第十話 二周り目の攻略 御白編 ー前編ー
この回から御白編に突入です!
果たして御白はどんな子なのかお楽しみに
「おいおい! むらっちゃんどないしたんやっ?! なんか油の切れたロボットみたいな動きしとるで!!」
翌日。珍しく俺より早く登校していた田所が俺を見るなり驚きの声を上げた。
俺はぎくしゃくと体を友人に向けながら引き攣った笑みを浮かべる。
「いやちょっと昨日過剰な運動をしちまってな。体中が筋肉痛なんだよ」
………ああ。しゃべるのも億劫だぜ。だりい。
登校途中で優奈(とおまけの吉川)を見かけたんだがあいつも妙にゆっくり歩いてたな。
たぶん俺と同じような状態なんだろう。よく学校行く気になったもんだよ。俺も実は休みたかったんだが、デッドエンドまでの期限も迫ってきてるしな。そうもいかん。
「へえ。過剰な運動なあ………。ほい!!」
「ぐああっ?!」
唐突に田所が俺の太股をつついてきて俺は悲鳴を上げた。
「なにしやがるっ?! 筋肉痛だといってるだろうが!! ちょっやめぐあああっ?!」
「わはははは!! ほんまや!! ぱんぱんや!! そーれそれ!! あーちょちょちょちょちょ!!!」
「ぐあっやめぎゃああああ!!!」
野朗っ!! 俺が満身創痍と知って日頃の恨みを晴らそうとしてやがるな?! 普段ならゴールデンアックスボンバーの一つも決めてやるところだが、いかんせん今は体が思うように動かん。やられ放題だぞ。
「そこ! うるさいわよ!!」
そんな俺にとって救いの声が響いた。眉を顰めた女生徒がこっちにやってきて腰に手を当てクレームをつけてきたのだ。
「もう!! 小学生じゃあるまいし、何くだらないことやってるのあなたたちは!!」
このクラスの委員長、星海ありあだ。ちょっと小柄で長い髪をクリーム色に染めた美少女。委員長キャラにしては垢抜けた感じの女の子だ。俺としては委員長キャラは眼鏡をかけてて欲しいんだがな。大きなどんぐり目は残念ながら裸眼だった。
「いやあすまんすまん委員長!! むらっちゃんをいじめるのがあんまり面白いんで思わずヒートアップしてしもたわ!!」
「いじめ反対!! いじめかっこわるい!!」
頭を搔きながらの田所の発言に俺はシュプレヒコールを上げるが、星海はそんな俺を華麗にスルー。
「とにかくもう少し声を小さくしてくれる? いいわね?」
柳眉を吊り上げて人差し指を立てる委員長様に俺たちは幼稚園児よろしく「はーい!!」とお返事する。
星海は完全にアホを見る目でそんな男子二人組を一瞥すると不機嫌そうな顔で去って行った。
田所がそんな彼女の後姿を乙女のように胸の前で両手を組んで見送りながら呟く。
「やっぱりええわあ、星海さん」
「そうか?」
「うん。こう、あれやな。星海さんに叱られると背筋がゾクゾクすんねん。―――はっ! もしやこれが恋っ?!」
「いや、ただの変態だろ」
俺はドMを一刀両断しつつ教室のドアに目を遣った。「なんかわしの扱い最近ぞんざいやないっ?!」と田所が非難の声を上げるのを無視しつつ、すでに心は御白のことを考えている。
というかその姿を探している。もう来ているはずなんだ、あいつは。
だが教室の前方のドアには姿なし。それじゃあ後ろか? と視線を動かすと………、居た。御白だ。よく注意して見ないと分からないが、半分開いたドアから見えている。
―――アイツの銀髪ツインテールの片方が。
姿隠してツインテ隠さずって奴だな。
ホームルームにはもう少し時間がある。2周り目のあいつにとってはファーストコンタクトになるが少し話しておこう。
もしかしたらこの時間だけでメルアドの交換くらいはできるかもしれない。何故かって? そうだなもう明かしてしまおう。実はあいつは、
俺のストーカーなのだっ!!
俺が御白を後回しにしたのもアイツがストーカーだからだ。
………いや別に御白を嫌ってるわけじゃねえぜ? むしろ気に入ってる。後であんたたちも知ることになるだろうが、結構面白い奴だからな。
そうじゃなくてストーカーをしてるくらいだから俺のことを憎からず思ってくれているはずだろ?
