第十三話 二周り目の攻略 ー愛音編ー
愛音編です 幼馴染ということで彼女に事情を告げるのを後回しにしてきた村田君ですが、はてさてどうなりますことやら・・・
「っかしいな………」
俺は携帯を手にぼやいていた。体育祭の翌日。放課後の事である。
画面の着信履歴を見つめながら頭を傾げる。数日前から何度かメールやLINE、電話をしているのだが、レスが帰ってこないのだ。その相手は愛音。我が幼馴染だ。
他の三人の身の安全は一応確保できたので、いよいよ愛音に博覧会場で起こる惨劇のことを話そうと思ったのだが、てんで連絡が取れないのだ。
いつもだったらよほどのことが無い限り数分で返事が返ってくるのに、これはおかしなことだった。
それに朝一緒に学校に行こうとしてもすでに家を出てしまっていたり、放課後一緒に帰ろうとして教室に迎えに行っても家に帰った後だったりして、なんだか微妙にすれ違ってしまっている。
なんか、―――なんか嫌な感じだな。
まだ修学旅行には日にちがあるが、愛音とは早めに話しをしておきたいのに。
そう思った俺は早起きして愛音を菟田野家の前で待つことにした。
あくびをかみ殺しながら待つこと数十分。いつもより三十分は早い時間に愛音は家から出てきた。
「おはよう愛音」
片手を上げる俺の姿に気付くと、愛音はびくりと体を震わせた。ブラウンの大きな瞳が僅かに見開かれる。
表情が強張るのが分かった。
俺は眉を顰める。何だその反応? まるで俺に会いたくなかったみたいな、………いやまさかな。
見慣れぬ幼馴染の態度に俺は内心戸惑いながらそれでも笑顔で話しかける。
「あのな愛音、ちょっと話が」
―――風が通り過ぎた。
それは俺の横を抜ける愛音が起こした風だった。愛音は一言も発せず俺の脇を通り過ぎたのだ。
しばし呆然とする。シカトされた? 俺が愛音に? その事実が脳に達するまで少しの時間が掛かった。そして次の瞬間カッ! と頭に血が上った。
「おい! 待てよ!!」
慌てて愛音を追いかける。俺の静止の言葉を聞いても愛音は背中を見せたまま黙々と歩を進めている。俺は走って愛音を追い越し、彼女の前に立った。
「待てってば!! なんで無視すんだよ!!」
声を荒げて迫った。だってわけが分からない。理不尽じゃないか。俺の軽い怒りを伴った視線を受けて愛音は、
「………」
無言、だった。
いやただの無言、―――沈黙とは質が違う。それは彼女の瞳にはっきりと現れていた。そこにあったのは、
「―――っ」
受けた俺が思わずたじろいでしまうほどの、それほどに圧倒的な、
無関心、だった。
俺を見る愛音の瞳には俺に対する何の感情も映っていなかった。まるで何気ない風景でも見ているかのような、そんな無関心さだけがあった。
そんな瞳で俺を一瞥した愛音はそのまま、一言も発さないまま立ち尽くす俺を追い越し歩いていく。
追う事は出来なかった。
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どうなってんだ、何が起きてる………?
