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第十五話 修学旅行編 ー真相ー

今回は爆発事故の真相が明かされます そして金髪金目の神様再び登場です

挿絵(By みてみん)



ざわざわきゃっきゃと騒がしい夕食の席。俺は黙々とご飯を掻き込んだ。


「おっ食欲でたんか?」と笑顔を見せる田所に頷き、「ボクの海老天も食べるかい?」と皿を差し出す結垣からやたらでかい天ぷらも頂く。


そいつのえび部分は超ミニサイズで、海老天というよりは、ころも天に近い感じだったが、この際腹に入ればなんでもいい。俺は精を付けなければならんのだ。腹減りのフラフラでは愛音を救うことは出来ない。


 夕食を食い終わり、明日の『仕込み』をして、一応温泉らしい風呂に入ったら、卓球をしようという田所と結垣の誘いを断ってさっさと布団に入る。英気を養っておかねばならんのだ。


 しかし寝不足のはずなのになかなか寝付けない。そこで俺は御白の示唆を受けて日中考えた愛音デッドエンド回避計画に思いを巡らす。


 計画は簡単だ。


 俺は待ち伏せして愛音が宿を出ようとするところを押さえ、そのまま修学旅行を共にする。そして是が非でも博覧会場には近づかせない、というわけだ。


 もちろん俺だけだと愛音にも愛音の班員にも拒絶されるだろうから、田所と結垣にも一緒に行ってもらう。


 この件はすでに田所と結垣は言うまでもなく、愛音の班員にも話はつけてある。夕食の後に声を掛けて仕込みをしておいたからな。


 その際に俺と同行することを愛音が嫌がった場合、多少強引にでも一緒に連れて行ってくれるよう頼んである。


 愛音は友人を無下にできるような性格じゃないからな。


 そうすればたとえ俺が同じ班にいても愛音は一緒に行動してくれるはずだ。まったく、愛音と親しい女の子の顔を何人か覚えていて助かったぜ。


 交渉自体は結垣の名を出したらことのほかスムーズに進んだ。やつはどうやらクラス内だけでなく他のクラスにもファンを抱えてるらしいな。恐るべきモテ男だ。


 まあ違うクラスの二班で合流して三日目を回る班は他にもあるらしいしな。男子ばかりの男班である俺たちと女子ばかりの愛音班は相性も良かった。


 もちろんこの計画は愛音には秘密だ。事前に知らせたら俺を敬遠して別行動しかねないからな。


 後は、班員たちには申し訳ないが、博覧会場の見学を回避するだけだ。


 この辺りにはショッピングモールがあるらしいから、そっちで一日時間を潰させてもらう。これで愛音のデッドエンドは回避できるはずだ。


 愛音本人ではなく外堀から埋め、後はなし崩し的に博覧会から遠ざける作戦。


 御白がヒントをくれなければ思いつかなかっただろう。旅行から無事に帰ったらもう一回礼を言っておかないといけないな。


 そんなことを考えつつ俺は何度も何度も明日の計画を脳内でシミュレーションしていた。そしてそのうち眠りに落ちていたらしい。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 眼前に瓦礫の山が広がっている。俺は気付く。これは夢だ。俺は夢を見ている。


『では始めるぞ』


 金色の瞳が宣言する。まだ生首状態の神娘。あの場面だ。不自然に途切れた記憶。その続きを俺は見ようとしているのか?


「待ってくれ! 俺は一体どうしたらいいんだっ?!」


 混乱する俺を無視して神娘が静かに目を閉じる。なにやら『むむむ』と念を込めようとしているように見えた。その時、


 パン


 軽い音がした。そしてそれとほぼ同時に俺は体中にバシャッと何かを浴びていた。液体のようなものだ。


 俺は頬についたそれを指で拭って目の前に翳して見る。それはドス赤い液体でぬめぬめしていて、髪の毛のような金色の筋も混じっていて。


 血? 人間の体液?