どうやら一学期の中頃から俺のことをストーキングしてたらしいしな。
だから俺のことを知りもしなかった梨璃花や優奈に比べて、そんなに苦労しなくても話くらい聞いてくれるはずだと思ったんだよ。
―――さてと。2周り目のあいつとの初対面はどんな感じで行くかな。
一周り目のときは優奈と梨璃花に告白された直後、唐突にストーキングしていたことを明かされ大いに驚かされたからな。今度は俺が驚かしてやるか。そもそもストーカーのアイツには攻略法なんてないしな。
そんなことを考えながら俺は前方のドアに行くと見せかけ、しかし反転して足音を殺し後方ドア近くの窓に向かう。逃げられると困るからな。そして、
「御白!!」
いきなり窓を開いて声を掛けてやった。御白は、
「?!」
初めて人間を見た子猫みたいに目をまん丸に見開いている。
はっはっは! 驚いてる驚いてる。こいつのこういう顔はレアなんだよな。ちょっと得した気分だぜ。
しかし悦に浸る俺の前で御白はすぐに驚きの表情を引っ込めると、
「じー………」
とこっちを冷めた瞳で見つめてきた。ちなみに口でもじーと発音している。
あれ? そんな反応? と俺は内心首を傾げた。ストーキングしている対象にいきなり声を掛けられたらもっと驚くんじゃねえの?
………にしても久々に見るとやはり絶世の美少女だな。彼女、
―――左御白は。
特に、シルバーブロンドって言うのか? 彼女の長い銀髪は本当に綺麗だ。
まるで丹精こめて紡がれた絹糸のように細く繊細で、それ自体がまるで貴金属であるかのように、廊下の窓から差し込む朝日を反射してキラキラと輝いている。
そして今は半眼に細められている瞳は煌く宝石のようなアイスブルー。肌は静脈が透けて見えるぐらい白い。
そう。日本人にはありえない色彩を纏った彼女はロシア人の母と、日本人の父の間に生まれたハーフだ。顔立ちもどこか大人びて見えるな。
でも背はちっさい。
俺と同学年なのだが、ほとんど中学生かうっかり小学生にも間違われかねない小柄な体躯で、手足は触れただけでぽっきりと折れてしまいそうなほど細く華奢だ。
そして胸は無い。ぺたーとしている。
ベストも着けずに夏服を着ているからよく分かるが、本当に起伏が無い。制服の胸の辺りにも影が出来ないからな。
だがそれがいい!!
これで巨乳だったらバランスも悪いしな! 近頃はロリ巨乳が流行っているらしいが(田所談)やっぱりちびっ子は貧乳であるべきだろう。全体のバランスが大事だと思うんだよ俺は。
………ところで俺はどうして親しい女子に会う度に彼女らの乳について解説をしているのだろうね?
いっ、いや違うぞっ?! べっべつに女の子の胸ばっかり見てるわけじゃないんだからねっ?!
まっ、まあ、ともかく、
「よう御白。おはよう」
俺は目の前の半眼少女に朝一番の挨拶をしてみる。全ての出会いは挨拶からだよな、うん。
低い位置から無表情に俺を見上げた御白は、
「何故分かった?」
起伏のない淡々とした口調で尋ねてくる。自分が何故発見されたのか分かっていないらしい。
「ツインテールが片方見えていたからな」
俺が答えると、御白はやはり淡々とした無機質な口調で。
「馬鹿な。気配は消していたのに」
「消すなよ。というか消せるのかよ。お前は忍か?」
「忍ではない。御白はストーカー」
「自分で言っちゃったよ!!」
まさかの自白に驚愕する俺の前で御白は扁平な胸に手を当て無表情のまま主張する。
「お前に発見されたことで御白は著しくストーカーとしてのプライドを傷付けられた」
「ストーカーとしてのプライドってなんだよ?! ストーカー行為にプライドを持つなよ!!」
「ストーカーズ・プライドを傷つけられた」
「なんで英語で言い直したっ?! しかもたぶん間違ってるぞ、それ!!」
「御白はお前に傷物にされた」
「待て待て待てっ!! お前は教室の前でなんてことを言うんだっ?! 誤解を招くだろうが!!」
『やだっ。聞いたっ?』『うん聞いた聞いたっ!!』『あの子村田に傷物にされたんだって』
『ってことはアレ?』『そうそう無理矢理………』『やあだあ―――?!』
「すでに誤解を招いているだとっ?!」
「御白はお前に………」