愛音に、おそらくは生まれて初めて無視された日から五日ほどが経っていた。
その間俺は何度も接触を試みたが、メールも電話もLINEもレスは無し、直接会って話をしようとしても、ガン無視をされるというどうしようもない状態が続いていた。
さらに悪いことには、家を訪ねても愛音が俺に会いたくないということで、門前払いを食らう有様。
これは菟田野家の家長である愛音の父親の意向もあると思われた。
どうもあのおっさんは小さいころから俺を愛音から遠ざけようとしている節があるからな。
「君にうちの娘はやらん!!」とか言って。何を言っとるんだ。わけが分からん。
ともかく留守がちな愛音の両親が在宅していることも、今は俺にとってマイナスに働いているようだった。
「ハア………」
ため息をつくと幸せが逃げると教えてくれたのは一体誰だったか。
ここ数日で俺はどれだけの幸せを逃がしたか分からない。
幸せいっぱいだった一周り目の九月下旬が嘘のようだ。
とぼとぼと下校路を歩く俺は完全に一人ぼっちだった。一緒に歩いてくれるのは地面にへばりついた己の影だけだ。
―――なあんてな。
ヘコんでいても仕方ない。とにかく現状を打破する方法を考えねえと。
期限は迫っている。望むと望まざるに関わらずもうすぐカレンダーは捲られ十月に月を変える。そうなれば修学旅行はすぐそこだ。九月中には愛音を説得して博覧会場に近づかないように約束させなければならない。
しかしそれにしても一体どうなっているんだ? あの愛音が俺を無視するなんて。俺を避けるなんて。何かの悪い冗談としか思えない。
それこそクソ忌々しい『修正力』とかの厨二的な何かが働いているとかな。
だって今までこんなことは一度としてなかった。
喧嘩は何度もしたが次の日には必ずどちらかが謝って仲直りしていた。それが俺たちの関係のはずだ。
小さいころからの、十何年かの間培ってきた関係のはずだ。それがこんな………。
愛音は何かに怒っているのか? 俺が自分でも気付かないうちに何かを愛音にしたのか? それすら分からない。だから謝りようも無い。くそっ! こんな時だってのによ!!
とにかく無視されようが厨二話だけはしておくか? ………いや駄目だな。今の愛音にそんなことを話してもいうことを聞いてくれるとは思えない。
博覧会場に近づかないように説得しなければ、そして愛音が納得しなければ意味が無い。馬耳東風、馬の耳に念仏、スルーされては意味が無いのだ。
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―――俺は悩み戸惑いつつも、全力を尽くして愛音とコミュニケーションを取ろうとした。
無視されても粘り強く話しかけたり、何気ない話題から会話の端緒を作ろうとしてみたり、果ては愛音の好物で釣ろうとしてみたり………。
しかしどうしても愛音を説得することが出来ないまま、俺たちはついに修学旅行の前日を迎えることに、なってしまったんだ………。
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「むらっちゃん大丈夫か? なんや頬がゲッソリこけとるで」
「目の下に隈もできてるね。最近あんまり寝てないんじゃないのかい?」
休み時間に友人たちが神経衰弱極まった俺の様子に声を掛けてくれたが、俺は「うう」とか唸るだけでまともに返事を返す元気も無い。
やばい。本当にやばい。まさか安易だと思っていた愛音と話をすることが、こんなに困難になるなんて。俺は何処で間違ったんだ? 愛音はどうしちまったんだ?
参った。心底参ったぜ。
結局困窮極まった俺は、一時無駄だと考えていた、聞く耳を持たない愛音にデッドエンドの話を吹き込むことも試してみたんだが、………駄目だ、あれは多分博覧会場に行っちまうぞ。俺の目すら見ないんだからな。
「愛音おまえこのままじゃ………」
ほとんど半泣きになりながら帰宅途中見上げた隣家の窓、二階の愛音の部屋には、分厚いカーテンが掛かっていた。
まるで今の俺と愛音の間にある断絶を象徴するかのように………、なんて感傷的になっている場合ですらもはや無い。もう今日しかないのだ。今日しか。
とにかく何でもいい。愛音と接触する方法を考えなければ。
例えば、ロミジュリを気取るつもりは無いが、夜、菟田野家の駐車場に忍び込んで、下からあいつに呼びかけてみるか?
………いや駄目だろう。直接会っても駄目なのだ。こう、もっとインパクトがある、愛音が俺の話を聞かずにはいられなくなるような………。
答えを探すようにベランダを見ていた俺の脳裏にふと懐かしい記憶が過ぎった。その瞬間。
「!」
閃いた。
ある。あるぞ! 昔一度試したあの方法ならいけるかもしれない!! というかもうこれしかねえ!!