 

 それと認識した途端、俺の網膜が眼前の有様を捉えた。


 神娘の頭が爆ぜている。まるで下手糞に割ったスイカのように頭の半分が爆ぜて無くなっている。


 内圧で飛び出た眼球が視神経の糸を引いて床に転がり落ちている。そしてその断面。どろりと何か灰色と赤が混ざったようなゲル状のものが、


「うっ………」


 そこまで視界に納めた俺は急激な嘔吐感を覚えて口元を押さえた。


 胃から喉元を通って焼けるような感覚がせり上がってくる。必死にそれを飲み下そうとする俺の耳に、その声は聞こえてきた。


「なあんだ。生首かよ」


 ザッ。瓦礫を踏みしめ、まずごついブーツを履いた足。続いてその足の持ち主が俺の視界に姿を現す。


無駄弾(むだだま)を撃っちまったぜ」


 頭を掻きながら軽く舌打ちしたのは三十代前半ぐらいの男だった。短く刈った黒髪に無精ひげ。精悍な顔立ちの日本人。


 服の上からでもそれと分かる筋肉質の大きな体を灰色のジャケットとスラックスに押し込め、まるでスマホでも持っているかのように無造作な様子で、―――片手に銃をぶら下げた。


「おっ」


 男が不意に目を丸くした。その口元が嬉しそうに綻ぶ。


「何だ生きてる奴いるじゃねえか」


 その目が捉えているのは神娘の脳漿塗れになった俺だった。俺は思わず愛音を庇うように抱えて、座ったまま後退さる。


「ははは!」


 そんな俺の姿に男が笑う。先ほどよりさらに嬉しそうな顔で。


「いいね。いいじゃねえかお前。でも」


 また軽い音。白く瞬く銃口。今度は二回。直接俺の体にその衝撃が伝わってきた。そして愛音の太股に冗談のように二つの黒い穴が空く。


「そいつ死んでるぜ」


「―――っ!!」


 こいつ愛音を撃ったのか?! 死んでいると分かっていて愛音を撃ったのか?


