旅立ち
「爺さんが俺を運んでくれたのか? 」
「違うわい、森の中でヤサンが倒れてた所を見つけて、ワシの家に運んでくれと頼んだのじゃ。」
あの後、ヤサンが見つけてくれたのか。でもまたぶっ倒れてたらしい。
「どこか怪我でもしたのかと思ったが、体にはそんなものは無かったから、疲れかとベッドへ運んだというわけじゃ。」
「それはどうも……ヤサンにも礼を言わないとな。」
「さて、お主が持っていたこの剣……」
爺さんはフルンティングを持って話した。
「この剣を扱う事ができたようじゃな。」
「爺さん、その剣は……」
「お主、どうやら異世界の者だったようじゃな。」
ドキッとする。
どうやら爺さんは俺が違う世界から来たことに気づいていたようだった。
「知ってたのか?」
「この剣がその証拠じゃ。言い伝えの通りじゃった。」
「言い伝え?」
「ワシの父親は名のある冒険者でな。旅の道中で見つけたものらしい。ワシに剣を渡して、父はどこかへ行ってしまった。」
剣を残していった父親……その剣はフルンティング……
「まさかあの爺さん……」
「どうしたんじゃ?」
「な、なんでもないです。」
「ともかくお主がその剣を目覚めさせたからには
やらなければならない事がある。」
爺さんは家に戻っていった。
子犬のタロは興味が無くなったのかどこかへ行ってしまった。
「お主にこれを渡そう。」
爺さんは床下から小さな小瓶を取り出した。
小瓶の中には緑色をした水が入っている。
「これはワシの父親が一緒に残していったものでな、これを来るべき時が来たら渡してくれと頼まれたんじゃ。」
「これを渡してどうするんだ?」
「たしか……これを飲むと魔法が使えるようになる。そんなことを言っておったかのう。」
魔法、魔法かぁ。
たしかあの時使った魔法は剣の力のおかげだったから、俺自身が魔法が使えるようになるのか?
………よし。
「これを飲めばいいんだな?」
爺さんから小瓶をもらい、確認する。
「そうじゃと思うが……」
「そうか……ではさっそく……」
小瓶の蓋を開け、ゆっくり飲んでいく。
意外と味がしなくて、そのまますんなりと飲み干した。
「これで魔法が使えるようになったのか?」
「試してみたらどうじゃ?」
体に変化は無い。
ほんとに使えるのかと試してみる。
しかし、
「どうしたんじゃ?」
「魔法ってどうやるんだ?」
「……ホッホー。」
どうやら魔法が使えるようになるのはもっと後になりそうだ。
「爺さん、俺はどうすればいいと思う?」
「魔法のことかの?」
「いやそっちじゃなくて、俺はいったいどこに行ったらいい?」
「ふーむ、お主が剣を目覚めさせたのなら、村じゃなくもっと繁栄した国に行くべきじゃと思うが。」
「繁栄した国……近くに都市とかはあるのか?」
「一番近い国で、エスカド王国という国がある。歩きではちと遠いがの。」
エスカド王国……行くんだったらそこだな。
「ありがとな、爺さん。」
「お主、何か迷っているのではないか?」
この爺さんはエスパーか何かか?
「お主が迷っているのならば、一つ助言を言い渡そう。たとえいかなる困難が待ち受けようとしても、その一つの道を進み続けるのじゃ。進んでいけば必ずお主に幸福が訪れるじゃろうて。」
爺さんはもう状況を知ってそうな感じがするが、
進み続けろ、か………
「爺さん。」
「なんじゃ?」
「俺、頑張るから。この世界で頑張っていくから。」
「……なにやら分からんが、頑張るのじゃぞ。」
爺さんと話を終えて、ヤサンの家に歩いていく。
「あっ、旅人さん。」
少女のメルに声をかけられた。
「メルちゃん、あの後どうなったんだ?」
「えっとね……旅人さんが倒れちゃってどうしようと思ったときにヤサンお兄ちゃんが見つけてくれたの。ヤサンお兄ちゃんが旅人さんを担いで、わたしたちは村まで戻ったの。」
また倒れてたのか俺。
「そうだぞ。お前を担ぎながら戻るのは大変だったぜ。」
ヤサンが歩いてきた。
「まあお前がメルを見つけてくれたのは感謝するけどよ。」
「ヤサン、ありがとな。見つけてくれなかったらどうなったことか。」
「……ん?なんか性格変わったか?」
「あ。……これが元の性格だ。」
「へぇ、まあいいけどさ。」
なんなんだヤサンは。興味あるのか無いのかわからん。
「それでさ、礼を言いに来たのともう一つあってな、この村を出ることにした。」
「旅人さん、どこに行くの?」
「エスカド王国ってところに行く。」
「エスカドかあ。俺達には縁の無いところだな。」
「旅人さん、もう行っちゃうの? だったら……」
メルが後ろに持っていたビンを差し出してきた。
「これ、特製の傷薬。怪我をしたら使って。」
「おお、メルちゃんが作ったのか。大事に使うよ。」
「メル。」
「えっ?」
「旅人さん、呼び捨てにしてた。」
「……メルも、ありがとな。」
メルはニコッと子供らしく笑った。
村の入口にはヤサンとメル、それと爺さんも来ていた。
「それじゃ行くよ。」
「おう、元気でな。サカガミユウ。」
「行ってらっしゃい、旅人さん。」
「若者よ、無理をしてはならんぞ。時には休むことだって大事じゃからの。」
皆の言葉を受け、皆に手を振りながらウィンデ村を離れる。
「…………元気でな、みんな!」
ウィンデ村を離れて、あぜ道を進んでいく。
山の隙間から日が昇るのが見える。
「この世界で、俺は生きていく…… 大きな使命を持って……」
RPGの主人公もこんな気持ちだったのかな。
必然的に大きな運命背負わされて旅に出る、今の俺と全く同じだ。
そんなことを思いながら、俺の異世界の旅は幕を開けたのだった。
ウィンデ村編終了。
有名な作品の作者はこんな長いものの3倍ぐらいうまい話を書いていて、すごいなと思った。(小並感)