久々に意気が上がってきた俺は興奮からフンヌ! と鼻から息を噴きだした。
やってやる。やってやるぞ!! 待ってろ愛音!! 目に物見せてやるぜ!
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ドンドンドン
俺はガラス窓を叩くちょっと控えめに。しばし間を置いて中の反応を確かめてからもう一度。
ドンドンドン
「きゃっ」
今度は反応があった。内部で悲鳴とそしてドサッとなにかが落ちる音。たぶん愛音がベッドから落ちたんだろう。思惑通りビビッてくれているようだ。
そう今は深夜二時。草木も眠る丑三つ時だからな。こんな時間に二階にある自分の部屋の窓を外から叩かれたら誰だってビビる。
しかしあまり怖がらせて親父さんを呼ばれても困る。愛音の頭が覚醒し切らないうちに畳み掛けるぞ。
「愛音、俺だ開けてくれ」
ぼしょぼしょと中に囁きかけると、しばしの間を置いて目の前のカーテンが恐々のように僅かに引かれた。隙間から臆病な小動物のように顔を出したのは、不安げに睫毛を震わせる少女。
「………ら、らん兄?」
確認するように名を呼ぶ愛音に俺は頷いてやる。
「ああそうだ。開けてくれるか?」
未だ夢の中に居るような瞳に再度頼むと、愛音は頷きカーテンを引いて鍵を開け、ガラス窓を開けてくれた。ちょっと緊張しながら愛音ルームに侵入させてもらう。
「どっ、どうやって来たの?」
寝ていたからだろう、いつもはあたまの側面で一部を二つに結っている髪を今は全ておろし、体の前で組んだ手をモジモジさせながら尋ねてくる愛音は、薄桃色の小花柄パジャマ姿。
俺の背後から部屋に差し込む月光に照らされて、両腕に寄せ上げられた胸が薄い生地に影を作っているのが目に入る。―――というかこいつちょっと胸が大きくなったんじゃ………。
いやいやいや何考えてんだ俺! 今はそんな場合じゃねえだろう!
今愛音が俺と口を利いてくれているのは意表を突かれたのと、多分まだ寝惚けているからだ。今のうちに話をしねえと。
「小さい頃と同じ方法だよ。俺の部屋のベランダから屋根を歩いて、お前んちのベランダによじ登った」
愛音の頼りない寝巻き姿から目を逸らしつつ俺は答える。………正直ここまで来るのは冷や冷やだったぜ。
お隣さんとはいえ、深夜にベランダから侵入してるところを近所の人に見つかったら通報モノだからな。
「あの、そっ、それでこんな時間にここに来たのって、もしかしてその………」
愛音は月の光程度でも分かるほど顔を真っ赤に染めて、
「よっ、夜這い………かな?」
とんでもないことをおっしゃった。
俺は思わずブッ! と噴き出す。慌てて両手を顔の前でめちゃくちゃに振りながら否定した。
「違う違う!! 話をしに来ただけだ!! つうか年頃の娘さんが夜這いとかいうんじゃありません!!」
一応兄貴的存在として教育的指導もしておく。………ったく誰から習ったんだそんな言葉。犯人が分かったらシメてやるのに。あー顔が熱い。
発熱する顔面を扇ぎたい俺の前で、すー………と、
「―――じゃあ何をしに来たの?」
愛音の表情から熱が引いていくのが分かった。まずいぞ。もう冷静になってきてやがる。
「愛音、何度もいってるが話を聞いてくれ」
慌てて口を開くと彼女はすいっと目を逸らした。その横顔はここ数日俺が見てきたまるで能面のような無機質さを纏い始めている。
愛音の唇がきゅっと結ばれるのを見て、話す気が無いのが分かって、俺の頭にカッと血が昇った。
「いい加減にしろよ!!」
叩きつけるように感情を吐き出す。愛音がビクッと肩を震わせてハッと振り返る。
「なんで無視するんだよ!! 俺が何をしたって言うんだ?! お前にそんなことされるほどの何をしたって言うんだよ!! ふざけんなよ!! 俺はお前を助けたいだけなのに!!」
あまりに理不尽な仕打ちだと思った。今分かった。俺は傷ついていたんだ。そんな場合じゃないと思って、今喧嘩する訳にはいかないと思って必死に堪えていた。
だけどそれは、
「………分からないんだ?」
愛音も同じだったんだ。
俺はその時彼女の大きな瞳に今まで見たことが無いほどの激情が宿るのを感じた。
「まだ分からないんだ? わたしがどうしてこんな態度を取ってるのか?」
「………」
キッと俺を睨み据える愛音の迫力に呑まれて声が出ない。
「もう嫌だからだよ」
愛音は淡々と告げた。
「痛いんだよ。らん兄が他の女の子と一緒に居るのを見ると、他の女の子と仲良くしているのを見ると、胸が痛いんだよ。息が出来なくなるくらい苦しいんだよ。そんなのもう嫌なの」
………なんだって?