「て………めえ………!!」


 俺の胸の奥から今まで感じたことのない感情があふれ出てくる。そいつはマグマのようにグツグツと煮えくりかえり俺の脳を焼いた。


「ぶっ殺す………!!」


 初めて他人に抱いた殺意。


 しかし激情を向けられたその男はまるで涼風でも受けたような調子で銃に弾を込めなおす。そして呆れたように首を左右に振って見せた。


「おいおい。ぶっ殺すはねえだろ。どこの世界にそんなことを言うヒーローがいる?」


 あ? こいつ何言ってんだ。理解不能な言葉に俺は眉を寄せる。そんな俺の顔面に突然衝撃。


「がっ!!」


 ごついブーツで蹴飛ばされた俺はたまらず吹っ飛び一回転して瓦礫の上をバウンドする。まるで鋼鉄のハンマーで殴られたような一撃。


 切れた口内に血が溢れそれを折れた何本かの歯とともに吐き出しながら、目が眩むような苦痛にのた打ち回る俺を無視して、男が愛音の細い足を掴んだ。


 そのまま片手で軽々と愛音を吊り上げる。万歳するようにだらりと両手を下に垂らした愛音の指先からぽたぽたと赤い雫が落ちる。


「あ………、愛音を、はな、せ………!」


 これ以上愛音を汚させない。愛音の死を汚させない。


 その一心で苦痛を噛み殺し俺は這いずるように前進しながら、血塗れの手を伸ばす。そんな俺を見て男はまるで友達でも見るようににっこりと微笑んだ。そして、


 男は無造作に腕を振る。手放された愛音はまるで人形のように軽々と宙を舞い、そして支柱の一つに叩きつけられた。


「愛音ぇっ!!」


 俺の喉から絶叫が迸る。赤黒い血の跡を引いて愛音がずるずると滑り落ちる。俺に向けた最期の笑顔のまま。


「あ、アあ、あアアアああ………………!!」


 こんな、こんな! なんで、なんでだよ! なんで愛音がこんな目に合うんだ?! なんでこいつは、


「お前は一体なんなんだ! 何なんだよっ………!!」


 搾り出すような俺の声を聞いた男はゆっくりと銃口をこちらに向けながら歩み寄ってきた。途中名も知らぬ誰かの足をまるでゴミのように蹴り避けながら。


「この破壊、この惨状は俺が創り出した。なかなかのもんだろう?」


 周囲を見回して男は自慢げに両手を広げてみせる。まるで誰かに芸術品を披露するかのように。だがその表情は次の瞬間には険しく歪んだ。


「だがまだ足りないらしいな。まだ正義の味方は俺の前に現れない。お前かと思ったが違うらしいしな。残念だよ」


 引き金に指が掛かる。不思議と恐怖はなかった。それよりもこの男を! この男だけは!!


 痛む体に鞭を打つ。動け動け!! そしてこいつを!!


「うおおおおおあああああっ!!」


 残る力を振り絞って男に飛び掛った俺の体に何発もの銃弾が撃ち込まれた。体が衝撃に何度も跳ねる。その瞬間俺の中で決定的に何かが壊れたのが分かった。


「俺が何かと聞いたな。俺はコザ」


 傾ぐ視界。最期に俺が見たのは男の歪んだ笑みと、その腰に揺れる不似合いなストラップ。


「―――絶対悪だ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 俺は闇の中に佇んでいた。


 四方どこを見渡しても周りは闇。そんな異常な空間で俺は茫然としていた。


「あれは………」


 今見たのは夢じゃない。俺の脳が創り出したただの夢ではない。そのことを俺は確信していた。


 あれは記憶だ。一周り目の記憶。そう。最初から俺には分かっていた。これは惨劇の続きだと。だがどうして忘れていたのか、何故今になって思い出したのかは分からない。

  

 だが推測は出来る。それは神娘が俺の記憶を一時的に忘れるように操作したという可能性だ。


 あいつは俺の脳を探れるみたいなことも言っていたし、だとしたらそのような操作を出来ても不思議はないだろう。 そして今このときになって記憶が夢として蘇ったのは、神娘がそれを必要だと判断したから………なのか?


 ともかく今見た記憶によって重大な事実が判明したのは間違いない。


 俺たちが巻き込まれた爆発。俺は漠然と展示されていた何かが爆発したか、ガス漏れでもあったんだと思っていたが、あれは事故ではなかった。


「爆破テロだったんだ………!!」


 あのコザとか名乗った男が引き起こした爆破テロ事件。それこそ俺たちが巻き込まれたデッドエンドの正体だったんだ。


「………なあ そうだろう? 神娘」


 俺はどこにともなく問いかける。答えは闇の中から響いた。


「真実を悟ったようじゃな」


 黒塗りの空間からぼうっと神娘の姿が浮き出してくる。波打つ金髪とどこか達観したような金目。前回見た時と同様夏服のままの姿だ。どうやらこいつはまだ衣替えしてないらしいな。


「別に衣替えしてないわけではないわい」


 表情からか俺の心を読んだ神娘がぶすっとした顔で腕を組む。


「貴様のワシに関する記憶が以前のままじゃから、ワシの服装もそのままなんじゃ。というかえらく落ち着いておるの。ここがどこだかわかっておるのか?」


「まあなんとなくな。お前が作り出した空間なんだろ? 俺の精神に働きかけたとかで」


「ふん! 脳筋の割に察しがいいではないか。睡眠中の貴様の意識に割り込んでおる」


「だから脳筋言うな」


 それにしても落ち着かんな。こう真っ暗闇だと。


「ふむ。貴様ら人間は真の暗闇に適さんからな。よかろう。少々居心地をよくしてやろう」


 パチリ


へたくそな指ぱっちんの音が響くと、あたりが見覚えのある空間に変わった。数多く並んだ縦長の机と椅子。奥にはカウンターとキッチン。入り口にあるのは券売機だ。ここは………、