これ以上はやばい! 一周り目の経験則でそれを察知した俺は、
「HEYHEYHEY!! YOU!! 君のプライドを傷つけてしまったなんてソーリー!! そおーだお詫びをしよう!! 一体何が望みなんだい言ってみなYO!!」
とりあえず黙らせるためにストリート系(?)のノリでまくし立ててみた。
このままでは一体どんなことをいわれるか想像もつかん。相変わらず恐ろしい女だぜ左御白。ひと時も気が抜けねえ。
俺の必死のセルフフォローが効いたのか、俺たちの話を聞いていた女子は「なーんだプライドの話か」みたいな顔でそれぞれの会話に戻っていった。ふう―――。あやうくまた暴漢魔呼ばわりされるとこだったぜ。
「望み?」
御白が呟く。
「お前に何か頼んでもいいの?」
ん? 何となく口走った言葉に御白が食いついてきたな。
「何か俺に頼みたいことでもあるのか?」
コクリと頷く御白。………ふむ。これは早速御白と話をするチャンスが訪れたかも知れねえぞ。逃す手はあるまい。
「なんだ? 言ってみろ」
できれば簡単な頼み事だと良いが。梨璃花や優奈と話そうとしたときはえらい苦労をしたからな。そんな俺の心配をよそに御白はやはり無表情で、
「お前のクラスの集合写真が欲しい。クラス全員がそろってるやつ」
とおっしゃった。
「集合写真?」
俺が眉を寄せたのも当然だろう。何故そんなものを欲しがるんだ? 俺の内心の疑問に答えるように御白は薄い唇を開く。
「ちょっと使う」
「使う? 何に使うんだ?」
「呪殺」
「謹んでお断りします!!」
「じゃあ撲殺」
「写真で?! 写真で殴るのか?!」
「じゃあ警察」
「それはおまえが行け!! 過ちを犯す前に!!」
「………偽札?」
「可愛らしく小首を傾げられてもねえ?! 俺はお前の中で何が正解なのか全く分からないからな?!」
ほんとにこいつの頭の中はどうなってんだ。どんなワンダーランドが広がってんだよ。
「今のは冗談」
「そうだろうな!!」
「本当は他殺」
「もういいよ!! さっさと集合写真がなんで欲しいのか言えよ!! もしくは不思議の国に帰れ!!」
「お前は短気………」
無表情な中にも不満げな風味を効かせた呟きを漏らし欧米の人のように肩をすくめて見せると、御白はやっと白状した。
「それは秘密です」
「結局それかよ!」
張っ倒すぞしまいには!! 片目を瞑って口元に人差し指を当ててんじゃねえ!! 可愛いじゃねえか!! あくまで無表情だけどな!!
「とにかく集合写真が欲しいんだな?」
「欲しい」
「分かった何とかして手に入れてやる。その代わり写真をお前に渡したら俺の話を聞いてくれ。それが交換条件だ」
「了解した」
言葉と同時に軽く握った両手を頭に掲げる御白。ポーズの意味は全く分からない。
こいつの行動にいちいち意味を求めていたらコミュニケーションが成立しないので俺も気にしない。
ともかく俺の取引を了承してくれたということが分かれば今はそれでいい。
………しかしあれだな。いつもながら会話には難儀したが意外とスムーズに話が進んだな。やっぱりストーカーである御白の難易度は低いと踏んだ俺の予想は正しかったということか。
だがまだ油断は出来ない。
現在俺のクラスには集合写真など無い。このメンバーで初めて集合写真を撮る機会はおそらく卒業旅行の時だろう。
だがそこまで待つ時間は俺には無い。ならば必然的に俺がクラスメイトに呼びかけて集合写真を撮らせてもらうしかないということになる。
………これは意外と難題かもしれないぞ。さてどうやって頼んだものか。
頭を悩ませているとまだ軽く握った両手を頭に掲げるポーズ持続中の御白と目が合った。彼女はおもむろに口を開いた。
「帰り道にいる触ろうとすると頭を両手でガードする猫のポーズ。」
「知らねえよ!!」
せめてもうちょっとメジャーなネタにしてくれ! ローカルすぎるわ!!
ちなみにこの後、御白が件の猫の動画をツイッターに投稿してみたところ、わずか数日で数千件のリツイートを稼いだそうな。いいね!!
いかがだったでしょうか エキセントリックな御白と彼女に翻弄される嵐蔵を楽しんでいただければ幸いです
次回は嵐蔵の友人たちが活躍するかも? そして御白の意外な反応とは? 乞うご期待です!