「今まではなんとか我慢できた。らん兄が他の子と一緒に居ても、別にその子の事が好きなわけじゃないって分かってたから。でも今は違う」
お前は何を………
「浮島さんや、佐戸原さんや、左さんを見るらん兄の目は違う。わたしには分かるの。あれは『大切な人』を見る目」
フルフルと愛音の瞳の輪郭が揺れている。声が震えている。
「そんなの耐えられない。わたし以外の人が大切だなんて嫌だよ。だからわたしは止める事にしたの。消すことにしたの」
なんだそれは。そんなそんな………!
「何を、何を消すっていうんだ?」
俺の声も震えている。愛音の眉が釣り上がった。
「ここまで言ってもまだ分からないの?! どうして分からないのよっ!!」
そして激情が、愛音がずっと胸に秘めていた想いが迸った。
「わたしはらん兄の事が好きなの!!」
「ずっとずっと好きなの!! 小さい頃から一度も変わらず今までずっと!! なのに何で分かってくれないのっ?! どうして気付いてくれないの?! なんで他の女の人と仲良くするのっ?! 浮島さんと二人っきりになったりするの?! 佐戸原さんを追い掛け回すの?! 左さんに………」
くしゃっと顔が歪み、ぼろぼろと愛音の目から涙が、
「告白、したりするの………?」
―――零れた。
「なんでわたしだけを見てくれないの? 嫌だ、もう嫌だよお………」
愛音が泣いている。目の縁を真っ赤に染めて、すんすんと鼻を鳴らし涙どころか鼻水まで垂らして。
俺が泣かしたんだ。見ていたんだ愛音は、あの三人を必死になって追い掛け回している俺を。そして苦しんでいた。俺が意図せず傷つけたんだ。
愛音は俺のことが好きだったんだ。
愕然とする。だとすれば俺がフラれたと思い込んだあのバレンタインの「義理だから」という発言も、きっと。
「………そうだよ。恥ずかしかったの」
俺の問いにしゃくりあげながら愛音が頷く。
「小学校を卒業した頃から、らん兄のことをすごく意識するようになって、それがなんだかすごく恥ずかしくて、小さい頃みたいに素直に好きって言えなくなって、バレンタインとか、お誕生日とかそういう特別な日には特に意識しちゃって、わたしの気持ちがバレたらどうしようって思ったら怖くて、………何も、できなかった」
そうか。そう、だったのか。
なんてこった。俺は本当にどうしようもない馬鹿野朗だ。愛音の気持ちに気付かず一人で完結しちまって、コイツへの想いを消そうとしていたんだ。
そして今愛音も同じ事をしようとしているというのか。俺への気持ちを消そうとしているのか。ツラくてツラくてどうしようもないから。
「どうして? どうしてなの? 嬉しかったのに。抱きしめてくれて嬉しかったのに。これから何かが始まるんだって思ったのに。浮島さんにも同じことをしたの? 佐戸原さんにも? 左さんにも? ………嫌だ。そんなの酷いよ。酷いよ」
違うそんなことはしていない。
ほとんど支離滅裂に思いをぶちまけ、顔を両手で覆って幼子がいやいやするように左右に振る幼馴染にそう言いたいのに言葉が出ない。俺が言葉を重ねればその分だけ愛音を傷つける気がして。