「学校の食堂か」


「そのとおり」


 ドヤ顔の神娘はつかつかと歩くと食卓の椅子を一脚引きだし、どっしりと腰かける。偉そうに足を組みやがったな。


 俺もそれに倣って対面の椅子に腰を下ろすことにする。ふむ。机も椅子もちゃんと感触があるな。これも俺の脳内の記憶から再現しているのか。

 

 さてと、


「お前にはいろいろ聞きたいことがある」


 俺は正面の神娘の目をまっすぐ見つめて言う。


「じゃろうな。言うてみるがよい。貴様には義理が無いこともない。答えてやってもよいぞ」


 意外と義理堅いなこいつ。俺の意識にやってきたのも、わざわざいろいろ説明しに来てくれたってことだろ?


「じゃあまずは確認だ。俺たちが死んだ原因は爆破テロだった。そうだな?」


「そのとおりじゃ。あのコザとかいうのは一般的にいうテロリスト。じゃから奴が引き起こした惨事もテロと言えよう」


 持って回った言い方だな。このへん神っぽくしようとしてるんだろうが、すでに俺の中ではお前の威光は地に落ちてるからな?


「じゃあ、そのことをなぜ今頃俺に思い出させたんだ? あの夢もお前の仕業なんだろ?」


「そうじゃ。あれを今お前に思い出させたわけは………」


 そこで神娘は何故か俺から目をそらした。


「二周り目を始めた時点でこのことを知ればお前の精神が耐え切れんと思ったからじゃ。ただでさえ混乱しておったろうからな」


 ふむ? それは俺のことを気遣って俺自身の死の記憶を俺から奪ったってことか。なんだこいつ。


「お前割といいやつなんだな」

「ぴっ!」


 思わず率直な言葉を漏らすと、神娘が変な声あげてびくっと体を震わせ次いで真っ赤になった。


「かっ、勘違いするでない! ワシはお前ごとき低俗な人間風情を気遣ったわけではないわ! ワシら神は契約を重んずる! 二周り目が始まった直後にお前が壊れたり、絶望したりすれば、それはお前が望んだ『娘たちを救う』という願いが履行不能になるのと同義じゃ! じゃからお前が『自身の死の記憶』と向き合えるようになるまで一時的に記憶を奪ったまでのこと! あ く ま で 契約を守るためじゃからの?!」


 おうおう。目くじら立てて。なんかツンデレみたいなこと言ってやがるぞ? こういうとこ妙に人間臭いんだよなこいつ。使ってる力はまさに人外そのものなんだが。


「分かった分かった! まあそうカッカするなって。俺が悪かったから」


「ふん! 分かればよい!」


 神娘は機嫌悪そうにぷいーっとそっぽを向いたままだ。やれやれだな。


「まだ聞きたいことはあるぞ。このままだと一周り目の時と同じようにまたテロが起きるってことだよな?」


「そうなるな」


「あいつはいったいなんなんだ? あのコザってやつは」


「だからテロリストじゃろ?」


「いやそうじゃなくて………」


 俺は言葉に詰まる。奴はテロリストだ。それ以上の何を神娘から聞こうとしているのか。

 

 だが、なにかおかしいんだあいつは。言動もおかしかったがそれ以上の何かを俺はあいつから感じた。


 でもそれを何と表現していいのか分からない。あえていうなら目の前にいる神娘と似たような感じと言えばいいか。いやそれも適切でない気がする。なんだこの違和感は………。


「まあ貴様の言いたいことは何となくわかる」


「え?」


「これは言いたくなかったんじゃがの」


 神娘はふうとため息を一つ吐くと再び口を開いた。


「おそらく奴は悪魔憑きじゃ」


「悪魔憑き?!」


 おいおいおいおい! 悪魔! 悪魔と言ったのか? 冗談だろう? いや神がいるなら悪魔がいてもおかしくないのか。だがそれにしてもなあ………。


「とはいってもお前が考えているような突然ウケーとか騒ぎ出したり、首がありえん方向まで回ったり白目を剥いたりするあれではない。ましてや超常的な特殊能力を得たり口から怪光線を吐いたりもせん」


 え? しないの? 


