩返しだろうか。
…………そうだ!
「カエル、俺を天井まで飛ばしてくれ!」
カエルは了承したのか俺に水を出そうとしている。しかし水を出すには時間がいるようだ。
鉱石達は阻止するかの如く突進してくる。
(用意できるまで、守り抜けれるか?)
カエルの準備ができるまで鉱石達の攻撃を凌ぎきらなければならない。かなり厳しいが、やってやる。
右から左へ、左から右へと剣を振り回し突進してくる鉱石を迎撃する。そこから体を捻って縦に打ち落とす。これで4体程砕け散る。
剣を下に向け鉱石の前まで踏み込み、勢いをつけ切り上げる。さらにその勢いを保ちつつ剣を振り回し落ちていき、2体巻き込んだ。
計6体倒したが、それでも数が減ることはない。さすがに多すぎて軽く引く。その後も攻撃し続けるが無傷というわけにはいかなく、背中をどつかれたり足をとられたりして痣や擦り傷ができていくのが分かる。
数分が経っただろうか。カエルはもう準備はできているが、俺が行ける余裕がない。鉱石達の猛攻は続き、一寸足りとも気が抜けない状況になっている。
「もうヤケだ! カエル、俺に向かって撃て!」
カエルからさっきよりも大きい水柱が繰り出される。水柱は俺に直撃し、そのまま軌道を変え天井まで昇る。
一瞬で天井まで昇りきり、ひし形の鉱石の目の前に出る。ひし形は顔は無いがおそらく驚きの表情をしているだろう。
(今度は、外さない……!)
フルンティングを強く握り、全ての力を絞り出して高速の水平斬りを放つ。
ひし形は回避することが出来ずそのまま水平斬りを受けて真っ二つになり、墜落していった。
墜落した鉱石を見て、カエルは水柱の勢いを弱め俺を下に降ろす。
(鉱石達はどうなった?)
辺りを見回すが、鉱石達は最初からいなかった。
そんな事を思えるほど洞窟は静寂に包まれていた。どうやら親玉を倒したことで、他の鉱石達もいなくなったようだ。
「助かったぜ、カエル。」
「ゲコッ。」
カエルに礼を言った後、カエルは噴水の中に消えていった。いなくなった途端に洞窟が暗くなるが、暗くなったおかげかズボンのポケットが淡く光っているのが分かった。
ポケットの中にあるものを取り出すと、小さな水晶の欠片が光っていた。これが光源の代わりになりそうだ。安心して一息ついた後、俺は本来の目的を思い出した。
「鉱石の採集、どうしたらいいか……」
洞窟の鉱石集めが俺の本来の目的だった。でも鉱石が化けていたならどこに鉄鉱石があるんだ?途中に分かれ道なんて無かったし……
そのとき、俺の頭に何かが当たる。
水晶があっても薄暗いが、それが鉱石であることは分かった。
「これが鉄鉱石か? また魔物とかそういうオチじゃないよな?」
鉱石をしばらくじっと見るが、何も起きない。どうやらこれが本物の鉄鉱石みたいだ。
カツーン……
カツーン……
音が聞こえる。周りを見てみるといつの間にかあらゆる所に鉱石が落ちている。
「これは……鉄鉱石と色が違うな。別の鉱石か?それにこれも……」
鉱石を拾っていると後ろが突然明るくなり、何だろうと振り返る。するとさっきのカエルが噴水の中で輝いているのが見えた。
「カエル? まだ何かあるのか?」
(そうケロ。君にお礼するのを忘れていたケロ。)
頭の中に声が響く。語尾がケロとか言ってるからおそらくは目の前のカエルが語りかけてきているのだろう。
(あの魔物達は洞窟にある鉱石が大好物だったケロ。地下の湖に住んでいたボクは魔物を倒そうと向かったけど……多勢に無勢で負けたケロ。)
カエルは一方的に語りかける。
(それで気がついたら箱に閉じ込められてて。何日かして君が助けてくれたケロよ。それに魔物まで倒してくれたケロ。そんな君にお礼がしたいケロ。)
カエルが大きな袋を差し出す。
(ボクのへそくりケロ。これを売ればかなりのお金になるはずケロ。)
差し出された袋の中を見ると、様々な色の鉱石が入っていた。たしかにこれぐらいあればお金には困らないかもしれない。
(本当にありがとうケロ。これで静かに暮らせるケロよ~。)
そう言ってカエルは穴に沈んでいった。俺はカエルのお礼に感謝しつつ、洞窟の入口まで戻った。
「へ、へぇー。こんなに持ってきたんですか。」
受付の女性がドン引きしている。そんなに多いのだろうか。
「おい、なんだよあの大量の鉱石は。」
「知るかよ。そもそもどっから掘ってきたんだよアイツ……」
たしかに他の冒険者達がざわついていた。
「こんなにあるんだったら……直接手渡しの方がいいですね。」
女性が言う。手渡しというと俺が依頼主に直接渡すのか?
「依頼人が住む建物までの道はこの地図に書いてあります。そこまで行って渡してきてください。」
そう言って地図をもらう。地図にはエスカド王国全体が描かれていて建物の一つに丸がつけられてある。
「ありがとうございます。それでは……」
俺はギルドを後にし、その建物まで行くのであった。
色々無理があったかもしれません。