俺は知らず知らずのうちにこんな思いを愛音にさせていたのか? 大切な幼馴染の心を無自覚に切り刻んでいたのか? そしてたぶんこれは今だけの話じゃないんだ。
きっと一周り目の時もそうだったんだ。俺が梨璃花や優奈、御白に囲まれて幸せな気分に浸っているとき、愛音はきっと苦しんでいたんだ。ずっとずっと苦しんでいたんだ。
だが俺はそんな愛音を注視しようとせず、傍に居てくれることを当然と思っていた。
馬鹿野朗。馬鹿野朗! 何度罵っても足りない。そんな最低の屑野朗を、
愛音はその身を挺して助けてくれたんだ。落ちてくる無数の鋭いガラス片から命がけで守ってくれたんだ。
「愛音………」
今更ながらその意味を知って俺の胸が張り裂けそうに痛んだ。
俺はなんてことをしちまったんだ。こんなにも俺のことを思ってくれていたこいつに。
気付かなかったでは済まない。
愛音の言動にそのサインはあったはずなんだから。
ただ俺は目を逸らしていたんだ。気付こうとする努力を端から放棄していた。また『義理だ』といわれるのが怖くて。自分が傷付くのが怖くて。
「らん兄お願い」
涙に濡れた瞳が月の光を反射して揺れている。おざなりに出来ない切実な想いがそこには込められていた。俺には分かった。今から愛音が口にしようとしているのは『最後の願い』。
愛音は一度目を閉じ深呼吸してから告げた。
「わたしを好きになって。わたしだけを見て。そしたらわたし………」
その先を愛音は口にしなかった。その唇からは彼女の内で燃える熱情を移したような吐息が漏れただけ。でも俺には伝わった。愛音が俺に何を差し出そうとしているのか。
俺は、
「愛音、俺は………」
「―――っ!」
俺が自分でも分からない何事かを口にしようとしたその瞬間、愛音の表情が悲痛に歪んだ。
俺は一体どんな顔をしていたのだろう。愛音は俺のその顔を見て答えを悟ったようだった。
「………」
最後の力を失ったように彼女の顔が下を向く。前髪が表情を隠す。そして、
「―――出て行って」
零れた言葉は凍える人のように震えていた。パタパタと愛音の足元に雫が落ちてカーペットに染みを作る。
「待ってくれ愛―――」
「出て行ってよ!!」
愛音がドンと思わぬ力で俺の胸を押す。不意を突かれた俺はよろよろ力なく後退さって部屋の外に出てしまう。慌てて声を上げようとした俺の前でピシャリとガラス窓が閉まった。
「もうわたしの前に顔を出さないで」
その言葉を最後に、カーテンが、俺と愛音の姿を、完全に遮断した。
もう愛音の姿は見えない。声も聞こえない。言葉も―――届かない。
………俺は失敗したんだ。最後の機会を。
腰が抜けたようにへたり込んだ俺はベランダの転落防止柵に寄りかかり、呆然と閉じられた窓を見つめる。もう一度窓を叩かなければと思うのに体が動かない。フィルムの途切れた映写機のようにカラカラと心が空転する。
魂が抜けたように座り込む俺を、冷たいガラスに映り込んだ月だけが静かに見つめていた。
二周り目の攻略 愛音編いかがだったでしょうか?
大変なことになってしまいましたね
次回からは修学旅行編に突入です このまま愛音は死の運命に絡め取られてしまうのか?
村田君は彼女を救えるのか? 乞うご期待です