「ワシが悪魔と表現したのは、貴様の脳内にあった近い言葉がそれだったというだけじゃ」


「ふむ。よく分からんがまあいいや。それで結局悪魔憑きってのはいったいなんなんだ?」


「そうじゃなあ………」


 神娘はしばし思案し頭の悪いやつに噛んで含めるように話し始める。


「まず悪魔とはこの世に歪みを作り出そうとする存在じゃ。世界の均衡を保つため因果を調律する我々『調律神』とは相反する存在といえるな」


 またややこしい話になってきたぞ。


「歪みってのはなんなんだ?」


「歪みとはその名の通り因果が不自然に歪んだ状態のことをいう。これがやっかいでな。放置しておくとどんどん世界を侵食し、やがて世界は崩壊する」


「………」


 今度は世界の崩壊と来たよ。こいつが神でなかったら頭を疑うとこだ。というかこんな話ばかりしてると自分の頭を疑いたくなってくるぜ。


「悪魔憑きとはそのような存在が人間に寄生した状態のことを言う。我々調律神同様やつらも高次精神生命体。人間に寄生せねばこの世界に影響を及ぼすことはできぬからの」


「で、調律神は世界を調律し、悪魔は世界を歪めようとしてるってわけか」


「そうじゃ。そして奴らが作り出した歪みを正し、世界をあるべき姿に保つのも我々調律神の役目なのじゃ」


「………じゃあコザもお前が倒してくれるのか? あいつは悪魔憑きなんだろ?」


 テロリストはおそらく複数犯だろうが、あいつはあの惨状を自分が引き起こしたものだと言っていた。


 主犯格であることは間違いないだろう。だとしたらもし神娘が奴を倒してくれたなら愛音をデッドエンドから救出するために良い影響が出る可能性が高い。


「そうはいかん。コザとかいうやつも世界の一部じゃからの。ワシが直接手を下せばそれもまた歪みの原因となる」


 めんどくせえ!! 


「悪魔の存在もまた然りじゃ。やつらも世界の一部。ワシらにできるのはやつらが引き起こした歪みを対処療法的に調律することのみ」


 縛りが多いな神様業界。


 まあある程度予想はしてたけどな。あとは神娘にお任せってわけにはいかないだろうってことは。


「だいたい分かった、………ことにしておく。悪魔憑きって言っても大したことができるわけじゃねえんだろ? なら………」


 言いかけて気づく。神娘が何か言いにくそうに口ごもっていることに。おいおいまさか!


「残念じゃがそうでもない。やつはおそらく特別な力を持っておる」


「なっ?!」


 おいおいおい! 話が違うじゃねえか! さっき特殊能力は無いって言ってたじゃん!


「いったいどんな力なんだよ!」


 胸ぐらを掴まんばかりの俺に、さらに言いにくそうに神娘は告げた。


「やつはおそらく確率を操る」


「確率………だと?」


 うむと神娘はうなずき、


「簡単に言うと自分にとって都合のいい確率を引き寄せることができる。例えば本来失敗するはずの任務のわずかな成功の確率を引き寄せ成功させたりの。実際コザはあの事件現場から逃げおおせたようじゃしの」

 

 ぶっ!! と思わず吹いたね俺は。


 マジかよ。あんな爆発事件があったら警察だって駆けつけていたはずだ。警備や消防だっていただろう。


 そんな場所から銃を持ったあいつが逃げおおせたってのか? それが奴の能力だってのか? 


 ふざけるな! だってそんなの無敵じゃねえか! 何でも成功させられるってことだろ? 完全にチート能力だ。口から怪光線どころの騒ぎじゃねえ!


