幕間 みっしろーストーカー団
どうして彼女たちがいいタイミングで村田君を救いに来れたのか?
その答えとなるお話です
村田嵐蔵に土下座で、会場に近寄らないことを懇願され、そこに呼ばれていた浮島利璃花、佐戸原優奈、左御白がそれを了承した直後。集められた視聴覚室からしばらく歩いた廊下で。
「優奈さん少しいいですか?」
佐戸原優奈は浮島利璃花に呼び止められた。
「ん? 何? 浮島さん?」
振り返ると利璃花は真剣な表情。
「優奈さんとお話したいことがあるのです。よろしいですか?」
話の内容はすぐ察しがついた。
「村田のこと?」
尋ねると利璃花は首肯する。
「彼について引っかかることがあります。それを優奈さんそして御白さんとお話ししたいのです」
「いいわよ」
答えはあっさり口から出た。自分でも驚くくらいあっさり。
優奈にとっても村田嵐蔵の話は引っかかるものだった。引っかかるというか、何かもやもやするのだ。このまま捨て置けないほどに。
というわけで二人は御白を探すため視聴覚室に取って返すこととなった。視聴覚室の鍵は何故か開いておりそこでは、
「………」
二人を待っていたように携帯ゲームから顔を上げた御白がいた。
彼女に事情を話し、三人は再び視聴覚室の椅子に座すこととなる。
「それで浮島さんは何が引っかかったの?」
優奈はとりあえず利璃花に水を向けてみる。自分を呼び止めたのも彼女だし順当なところだろう。
「私が気になったのは彼がどうしてあんなに必死だったのかということです」
姿勢正しく椅子に腰かけた利璃花が御白と優奈を見回しながら疑問を呈する。
「それはあいつが自分の妄想………、博覧会場で爆発事故が起こって私達が全員巻き込まれて死ぬっていう妄想をを信じ込んでいたからでしょう?」
優奈の言葉に利梨花はうなずく。
「そうですね。しかし私が問題にしているのはそこではなく、彼の動機です」
「動機?」
「はい。彼はどうして私たちを助けようとしたのでしょう?」
どうして助けようとしたのか。考えてみればそうだ。
確かにその根拠は妄想だが、村田嵐蔵は必死になって私達を助けようとしていた。それは何故なのか?
一周り目の世界とやらで自分たちが彼に告白したと信じ込んでいるから?
いや、それでは答えになっていない。
彼はきっと………。
「御白たちを大事に思っていたから」
それまで黙っていた御白がズバッと核心を口にした。無表情のまましかし手にはもう携帯ゲームはない。
「………。そうですね。私もそうだと思います」
一瞬呆気にとられたように見えた利璃花が御白の言葉に同意する。利璃花は難しい顔をしていた。
優奈も同様だった。脳裏に浮かぶのは汗でべしゃべしゃになりながらも、必死で隣を走っていた村田嵐蔵の姿だ。
『おまえを、救いたい』
歯を食いしばりながら言った彼の言葉からは確かに、自分に対する思いが伝わってきた。
だけど、
「でも、それはあいつの妄想が根拠でしょ?」
そうだ。全ては彼の妄想が根拠。妄想が生み出した想いなんて気持ち悪いだけだ。
………そう思うのに。
「そうですね。でも私は彼をほおっておけない」
利璃花の言葉にハッとする。彼女は難しい顔のまま。自分の中の何かと葛藤しながらも答えを出そうとしているようだった。
「どうして? あんなやつただの妄想野郎でしょ?」
「私もそう思います」
「だったら!」
優奈は思わず席を立つ。何かにいら立っていた。胸の中のもやもやはさらに濃くなり、出口を求めて渦巻いている。
対する利璃花の表情は少しずつ透き通っていくようだった。
「彼は妄想野郎かも知れません。でも私は彼を放っておけません。例えそれが妄想が生み出した想いであろうと、彼は………、村田さんは私たちを必死に助けようとしていました。私はその想いに答えたいのです」
利璃花は自分の中の感情を整理するように一度目を閉じ、瞳を開くと同時に思いを吐露した。
「私は彼を助けたい」
優奈はその言葉に目を見開いた。さっきは理屈であたしをねじ伏せたくせに、今度はこんな感情論を口にするのか。
………でもしっくりきた。すとんと胸に落ちてしまった。利璃花は自分の思いを代弁してくれたのだと感じる。理屈に合わないこの思いを。
ドキッとしたのだ。村田嵐蔵が自分に「お前を救いたい」そう言ったとき。
今までそんなことを言われたことはなかった。こんなにも他人に想われたことはなかった。
嬉しかった。
だからそれが他の人間にも………、利璃花や御白や、愛音という幼馴染にも向けられているのを知って少し腹立たしかったのだ。
でももういい。そんな小さなことは胸のもやもやとともにどこかに吹き飛んでしまった。
あたしもあいつを放っておけない。それが分かってしまった。
だがまだ問題はある。
「浮島さんの気持ちは分かったわ。でも具体的にはどうするの? 残った幼馴染の説得に協力するの?」
あえて自分の気持ちを表明することをせず、そう尋ねた優奈に気づいていながら利璃花は気づかないふりで頭をひねる。
「………おそらくそれはやめたほうがいいでしょう。話がややこしくなるだけだと思います」
「だよねえ。じゃあどうするの?」
「そうですね………」
唇に手を当てしばらく考えた利璃花は今一つパッとしない顔で口を開く。
「とにかく問題は博覧会場で爆発事故が起きるということです」
「あいつの妄想だけどね」
「そう。私たちは彼の妄想を根拠に行動することになります」
そこがパッとしない原因だった。
「彼の話を信じるわけではありませんが、私は彼が爆発事故に巻き込まれることを防ぎたいと思います。もし本当に爆発事故が起こるなら、愛音さんの説得が上手くいかず村田さんが彼女を救うために会場にいなくてはいけなくなった場合、彼は死ぬことになるでしょうから。………ありえないことだとは思いますけど」
このあたり利璃花の複雑な心境は察して余りある。優奈ももちろんそうだった。でも放っておけないのだから仕方がない。何かしら行動しないとまたもやもやすることになる。それは絶対嫌だった。
「ただ………」と利璃花の表情が曇る。
「具体的にどうすればいいのか思いつきません。会場に近づくなと忠告してもさっき言ったような緊急事態に陥っていた場合、おそらく彼は言うことを聞かないでしょうし」
それは優奈も同じ意見だった。あたしたちを説得するために土下座さえ辞さなかった男だ。幼馴染の命がかかっていると思い込んでいる以上、素直にいうことを聞くはずがない。
いったいどうすれば?