 思わず青くなる俺をとりなすように神娘は落ち着いた声で説明を加える。


「まあ確率を操るといっても、コザ自身が意識的にできるわけではない。コザは悪魔に憑かれていること自体認識していないじゃろうしな」


「そうなのか?」


「うむ。神や悪魔と言うのは本来そういうものじゃからな。ワシが出てきてやった時も言うたじゃろ? これは特別サービスじゃと」


 確かにそんなことを言ってた気がするな。


「やつの確率操作は悪魔の気分しだいというところじゃ。それも日に何回もできるわけではなかろう。人間の身には余る力だからの。器が壊れかねん。せいぜい一回が限度というところじゃ」


 一日一回。悪魔の気分しだいで発動する確率操作のチート能力か。確かに恐ろしいがどうにもならんほどではない………のか? 気分次第というところがかえって怖いな。


「ともかく奴には極力近づかんことじゃな。当然のことじゃが二周り目の奴は貴様の顔を知らんし、見かけたら逃げるのがいいじゃろう」


「そうするよ」


 正直、一周り目の利梨花と優奈を爆殺し、愛音にあんな酷いことをしやがったコザに復讐したいという気持ちはある。奴から逃げるなんて俺にとって業腹極まりないことだ。


 だが奴がとんでもなく危険な相手であることは理解できる。奴に突っかかって自ら危険に身をさらすことはあまりに愚かなことだろう。


 まあ計画どうり事が運べば俺も愛音も博覧会場に近づくことはない。その場合奴と出くわす可能性は極めて低いだろう。


 そうだ。すべての成否は明日の愛音デッドエンド回避計画にかかっている。絶対成功させなきゃな。


「さてこれで義理は果たした。あとは貴様自身の力で何とかするがよい」


 椅子から立ち上がった神娘がふわーとあくびをしながら、俺に背を向ける。それと同時に食堂はまたもとの暗闇に戻っていく。


「まったく面倒なこと極まりなかったわい。これで貴様と縁が切れると思うと心底………」


「神娘」


 神娘の愚痴っぽい別れの言葉を俺はさえぎる。神娘は迷惑そうに眉をしかめながらも俺を振り返った。


「また貴様はワシがハケようとしているというのに………」


「いやちょっと言い忘れたことがあってな」


「なんじゃい。はよせい」


一応聞いてくれる気はあるらしい。俺は思わず微笑みながら、


「今度お前にお供え物を持っていくよ。すげえ世話になったからな」


「おっ、お供え物とな?」


 意外だったらしく神娘は目をぱちくり。次いで疑わしげな半眼に。


「なんじゃ、いきなり殊勝なことを言いおって。気持ち悪いのう」


「まあそういうなよ。感謝の気持ちだぜ。で、何がいい?」


 ふむ、と神娘はしばし考えちょっと顔を赤くしながら、ポショッと要望を告げた。


「ケーキがいい」


「おうケーキな! いいぜ!」


 お財布的にもありがたい。


 神娘はそこでがばっと前のめりになり、


「響屋のケーキじゃぞ?! 駅前の!! イチゴが乗ったやつじゃぞ!! 絶対間違えるでないぞ?!」


 目をキラキラさせながら勢い込んで確認してくる。お、おう。そんなにケーキが食いたかったか。


「前にワシが寄生しておる娘の母親が買って来おっての。それはそれはうまかったんじゃ。もう一回食うてみたい」


 なるほど味覚などは宿主と共有できるようだが、こいつが食いたくても出てきて頼むわけにはいかないよな。みだりに人前に出られないらしいし、金髪金目になっちゃうし。

 意外と調律神ってのは不便なのかもしれん。


「分かった必ずそのケーキを御供えするよ」

「うむ!」


 神娘は嬉しそうだ。


「では、今度こそワシはハケるからの」


 もう一度背を向けて神娘がどこかに去っていく。同時にその姿が暗闇に溶けていく。それと同時並行して暗闇が徐々に白み周囲が明るくなっていく。どうやら俺は目覚めようとしているらしい。


 だから最後に神娘がこんな言葉を残したと思ったのは気のせいかも知れない。


『またの』


 傲岸不遜でちょっとドジな神様がこんなことを言ったなんてのはな。





 



 


というわけで今回は説明回でした 


妙に手間取ったせいで今回は文中のイラストは無しです もし期待されていた方がいらっしゃったらすみません


次回は少し趣向が変わった『幕間』のお話になる予定です

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