一気に沈黙が支配した場に響いたのは感情のこもらない声だった。
「御白にいい考えがある」
銀髪のツインテールを揺らしながら御白がはい!と挙手していた。
「ふむ? それはどんな考えですか?」
利璃花が興味深そうに尋ねた。優奈も耳をそばだてる。御白はそこはかとなくドヤ顔で言った。
「当日にランをストーキングすればいいと思います。」
『?!』
御白の発想に慣れていない二人の少女は予想外の言葉にあんぐりと口を開けた。すぐさま優奈はツッコむ。
「いやいやいや! ストーキングって!! それはないでしょ! なんであたしたちがあいつをストーキングしないといけないのよ?!」
しかし御白はどこまでも平然。
「ストーキングすればランがどんな行動をしても即座に対応できる。三人いれば最悪身柄を拘束することも可能かもしれない」
「それはそうかもしれないけどさ………。いくら何でもストーキングするなんて。浮島さんも嫌でしょ?」
意外と穴のない御白の言い様に優奈は利璃花に助けを求める。しかし、
「意外と良いかも知れませんね」
「えええええ?! ちょっと浮島さん?!」
冗談かと思ったが利璃花の表情は真剣だった。
「それに私、尾行というものを一度してみたかったのです」
「しかも意外と乗り気だ?!」
繰り返すが利璃花の表情は真剣だった。
「ストーキング決定」
御白はぱちぱちと拍手をしている。優奈は黙っていられない。
「決まってないから! あたしはやらないわよストーキングなんて! 犯罪ですから! それ犯罪ですからね?!」
「大丈夫。ばれなければ犯罪じゃない」
「その発想がもう完全に犯罪者のそれだよ!!」
びしっ! と指弾してくる優奈に、ふう。やれやれ、と無表情のまま御白は肩をすくめて見せた。
「優奈はわがまま」
「我がままじゃない!」
御白に翻弄される優奈を「まあまあ」と苦笑しながら利璃花がなだめる。
「少し落ち着いてください優奈さん」
ふーふー! と息を荒げる優奈は胸に手をやって深呼吸した。ちょっとヒートし過ぎた。この御白って子は苦手だ、と思う。
「でも御白さんのストーキング案以外にいい方法がありますか? あればそれを採用しますよ」
「ない」
「………。御白さんあなたは少し黙っていましょうか」
穏やかな声音だが御白が口を×にして黙った。何か動物的本能で危険を感じ取ったらしい。
優奈は考える。ストーキングする以外にいい方法。いい方法………。
「………残念だけど思いつかないわ」
悔しそうに顔をゆがめる優奈の前で「ふっふーん。」と口にしながら腕組みをして顎を上げた無表情の御白が挑発的かつドヤッぽい雰囲気を漂わせていた。殴ってやろうかと思う。
「では当日村田さんをストーキングするということで決まりですね」
「しょうがないわね」
「ストーキングアドバイザーは御白に任せてほしい。ランのストーキングにかけては御白はプロ」
「それは頼もしいですね」
「………」
もはや何も言うまいと優奈は思った。
「何か武器になるものを持って行った方がいいかも。ランが抵抗するかもしれない」
この銀髪のちっこいのはいったい村田をどうするつもりなのだろう。
「では私は刀を持参することにしましょう」
利璃花の発言は冗談だと思いたい。
「私はボールでいいわ。どうせ持っていくし」
優奈は修学旅行中もランニングとキャッチボールを欠かす気はなかった。
「じゃあ今日はもう遅いですし、あとの細かいことは後日話し合うことにしましょう」
「そうね」
そう言って席を立つ利璃花と優奈だが御白はまた小さい手を上げていた。
「もう一つ決めておきたいことがある」
「? なんですか?」
「私たちの団体名」
「団体名?」
「そのようなものが必要とは思えませんが………。言ってみてください」
御白は心なしか目を輝かせながらその名を発表した。
「みっしろーストーカーだ」
『却下』
みなまで言わせず利梨花と優奈の声が見事にシンクロし、さあ帰ろ帰ろと二人は教室を出ていく。あとにはがーんと書き文字を背負ったような雰囲気の御白がぽつーんと残されたのだった。
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こうして村田嵐蔵が知らぬ間に少女たち三人によるストーカ集団が結成された。
彼女たちはのちに彼の危機を救うこととなる。
幕間 みっしろーストーカー団でした
彼女たちは爆破事故やテロ事件が起こると思ってないので割とお気楽な感じ
さて次話はいよいよ最終話となります
最後までお付き合いいただければこの上ない幸せです




